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懐かしの故郷編

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レオン達が屋敷に逃げ込んだ頃にはすっかり夜も更けていた。

そこから準備して王宮に忍び込むのでは時間がかかりすぎて朝になってしまう。

そこで、一日体を休めて王宮への潜入は次の日に実行することになった。

オルセン侯爵の計らいで温かい食事と風呂、そして柔らかいベッドが用意された為レオン達はその好意に甘えることにした。

侯爵という高い地位のなせる技なのか、屋敷はとても広く。地下の隠し部屋以外にも多くの部屋がある。

二人ずつ部屋を借りることができたため、レオンはマークと同室になった。


「なんか学院を思い出すな」

二人は学院の寮の部屋を思い出したが、あまり深い思い出話はしなかった。

問題が全て解決して、落ち着いて話せるその日まで取っておいたのだ。

翌日の朝早く、屋敷の呼び鈴が鳴る音でレオンは目が覚めた。

マークと顔を見合わせ、すぐに地下室に身を潜める。

アーサー派の魔法使いが侯爵家の人間の家に無理矢理押し入ることは考えづらいが、もしも来客があった場合は地下の隠し部屋に避難するのはオルセン侯爵が決めたルールだった。

地下室の扉を閉めると外の声はほとんど聞こえなくなる。

オルセン侯爵が何かを話しているのはわかるが、その内容までは聞き取れない。

相手の声もして、何回か言葉が交わされた。男の子声だった。

そしてその後、コツコツと足音が近づいてくる。

こんな朝方にヒースクリフ派の人間が逃げ込んできたのだろうか、とレオンは疑問に思う。

もしくは、オルセン侯爵が裏切りレオンがやって来たこのタイミングでアーサー派を招き入れたのかもしれない。

レオンはオルセン侯爵との面識がない。一見するといい人のように見えるし、マーク達も信頼しているようだ。

しかし、その実情はどうなのかは決してわからない。

「もっと警戒しておくべきだった」とレオン後悔した。

部屋の隠し扉である書棚の本を入れ替える音がする。

レオンは思わず構え、息を飲んだ。


「皆さん、『大商人』がいらっしゃいました」

扉が開くよりも先にオルセン侯爵の声がした。
大商人とは誰か、とレオンは考えてすぐに思いつく。リッヒにヒースクリフ派の支援を依頼した人物だろう。

レオンはリッヒから話を聞いた時から初老でシルクハットを被り、立派な顎ひげを携えた利発そうな男を想像していた。

やり手の商人のイメージだ。
しかし、実際はそのイメージから程遠い人物だった。

「久しぶりー、元気だった?」

何とも締まりのない声で人を揶揄うような特徴的な笑い方をしながら入ってきた人物。

「クエンティン先輩!」

レオンのよく知る人物。学院の南寮の元寮長で、卒業後は何故かしがない魔道具店の店員になったクエンティン・ウォルスであった。

「先輩が……『大商人』?……なんで」

理解が追いつかないといったように目を回すレオンを見てクエンティンが笑う。

まるでイタズラが上手く行った時のような笑い方だ。


「……はぁ、わざわざ大袈裟な通り名つけといてよかった。こんなにいい反応してくれるなんて」

未だ笑いの止まらないクエンティンを見てレオンは何となく状況が読めた。
クエンティンはレオンが王都に戻ってきた時のために自らを「大商人」と名乗り始めたのだ。

レオンの知り合いであるリッヒに依頼したのは偶然だったが、リッヒの他にも何人かの優秀な運び人に依頼をしており、もしもレオンが王都に忍び込むのなら必ずそのうちの誰かを頼るだろうと見越してのことだった。

といっても、クエンティンが王都でもそれなりの力を持つ商人であることは決して嘘ではない。

五年間のうちに魔魔堂の店主に上り詰めた彼は持ち前の発想力で独創的な魔道具を量産し、それを売ることで力をつけたのだ。

それもこれも全てはヒースクリフ派の人間達の強い味方となる為だった。

あらゆる状況を想定し、常に余念なく動くクエンティンがいたからこそアーサー派の急襲にあってもヒースクリフ派が逃げることができたのである。
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