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勇者、街に到着する

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「え? 街に入るには身分証が必要なんですか?」


たどり着いたユタムの門の前で俺は絶望に似た焦りの表情を浮かべながら固まってしまう。

馬車に乗せてもらい、ユタムの街にようやく辿り着いた俺はその門を守る衛兵さんに早速止められてしまったのだ。

なんでも、街の中に入るには冒険者なら冒険者証、商人ならば商人手形、それ以外の旅の人間でも身分を証明する何かしらの物が必要らしい。


当然ながらある日神によって殺されて、その神の頼みで突然この世界に来た俺はそんな物を持ってなどいない。

衛兵さんに身分証を見せてくださいと言われて俺はあからさまにオロオロとしてしまった。

「旅をする物ならば住んでいた街で身分証を発行したと思うのですが……」


と衛兵さんは言う。
その口ぶりは持っていて当然でしょうというような感じである。

ここで持っていないと言ったらめちゃくちゃ怪しまれそうな気がする。

というより、心なしが衛兵さんの目が既に怪しんでいるように見える。

俺がモタモタとしていると、俺の後ろにいたハンクさんが助け舟を出してくれる。


「あー、こいつどうやら森で魔物に襲われて荷物を無くしちまったらしいんだ。出会った時には水を入れた皮袋すら持ってなかった。まぁ、悪いやつじゃないってことは俺が保証するよ」


衛兵さんはハンクさんに諭されて

「わかりました。じゃあ、この街に入るのは許可しますが、出て行く時にはこの街で身分証を作ってくださいね」


と通してくれた。
どうやら、疑われていると感じたのは考え過ぎだったらしい。


無事に門を通り抜けた後、俺はハンクさんにそっとお礼を言う。


「すいません、ありがとうございます」


と。出会った時に荷物を持っていなかったのは事実だが、俺は襲われて荷物を無くしたとは言っていない。

あれはハンクさんが咄嗟についた嘘である。


「ああ、気にすんな。お前にどんな事情があるのかはわかんねぇけど、悪い奴じゃないってのは確かだからな」


優しいハンクさん達に甘えて、ついでに俺は冒険者ギルドまでついて行くことにした。

ハンクさん達はそこで達成した依頼の報酬と倒した魔物の換金をするそうなのだが、オーガの分の換金を分けてくれるそうだ。

身分証に次いでお金も持っていない俺にはなんともありがたい話である。


行商人のトーマスさんとはここでお別れである。

トーマスさんはこの後商業ギルドに行って、品物の納品を済ませるのだそうだ。


「皆さん、本当にありがとうございました。これも何かの縁ですから、もしナナカルに立ち寄った際は私の店にいらしてください」


と最後にトーマスさんは名刺のようなものを渡して帰って行った。

名刺には俺の知らない言葉で店の名前や住所が書かれていた。不思議なことに俺はその文字を見たこともないのに読めばその意味を理解できた。

もしかしたらすんなりと伝わるハンクさん達の言葉も本当は俺の知らない言語で、不思議な力でなんとなく理解できているだけなのかもと俺は思った。


トーマスさんと別れたあと、ハンクさん達の後について冒険者ギルドへ向かう。

ユタムの街は陽が沈んだあとも街灯に灯りが灯り、そこそこに賑わっていた。

街灯の燃料はなんなのだろうか。電気ではないだろうし、ガスか何かなのかなと俺が考えているとリーリャさんが教えてくれた。


「あれは魔道具っていう魔法の道具で、魔力をエネルギーにして光ってるんだよ。暗くなる前に街の魔法つの人があれに魔力を注いでいって、夜になると綺麗に光るの」


と耳打ちで教えてくれるリーリャさんに俺は少しドキドキした。

女性に耳打ちをされたからというわけではなく、まるで考えを読み取ったかのように教えてくれるリーリャさんに対してである。
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