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本編
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再会したしたのは、空じゃない。
空に似た全くの別人“葵”。
そう思わなければ受け入れる事ができなかった。
だって彼は私の知っている“空”ではなかったから。
気がつくと、部屋の中に日差しが差し込んでいた。
太陽はすでに高い位置に昇っているのだろう。
どれくらい寝たのだろうか。
いや気を失っていただろうか、と言う方が正しいのかもしれない。
あれから・・・何度も空に抱かれた。
一方的な行為で。
何度もイかされ、意識を失いながらもその度に空が激しく攻め立て意識を取り戻しそして再び快楽の渦へと誘われていった。
私の記憶では今朝と断言できる時間まで彼に翻弄されていた。
・・・・そう言えば空は?
ようやくそこまで思考が戻っていた。
ゆっくりと周りを見渡す。
しかし物音一つしない。
そして気付く。
意識を最後に手放す瞬間に見た景色が今と変わっていた。
私がずっと抱かれていたのはリビング。
でも今私がいるのは寝室で、しかもベッドの上。
空が・・・・運んでくれたのだろうか。
いや、確実にそうだと思う。
けれど、その僅かな気遣いさえも疑ってしまうほど、昨日の扱いは・・・。
体を起こそうとしたが、体中が悲鳴を上げて敢え無くベッドに再び倒れこむ。
様々な体勢で抱かれたし、硬い床の上でも抱かれた。
何よりも普段使っていない筋肉まで酷使させた。
そのせいだろう。
ははっと悲しみを含んだ笑みを浮かべ、天井を見上げた。
あの時の空もこんな感じだったのかもしれない。
10年前、無理やり私にせまられて、それを拒めず、理性よりも本能が勝って。
我に返った瞬間、私に非難され、傷つけられて。
そんな状態のままで空の前から消えた。
彼に弁解の余地を与えることなく。
今の私は、たぶんあの時の空と同じ立場だ。
暴言を吐かれなかった分、相手に気持ちを寄せていない分、私の方がマシかもしれない。
とすれば、空は・・・・・・・やはり相当傷ついて、打ちのめされたということだ。
バカだ、私。
もっと早く空と話をすればよかった。
あの後、すぐに会いに行けばよかった。
そうすれば・・・・少しは空の心も癒えていたかもしれない。
本当に今更だけど。
とりあえず、今はまずこの状況から抜け出すことが先決。
このままベッドに張り付いた状態ではいられない。
そう思い、体に鞭打ち、呻き声を上げながら、時間をかけてようやく立ち上がった。
が、すぐに腰砕け状態。
そのままストンと床に倒れこんだ。
うそ・・・
どうしよう・・・。
まさかここまで自分の体が言う事をきかないなんて。
しかも・・・・しかも改めて見れば、体中に赤い痣のようなものが。
おまけに体中がベタベタ。
とにかくお風呂を借りよう。
すぐ目の前に目的が出来たことでなんだか体も少し動くようになった。
その勢いで壁に寄りかかりながら、ようやく寝室から出る事ができた。
リビングには私の服が散乱したまま。
まるでそれが空にボロボロにされて捨てられた私のように感じ、胸が痛くなった。
そしてリビングを見渡す。
やはり空はいない。
きっと仕事だ。
忙しい彼がこんな時間まで家にいるはずない。
それに今頃気付き、また自分の馬鹿さ加減に溜息を吐いた。
再び体を動かし、服を一つずつ拾い上げ、胸に抱え込むとそのまま浴室に向かった。
シャワーを浴びた後、ほっと一息いれて、持ってきた鞄を手繰り寄せ、携帯を確認する。
メールは1件のみ。
私の唯一の親友、加納 真紀からだった。
― 月曜日のランチは外に行かない?―
― いいよ。私もその方が助かる ―
そう返信して携帯を閉じた。
何か話があるのだろう。
そうでなければ、社員食堂で済ますもの。
それに、私も話がある。
これからの自分の起こす行動について。
空は昨日、全てを捨ててと言った。
それを私は了承した。
つまりそれは真紀とも関係を断つということになるのだろう。
ちゃんと真紀が納得できる嘘がつけるだろうか。
きちんと誤魔化せるかわからない。
真紀は鋭い。
だからこそ慎重に言葉を選ばなければ。
そんな事を考えながら、何気なく受信した日時を見るとそれは昨日の夜。
全く気付かなかった。
でも・・・・たとえメールに気付いても返信どころか、そのメールの中身さえも見れなかっただろう。
だって・・・・
チラッとソファを横目で見た。
白いソファは、見事にシミが出来ている。
しかも広い範囲で。
床の上に敷かれているラグも少し白みを帯びている。
ぱっと顔を背けた。
まさかあそこまで自分を見失うなんて・・・
記憶が断片的で思い出せない部分もあるが、途中、私は彼の上に跨っていたような・・・。
そして彼に突き上げられながら、私・・・・
思い出した瞬間、カーッと顔が熱くなった。
そこまで私はいやらしい人間だったのだろうか。
私は空にただの性処理の対象として扱われたのに・・・
首を振り、頭からそれを追い払う。
あの日、空を傷つけたあの時から私は誰とも肌を合わせていない。
もちろん誰かと付き合うことさえも。
空が幸せになるまでは・・・
空への償いといっては大袈裟かもしれないが、少なくともどこかでそう言う気持ちがあったのだと思う。
今はそれが間違いではなかったのだと思えた。
それも全て昨日の空の態度を見てから。
遠い日の空は、存在しない。
昨日、目の前にいたのは別人の空。
憎しみや怒りを内に秘め、そして冷酷な眼差しと言葉、そして行動をする空。
全ては私の罪。
それを痛感したから昨日、彼を受け入れることにした。
なのに・・・・・昨日のあれは何?
罪の意識どころか、身体は空の愛撫に溺れて意識まで手放す程、快楽を貪る女と化してしまった。
これじゃ、私は空の言ったとおりの人間そのままじゃない。
自分の馬鹿さ加減に泣きたくなった。
いつまでもこうしちゃいられない。
少しずつ体が回復してきた頃、とりあえず帰ろうと立ち上がった。
が、すぐにこの家の鍵を持っていない事に気付き、どこかにないかと顔を四方に向けて探す。
すると、意外と簡単に見つかった。
キッチンカウンターの上にぽつんとそれらしき鍵が一つ。
良かった・・・
ほっと胸を撫で下ろし、それを掴むとそのまま玄関へ。
昨日、一度はここで履いたミュールにもう一度足を入れる。
ふと、頭を過ぎるものがあった。
もう運命は変えられない・・・んだよね。
振り返り、先程までいた部屋を見つめた。
これからはここが私の住処になるだろう。
心を持つ事が許されない場所。
ただ空のためだけに生きる存在として、私がこれから歩む場所。
言い様のない感情がこみ上げてくる。
それは虚しさなのか、それとも悲しさなのかはわからない。
ただ、考えれば考えるほど体が締め付けられていく。
こんなの、空の傷に比べたら平気よ。
そうよ、これは空が私から受けた心の痛み。
だから全て受け入れなければいけないの。
でないと、空はずっとその痛みを抱えたままだ。
今は、空にとって最善のことしよう。
心の中でそう言い聞かせながらその場を後にした。
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