黒い青春

樫野 珠代

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本編

19






あの日、僕は1日で天国と地獄を味わった


同時に希望と絶望も ―――






「青井、どうだった?!」
掲示板に張り出された紙に自分の番号を見つけたと同時に、駆け寄ってきた藤井勉(ふじい つとむ)が急かすように聞いてきた。
それを見て、苦笑しながら僕は目の前で親指と人差し指をくっ付け、OKサインを出した。
「おぉ!すげー!さすが!」
「そっちは?」
「無事に合格。」
ブイっと二本指を立て、ニカっと笑った。
勉とは小学校からの付き合い。
明るく元気で裏表のない性格で、小さい頃からクラスでも人気者だった。
そんな奴がどうして僕に構ってくるのか、未だに疑問。
だって明らかに全く異なったタイプだから。


僕はお世辞にも人気があるとは言えない。
むしろ影の薄い存在。
人見知りはするし、不器用で会話をうまくできない。
だから小学校に上がった時、教室にいてもあまり話すことなく、1日を終えていた。
そんな僕に、最初から声をかけてきたのが勉だ。
そしてクラスに馴染めない僕の手をいつも率先して引っ張ってくれた。
体育で二人一組になるスポーツだって、僕と組んでくれて。
必ず朝一番に僕に声をかけてくれる。
でもそんな勉に対しても、最初はうまく対処が出来ない状態だった。
けれど、勉はそんな僕をわかってくれて
『ゆっくりでいいよ。その方が俺達、長く続くだろう?』
そう言ってくれた。
それから勉の言うように少しずつ会話を楽しむようになって、そして今がある。
勉は最初から僕の心の引き出しを少しずつ開けていってくれたんだ。



「で?彼女は知ってんの?高校合格したこと。」
掲示板を後にして、自分の学校へと戻りながら勉は尋ねてきた。
勉には僕の恋心を話してある。
信用しているし、それに彼はいつも貴重な意見を僕にくれるんだ。
「はは、知るわけないよ。いま結果がわかったばっかりだし、それに・・・・・・話せるほど親しくもないし。」
そう。
みーと話すことはおろか会う事さえない。
あるのは・・・煽情的な吐息を壁越しに聴いていた過去。
あの関係はなんというのだろう。
あぁ、たぶんこう言うのかもな。
『ストーカー』
その考えに思わず自虐的な笑みを浮かべた。
そして今、そんな関係すらないことに心のどこかで寂しさと安堵の気持ちが混ざりあったまま存在している。


隣りにいる勉は僕のそんな心情に気付かず、話し続けている。
「あ、じゃあこれをきっかけに話せばいいんじゃね?合格したんだー、お祝いしてくれよーとか。一緒に祝おうよ、高校と大学の合格をーとか。おぉ、かなり良い考えじゃん!俺ってすげー。」
「そんなに簡単に言うなよ。」
「そんなに難しく考えるなよ。」
勉は僕のまねをしてそう返してきた。


勉を尊敬するよ。
もし僕の性格が勉のように明るくて前向きで楽しいと思えるものならばきっと今の自分は全く違った世界を生きていただろう。
そしてみーを苦しめる要因を抱えることなく、彼女と普通に話す事だって出来たはず。
ひょっとしたら兄貴よりも僕を・・・・・・
そんな安易な考えを持った僕に勉はいつものように冷たい現実を教えてくれた。
「いつまでも見てるだけじゃ先に進めないぞ。それにこれが最後のチャンスかもしれないだろ。おまえは家を出て、寮に入るんだし。彼女だって大学はこっちじゃないんだろ?」
痛い所を突いてくる。
そう、みーは県外に出ると言う話を間接的に聞いた。

もう会う事もなくなるかもな。

ふとその現実を思い浮かべ、胸に影を落とした。




担任へ合格の報告を済ませ、僕と勉は駅前のファミレスで密やかに合格祝いをした。
と言っても勉に半ば無理やり店に連れ込まれたのだけれど。
勉が一方的に話した合格祝いという名の数時間は、あっと言う間だった。
思い出話から始まり、そして僕の片思いの話、勉の将来の夢、色んな事をとにかくこれでもかって程に話したら時間が足りるものじゃないとその時に感じた。
そして外が暗くなってきた頃、ようやく話を切り上げ、店を出ることにした。
「青井と今度会うのは・・・卒業式か。いいか?それまでにとにかく彼女と話すんだぞ!これを逃したら本当に後悔するからな!じゃあな!」
勉はそれを言い残して、別方向へと帰って行った。

わかってるよ、そんなこと。
でも勇気が出ないんだ。

彼女と話さなくなってもうかなりの時が過ぎた。
だからどういう風に話しかければいいのか・・・
でもそれだけじゃない。
僕は、彼女に対して途轍もない後ろめたさがあったから。
だから、ほんの一歩でさえ踏み出せない。


僕は・・・・・・意気地なしだ。


そんな気持ちを抱えたまま、まっすぐに家へ帰るのは躊躇われた。
別に家で何か待っているわけじゃない。
ただ、なんとなく今は合格の余韻に浸りたいだけ。
それに勉の言葉が頭の中で鮮明にリフレインしていて。
そんな自分を冷静にしたかった。

どうせ家に帰っても誰もいない。
両親は共働きでしかも父親は単身赴任。
母は毎日夕方から深夜までのパートに出かける。
兄貴だって、どうせデートだ。
あの家に温かさ、心地よさというものが感じられなくなってすでに数年が経過している。
それに気付いてる、基、感じてるのはたぶん僕だけ。

あんな家・・・1秒でも早く出たい。

何度そう思っただろう。
そしてようやくその思いが実現しようとしているんだ。
高校進学という名目で。

ただそうすることによって、彼女との距離は埋められないほどに広がるだろう。
それはわかっている。
でもだからと言って今のままで何かが変わるわけでもない。
ならば・・・と思って決めた。
家を出て、自分に自信が持てるようになって。
そして彼女を守れるだけの男になって再び彼女に会いに行こう。
その想いだけがそれからの僕の目標であり、希望になった。


なのに・・・そう決めたのに・・・


そんな僕を神様は試したかったのだろうか

彼女と僕を引き合わせて――

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