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赤の悪魔編
205
しおりを挟むレオンは王宮の廊下を飛び抜ける。
集まってきた衛兵の頭上を飛び越し、どこか外へ出る道はないものかと模索する。
衛兵達は突然現れたレオンの姿を見て驚き、魔法で迎撃しようとするがレオンのスピードの前では無力だった。
魔法を構築する暇もなくレオンが飛び去ってしまうのだ。
しかし、簡単に逃げられるほど甘くもなかった。
レオンが飛び去ってすぐ、その後ろを追うようにディーレインが現れたのである。
王宮の入り組んだ廊下という狭い場所でレオンとディーレインの空中戦が始まる。
といってもレオンから攻撃を仕掛けることはない。
先をいくレオンはまず逃げることに専念したかったし、何よりも王宮内を破壊してまで戦闘する意思はなかった。
後方に張り付いたディーレインがレオンに対し魔法を放つのでそれを迎撃しているだけだ。
ディーレインの方はアーサーの忠告など既に忘れて目の前を飛ぶレオンめがけて躊躇なく攻撃を仕掛けている。
その一つ一つが当たれば必死の猛攻で、それを防ぐだけでもレオンは手一杯だった。
爆発は王宮内で何度も起き、その轟音は王都中に響き渡る。
住民達はすぐに異変に気づき、家から姿を現して王宮の方を見つめていた。
王宮の建物が爆発によって壊れ、魔法によって発火しみるみると燃え広がる。
立ち上る大きな火と煙は嘔吐のどこにいてもわかるほどの規模だった。
オルセン侯爵家に匿われていたマーク達もその様子を見ていた。
一大事を察して全員が屋敷の外に出ている。
幸い、王都はパニックに陥っていて衛兵達も手が回らずマーク達に気づくことはなかった。
「やっぱりレオンがいない。何かあったんだ」
オードが屋敷の中から飛び出してきて告げる。
レオンが屋敷を抜け出していたことにこうなるまで誰も気づいていなかった。
騒動が起こり、初めて気づいたのだ。
「クソッあのバカ……。勝手に何してんだ」
悪態を吐いたのはマークである。
マークはレオンが何も言わずに王宮へ向かった意味をよく理解していた。
レオンは自分たちのことを「足手まとい」だと思ったのだ、と。
レオンにその気持ちはなかったが、「巻き込みたくない」と思うことと「足手まとい」はマーク達からすれば同じことだった。
「おい、俺たちも王宮に行くぞ」
マークは動ける魔法使いに声をかけ、王宮に向かおうとする。
「待て、マーク」
それを止めたのはヒースクリフだった。
ルイズとナッシャに肩を借りて屋敷から出てきたヒースクリフは王宮の方を見つめている。
「あのレオンが自ら騒ぎを起こすとは思えない。……これだけの騒ぎになったということはそれだけ『強者』があそこにいるということではないか」
ヒースクリフはディーレインのことを知らない。
正確には幽閉された時に出会っているのだが、その記憶をディーレインの魔法で消されてしまっている。
しかし、その肌で感じた強い魔力を体が覚えていた。
燃え上がる王宮の方からその強い魔力を僅かに感じ取ったのだ。
「たしかに強い奴がいるのかもしれない。でも、だから俺たちに行くなって言うのか。俺たちじゃ『足手まとい』ってことかよ」
マークが声を荒げるが、オードがそれを宥める。
マークの悔しさはオードもよくわかるものだったが、それはヒースクリフに八つ当たりしても解決しない。
「違う……そうじゃない。無闇に動くのはやめろと言っているんだ。何か、策を練らねば……」
ヒースクリフは話の途中で息も絶え絶えになり、その場に崩れ落ちてしまう。
ルイズが肩を抱き、支えるがもはや立っているのも辛そうな状態だった。
未だ体力の癒えていないヒースクリフには立って歩くだけでも苦しいのだ。
その姿を見てマークもそれ以上何も言えなかった。
「もし……我らに任せては貰えないだろうか」
話を遮ったのはアルガンドの賢者ガジンであった。
オルセン侯爵家に負いてあった茶色い外套を纏い、フードを被っている。
その後ろには同じ姿をしたカールの姿もあった。
「我らはレオンと共に悪魔に対抗するため修練に励んできた。今感じるのは明らかに悪魔の魔力。我らならば太刀打ちできるかもしれぬ」
ガジンの言葉にはところどころ嘘が含まれている。
精霊の力のことは他国には公にできない事情があるため、そう話すしかない。
マーク達にはそれが真実かどうかはわからない。
しかし、魔法使いとしての実力の差は歴然だった。
強者の申し出をマーク達が断わることはできない。
「ガジン殿、私も連れて行ってください」
ヒースクリフのそばにいたナッシャが立ち上がるが、ガジンは首を振った。
「ならぬ。今のお前では太刀打ちできない相手だろう。彼らと共にここで待て」
同じ賢者でありながら、ナッシャは今精霊の力を失っている。
王宮から感じる魔力はレオンに匹敵する強さだとガジンにはわかっていた。
連れて行けるのは同じ賢者のカールのみ。
ナッシャの安全も考えれば当然の判断だった。
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