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精霊王の下へ編

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「一体何が問題なんだい?」

レオンはアーティアに聞く。
すると、アーティアが答えるよりも前に森がざわざわと騒がしくなるのだった。

「はぁ……来ましたわ。時間をかけすぎました」

アーティアがため息をつく。他の二人の精霊も同じように困り顔だ。

一体何が始まったのかと困惑しながら周囲の森を見回すレオン達。

アーティアは諦めたように言った。

「一先ずやり過ごしましょう。いいですか、何をされても声を荒げず、目を合わせず、知らないふりをしてください。そうすればすぐに飽きていなくなりますから」

アーティアはそう言うとレオンの体の中に入り込む。他の二人の精霊もそれに続いた。

アーティア達が姿を隠してすぐ。

森の喧騒が一際大きくなった。
初め、レオンにはそれが森の木々が風に揺れて木の葉が擦れる音にしか聞こえなかった。

しかし、だんだんとそれは違う音に聞こえてくる。

「クスクスクス……人間だ」

「本当だ人間だ」

「珍しいね、人間だ」

「人間だよ。遊んでくれるかなぁ」


森の喧騒は次第に人の声に変わり、固まるレオン達の周りをぐるぐると声が取り囲む。

それは明らかに一人や二人のものではなかった。

もっと大勢の何かが森の中に潜み、レオン達を見ている。

「おい、なんだこれ。どうなってんだ」

マークが周囲を警戒し、腰の剣に手をかける。
腰には剣が二本刺さっていてマークはそのうちの一本を抜こうした。

しかし、それをレオンが止める。


「ダメだマーク。アーティアの言う通りにしよう」


ここは精霊に連れてこられた土地。
レオン達は今、右も左もわからない状態である。

ただ、こんな状況でもハッキリとわかることもある。

それはアーティアがレオン達に悪意を持つ存在ではないということだった。

彼女達の魂をその身に宿したレオンにはアーティアが心からレオン達を手伝いたいと思っているのがわかる。

だからこそ、こんな状況でもアーティアの言った「何もしないで」という言葉を信じることができた。

レオンはアーティアを信じ、マーク達はレオンのことを信じる。

四人は言葉に囲まれたまま、身動き一つせず視線も固定して、声も聞かないように努めた。

そんな状態が数分続くと、レオン達を取り囲む声の主達は明らかに飽きたような様子だった。


「なんだ、見えないのか残念」

「帰ろ帰ろ、おうちに帰ろ」

「残念だなぁ、久しぶりだったのに」

「遊びたかったよぉ。残念残念」


そんな声が聞こえてきて次第に声は遠ざかり、騒ついていた森の木々達がパッタリと静かになる。

漂っていた緊張感から解放された四人は一斉に地面に腰を下ろした。

「なんだったのアレ」

「わからない。人じゃないみたいだったけど」

ルイズとオードがくたびれたように言うと再びレオンの体の中からアーティア達が姿を現す。

「申し訳ありません。説明に時間をかけすぎました。また彼らがやってくる前に簡潔に説明しますが、先ほどのあれは精霊なのです」


飛び出してきたアーティアは本当に申し訳なさそうに謝罪した後、レオン達に喧騒の正体を告げる。

レオン達を取り囲んだ声の主達とはアーティアと同じような精霊であった。

彼らは精霊王の庇護のもとこの森に住み、暮らしている。

「なんだ、精霊か。ならあんなに警戒することもなかったな」

マークが呆れたように言う。
精霊とは本来、人にとって有益な存在だ。

アーティア達のような人の体に共生する者達は珍しいが、魔法使いであれば召喚魔法で精霊を呼び出すこともあるため、身近に感じる存在だった。

「いえ、彼らには最大限の警戒が必要です。精霊王様に会えない最大の原因が彼らなのですから」


しかし、アーティアはそんなマークを嗜めるように忠告するのだった。
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