妖精猫は竜の背中で爪を研ぐ

六山葵

文字の大きさ
20 / 24
竜と王国

20

しおりを挟む

「おとしゃん、見てー」

案内された部屋に入るなり、マオは窓際まで走って行き街を眺めた。

ソーヤに連れられて私たちが来たのは王宮の一室。

普段ならば他国からの来客があった時などに使われる部屋らしい。

人間の美的感覚は私にはわからないが、リディアやレンリが息を呑みながら部屋中を見回していたので相当すごい部屋のようだ。

「夕食は大広間にご用意させてもらいます。師匠とレンリさんには隣に別室を用意しますね」

元々は私とマオの二人の予定だった。
部屋が手狭になると判断したのか、ソーヤが気を回す。

「おとしゃん、外がすごい明るいよ」

マオが目を輝かせる。
日が暮れ始め、レイテオ山ではすっぽりと闇に包み込まれる頃合いだ。

しかし、確かに街は明るかった。
建物に灯る火が窓から漏れ出ているだけではない。
街中に張り巡らされたランタンが闇を照らしている。

「今日と明日は建国祭ですから。街の外からも人が訪れて、いつもより活気がありますね」

とソーヤが言う。
その言葉にマオは興味を示した。

「お祭りってなに?」

と純粋な瞳で私に尋ねる。

子供の質問には答えてやるのが大人の責務というものだ。
教えてやれば、マオは尊敬の瞳で私を見るかもしれない。

だが……。

「お祭りってなんだ……?」

人間の文化に疎い私にはそれを説明できるだけの知識がなかった。

いや、「祭り」という言葉自体は知っている。
昔旅をした勇者もたまにその言葉を言っていた。

しかし、それが何をするものなのかまでは知らない。

私の横でリディアがため息を吐く。

「まったく、だらしないねアンタは。いいかい、マオ。お祭りっていうのは人間の行事さね。人間は集まって飲んだり食べたり大騒ぎをするんだよ」

とリディアが答える。

「なんで?」

「なんでって……そりゃ、なんでだい?」

エルフのリディアにもわからないことがあるらしい。
マオの追撃に応えかねて、彼女の視線はレンリを頼った。

「神様やご先祖様に感謝をするんです。『今年もこんなに元気に過ごせました』っていう報告と『来年も元気に過ごせますように』ってお祈りするの」

「今回のは建国祭だからな。こんなにいい国を作ってくれた勇者様にみんな感謝するのさ」

レンリとソーヤがマオに説明する。

そうか、そういう意味があるのか。

と納得している場合ではない。
マオの尊敬の眼差しが二人に注がれてしまった。

おのれ、二人とも。
マオのご機嫌をとるとは……。

「もっと近くで見たい!」

目を輝かせたマオがそう言い出すのは誰しもが予想できたことだ。

ソーヤはクスッと笑い

「明日な。ちゃんと街を見る時間も作ってある」

と言ってマオの頭を撫でた。



夕食を済ませた後、私はソーヤの案内でユーマ王子の私室に向かっていた。

「ぜひ話がしたい」という彼の願いに応えたのだ。

わたしの隣にはリディアがいる。

「アンタが王子相手にまともな態度を取れるはずがない」

と失礼なことを言ってついて来たのだ。

マオは部屋で休み、レンリがそれを見てくれている。

正直、心配はある。
マオの側を離れてもいいのか、と。

ソーヤが手配してくれた衛兵が部屋の近くを見回ってくれているし、危険はないようにも思うが、私に反感を持つタクマ王子がいるからな……。

レンリのことはさすがに信頼しているが、もしも襲われたら彼女にどうにかできるのか。

そう思っていたのだが、

「大丈夫です。マオちゃんを守るためにお店から色々と魔法道具を持ち出して来ましたから」

と彼女は張り切っていた。

ナルコスの街で起こった事件を踏まえ、今度は危険な目に合わせないようにと準備をしてきたらしい。

その彼女の張り切り具合と、

「少しなら大丈夫さ」

というリディアの言葉を信じて、私はマオを部屋に残して来たのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

処理中です...