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勇者、街に到着する
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しおりを挟む冒険者ギルドはユタムの街の門からそう遠くないところにあった。
街の中心部ではなく、門から近いところにあるのはもしも魔物が街を襲ってきた場合にすぐに出動できるようにするためらしい。
「といっても、街が魔物に襲われたことなんて一度もないんだけどね」
とセーラさんは笑っていた。
扉を開けて中に入るとそこは酒場のような雰囲気だった。
俺の知るゲームやアニメの冒険者ギルドといえば、中には屈強な戦士達が大勢いて入ってきた人を鋭い目つきで睨みつける。
そして、若い冒険者が入ってきた時は難癖をつけて絡みに行くようなちょっと野蛮な雰囲気の場所である。
しかし、ここはそうでもないようだ。
確かにガタイのいい屈強そうな男達が大勢いるが、誰一人開いた扉など気にしていない。
皆お酒を飲むことに夢中なようだ。
どちらかというと田舎町にあるおじさん達が集まる個人経営の居酒屋をただ広くしただけ、というようなそん感じがする。
「ごめんね、拍子抜けしたでしょ。街が平和すぎて、陽が暮れ始めるとみんなすぐにお酒を飲み始めちゃうの」
とセーラさんは恥ずかしそうに笑っている。
ハンクさんは中に入るなり声をかけてきた顔見知りらしい何人かの冒険者達に挨拶を返しながら建物の奥へと進む。
お酒や食事を売るところとは別にカウンターがあり、受けた依頼の報告はそこでするようだ。
ハンクさんが受付に行くのと同時にタタルさん達は懐からそれぞれ本を取り出してセーラさんに預けてはじめる。
その本は大きさも表紙の感じも俺の持っているステータスの本によく似ている。
本を集め終わったセーラさんが俺の方へやってきて
「はい、ハルさんも冒険者手帳を出してください。よかったですね! これは失くさなくて。これがないと倒した魔物の数がわかりませんから」
と言った。
どうやら、このステータスがわかる本は冒険者手帳と言って冒険者になった人は誰でも持っている必需品らしい。
「ステータスのところは本人にしか見えませんが、倒した魔物の数はこれでわかるんです。これをギルドに提出して倒した証明をすることで、お金をもらえるんですよ」
と説明してくれるセーラさんを他所に俺は少し残念な気持ちになっていた。
なぜかといえば、ステータスを見れる不思議な本が俺の個人の特別なスキルなどではなく冒険者ならば誰もが持っている普通アイテムだったからである。
せっかく異世界に来たのだから、何か特別なスキルを期待していたわけだがどうやら俺にあるのは本来の体よりも強靭な肉体とレベル1には見合わない強い防具だけのようである。
その二つに関しても夢で見た勇者が傷を負っていたことから決してチート級のアイテムではないことはわかっている。
となると、魔王を倒すには俺自身がどうにかして強くなる必要があるわけで……なんとなく先にが思いやれる。
そんな俺の心配をよそに、セーラさんは俺の分を含めた全員分の冒険者手帳を持ってハンクさんとは違う受付に向かって行く。
どうやらセーラさんが向かった方が倒した魔物を換金するための場所らしい。
セーラさんはそこで受付の女性に冒険者手帳を渡して、少し待ったあと女性が持ってきた紙の書類と恐らくお金が入っていると思われる皮の袋を前にして女性の話をうんうんと頷きながら聞いている。
倒した魔物と書類の内容が逸していているか確認しているようだ。
セーラさんは何やら驚いたような顔をした後に受付の女性の持つ書類を覗き込んで自ら目を通し、それから取り繕うように笑ってからお金を受け取って戻ってきた。
「ハルさん、私と会う前に結構な数の小鬼を倒してたんですね。予想してた金額よりも受け取った額が多くて焦っちゃいました」
と照れたように笑うセーラさんはやっぱり可愛らしかった。
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