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新たな時代編
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しおりを挟むマークはもう一度周囲をよく見渡して自分がいる場所をしっかりと確認した。
真っ白で威圧感のある大きな門とその奥に見える見慣れた王宮。
紛れもなく王都にある王宮の前に立っていた。
マークは何が起こったのかわからず……正確にはレオンにそれができるとは思いもよらず困惑した表情でレオンを見た。
「お前、それ……」
「知ってるだろ? シュドラの転移の魔法さ」
戸惑うマークとは対照的にレオンは得意げだった。
マークは自分の記憶を思い起こしてみる。
悪魔であるア・シュドラという女性には確かに転移という固有の能力があった。
そして、レオンがシュドラの魂を取り込んだ時にレオンにもその能力が使えるのは知っている。
では、レオンは今もシュドラの魂を体に宿しているのだろうか。
マークの知る限り、答えは否だった。
アーサーとヒースクリフが王位を巡って争ったあの戦い。最後の最後にアーサーの切り札として出てきた巨大な魔導人形を倒すためにレオンが悪魔達の魂を一度取り込んだことをマークは後から聞いた。
しかし、魔道人形を倒した後レオンは再び悪魔達の魂を外に出したはずだ。
シドルト族という特異な体質の少女にシュドラの魂が戻ったことをマークは覚えていた。
「お前、一体どうやって」
マークには不思議でしょうがなかった。
シュドラの魂を宿していないレオンが一体どうやって転移の魔法を使ったのかが。
レオンは戸惑っているマークを見て少し楽しんでいるようだった。
いたずらっ子のように笑った後で種明かしをする。
「実は、あの戦いの時シュドラの魂の一部が僕の中に残ったみたいなんだ。そのおかげで彼女の能力を僕も使えるようになったのさ」
それは悪魔と人間の魂が共有されてしまう現象だった。
レオンがかつて命を救った少年、エイデンもこの魂の同化によって一時的に悪魔の力を使うことができるようになっていた。
それと同じ現象がレオンにも起きたのである。
「本当かよ……それ、シュドラだけか? ダルブや、もう一人の悪魔の子もなのか?」
「うーん、ディーレインが言うには多分他の二人の魂も僕の中に残ったんだろうって。でもまだ使えるのはシュドラの能力だけなんだ」
レオンは自分の手のひらを眺めながら語る。それは、まだその能力がレオン自身にも解明できていないのだということをマークに印象付けた。
マークはとんでもないことをやってみせたレオンに正直驚きを隠せないでいたが、なんでもないことのような顔をしているレオンを見て、やがて毒気が抜かれてしまう。
「……はぁ、お前そんなことができるならマルクスを送ってやればよかったじゃないか」
マルクスはおよそ三日間ほどの馬車の旅をしなければならないが、レオンのこの力を使えば王都には一瞬でつける。
今頃馬車の中で退屈な思いをしているだろうマルクスを少し不憫に思った。
「僕だってちゃんとわかってるんだよ。入学までのあの旅には魔法使いとして一人前になるための準備時間が含まれてるってことくらい。転移であっという間に移動したんじゃマルクスのためにならないじゃないか」
レオンは取り繕うようにそう言った。
レオンも転移で送ってしまおうと考えたようだが、マルクスのためになんとか思い踏みとどまったという様子だった。
「まぁ、いいさ。ほら早く行こうぜ。ヒースクリフ達もこんなに早く着くとは思ってなかっただろうから驚くだろうけどな」
マークは先程までマルクスのことを心配し続けていたレオンの姿を思い出して少し笑いながら門をくぐる。
レオンはマークが何やら含んだ笑いをしているので少し膨れっ面になりながらもマークの後を追った。
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