妖精猫は竜の背中で爪を研ぐ

六山葵

文字の大きさ
13 / 24
竜と猫

13

しおりを挟む
二人の争いを止めたのは国王のトーマ・ヒーズルだった。

「待て」

その一言で言い争っていた二人が口を紡ぐのだから、彼の権力の大きさを伺い知れる。

「タクマの言っていることは最もだ。しかし、ユーマの言葉は理にかなっている」

トーマはそう言って二人を見やる。
国王自身、まだこの件をどうするべきか決めかねているようだったが、それでも彼は言葉を続けた。

「これは思っているよりも慎重になるべきことだと思う。一度討伐隊を送り出せば、炎龍との争いは止められまい。そうなれば、この王都にまでドラゴンの火が吹きかねんのだから」

トーマはそう言って「しっかりと情報を精査してから行動すべき」というユーマの案を取り入れた。

場所が場所だったからこそタクマは表立って顔には出さなかったが、その決定を快く思っていないのが見て取れる。

「こういう場でなければ、魔法でその腹の中を明かしてやるのに」

ソーヤは内心で舌打ちをして、タクマのことを睨みつけた。

会議が終わるとユーマは自室に戻り、ソーヤのことも呼びつける。

部屋に入るなり彼は大きくため息を吐き、それからソーヤの方へ視線を向けた。

「一つ、頼みを聞いてくれないか」

そう懇願するユーマの前でソーヤは間を空けずに頷いた。

こうなること「予測していたわけではないが、彼のためになるのならどんなことでも引き受けようと普段から心構えをしている。

「ナルコスの山岳地帯に行って、炎龍にあって来て欲しい」

ユーマの頼みは予測のつく範囲内のものだった。

「敵対の意思があるのか、確認するのですね?」

ソーヤが問う。
ナルコスの街にはトーマ王が兵を派遣し、しっかりと実情を調べる手筈になっているが、それとは別に「動け」ということだろう。

ユーマは頷き、それから

「それだけではない」

と続けた。

他に何が……、とソーヤは口走る。

まさか炎龍を討伐してこいというわけではないだろうし、その他に自分にできることがあるのかわからなかった。

「タクマのことだ」

とユーマが弟の名前を出す。
それだけでは話の先が見えてこない。

「これは勘だが、アイツは何か企んでいるような気がする。『炎龍を討伐する』という目的以外の何かだ」

「それを探ってこい、と?」

ソーヤが尋ねるとユーマは静かに首を縦に振った。

「私がお前にこうして頼んでいるように、アイツも自分の手の者に何かを命じているはずだ。それを踏まえ、道中……それに着いてからも十分に注意してほしい」

その口ぶりはまるでタクマ王子がこちらに何か危害を加えるのを確信しているようだった。

ソーヤも彼のことは嫌いだが、まさかそこまでするか? と内心で訝しんでしまう。

「何か根拠が?」

ソーヤがそう尋ねるとユーマは口を継ぐんだ。
話すべきかどうか自分の中で精査しているようだ。

だが、話しておくべきだろうと心に決めたのか

「『ドラゴンの心臓には魔力を高める効果がある』という情報をアイツは信じているようだ」

と告げた。

途端にソーヤは咽込んでしまう。
まさかそんなはずはないと忠誠を誓った主人相手に笑い飛ばしてしまうところだった。

「あれって、子供騙しの眉唾物ですよ?」

そういう話があるのは知っている。
どうも、以前炎龍が王都に現れた時に生まれた噂のようだ。

だが、その信憑は薄い。
何しろ、実際にドラゴンを倒してその心臓を食べた者がいないのだから。

おおかた討伐隊の人間が炎龍退治に怯えないように作られた嘘だろうとソーヤは予測していた。

「だが、アイツはそうは思っていないようだ」

ユーマの言葉にソーヤはため息を吐く。

これが彼の考えすぎかどうかは行ってみれば答えが出る。

そもそも自分に断ることなどできないのだ。
命を助けられたあの日に、この第一王子に全てを捧げると誓ったのだから。

そのすぐ後にソーヤはナルコスの街に向けて出立した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

処理中です...