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故郷からの使者編
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しおりを挟む「つまり、お前を呼び戻そうとしていたのは弟の方だが、その弟は捕まり代わりに呼びつけたのが兄、というわけか」
レオンの話を聞いているのは女王シェイドである。
場所はいつもの円卓の間。いつもと違うのは用意された十三の席全てに魔法使いが座っている。
女王シェイドの他にレオンを含めた十二人の賢者が揃っているというわけである。
「お言葉ですが賢者レオン。あなたはそれでも国へ戻るおつもりですか?」
事のあらましを説明するレオンに対しそう聞いたのはレイーヤという女性の賢者だった。
ナッシュよりも少し年上で、そのぶん賢者になっての歴も長い。なにより、その卓越した状況判断能力は女王シェイドからも頼りにされ、国の参謀も勤めている。
「一応言っとくが、間違いなく罠だぜこれは。話を聞く限り、そのアーサーって王子にはお前を呼び戻す利点がない。のこのこやってきたお前を今度こそ悪人に仕立て上げようって腹さ」
レオンが国に戻ることに反対なのか、ぶっきらぼうにカールが言う。カールが反対しているのは単純にレオンがいなくなると遊び相手がいなくなるからだろうが、その発言は的を射ていた。
「そうですね。わざわざトッド・コーファスの懐に手紙を入れるあたりそう単純なものでもないでしょうが、何か罠があるのは間違いないでしょう」
カールの発言をレイーヤが支持する。
本当にレオンを悪人に仕立て上げるつもりならば、トッドをわざわざアルガンドに放り込まずに使者を使って正面から知らせを入れればいい。
ヒースクリフからの使者だと名乗ればレオンは疑うことなく国に戻っていただろう。
しかし、そうしなかったというところがレイーヤは気になっていた。
アーサーにレオンを呼び戻す利点がない以上、何らかの罠があるのは確実。
しかし、それでもレオンは帰る以外の選択肢を思いつかなかった。
「ヒースクリフは友人です。僕のためにこの五年間本当に頑張ってくれたんだと思う。ただ、仲間が呼び戻してくれるのを待っていたこの五年間、僕は自分の力のなさを痛感していました。……今度は僕が仲間の力になりたい」
レオンの目を見て女王シェイドは笑う。
ずっと迷っていたことを心に決めた笑いだった。
「この国で賢者になったお前が『力がない』か。……いいだろう。お前が国に戻り、お前の友人を救うと言うのなら私も力を貸そう」
シェイドが切り出したのはレオンが国に戻る際に三人の賢者を共につけるというものだった。
その提案に円卓に座る賢者達はにわかにざわついた。
実力主義者で、民のことを重んじるシェイドといえどその発言は前代未聞である。
なにせ、アルガンドの国はシェイドが女王になるずっと前から他国との外交を禁じているのだ。
国民が外の国いくことは滅多になく、唯一国外で活動しているのは他国の情報をアルガンドに伝える諜報活動をする者だけだった。
レオンにとっては願ってもいない話ではあるが、なぜシェイドが自分にそこまでしてくれるのかはわからなかった。
「いいか、お前が国に戻ると決めたからといって氷の洞穴の試練はそう単純なものではない。アレに受かったからにはお前は賢者なのだ」
賢者である以上、アルガンドの国民でもある。国民を守るのは女王の勤めだ、とシェイドは言った。
レオンは思わず賢者達の顔を見る。
シェイドがそう言っても他の賢者達がよく思わないのではないかと考えたのだ。
しかし、賢者達は思いの外乗り気だった。
最初にざわついたのは「なぜレオンのために我々がそこまでしなくてはならないのか」ということではなく、「外の世界に行けるのか」という期待感から来るものだったらしい。
一度外の世界を見ているナッシャは別として、この国で生まれた賢者は他の国を知らない。
何人か他国からの亡命者もいたが、そのもの達でさえ他国に出るのは数年ぶりだった。
皆平静を保とうとしているがその顔はどこか嬉しいそうだったのをレオンは確かに確認した。
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