黒い青春

樫野 珠代

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本編

21






これほど死を望んだ事はなかった

生きていることの方が苦痛だった

僕は何のために今ここにいるのだろう










彼女は僕を傷つける言葉を投げつけて、僕の前から消えていった。



わかっていたはずなのに


全てを知って彼女がどんなに傷つくか。


そしてどんなに僕や兄貴を恨むのか。


彼女の勢いに圧されたのもある。
けれど、限界だった。
これ以上、彼女に黙っておくことが。
ずっと罪の意識に苛まれていることが。


だから言ってしまったんだ。
彼女を傷つけるとわかっていても。


でも思った以上に、現実は甘くなかった。


彼女の傷ついた顔がずっと頭から離れない。
それだけじゃない。

彼女の悲しそうな顔。

彼女の悔しそうな顔。

彼女の軽蔑の眼差し。

彼女の・・・・・・・・・・

全部が僕の心に被さってきた。




こんなはずじゃなかった。
彼女を部屋へ入れたのはこんな状況へ導くためじゃ・・・


彼女を励ますつもりだったんだ。
そして報告をするつもりだった。

高校に合格したことを。


けれど、そうする前に夢は途絶えてしまった。
予想外の事が次々と起こって。


彼女に告げてしまった真実。
それを聞いて彼女がどんなに傷ついたのか、痛いほどわかった。
だって震えていたから。
顔を青白くしていたから。


それを見て、僕は激しく動揺してしまった。
想像以上に彼女を傷つけたという現実を突き付けられて。


それからの事はうまく整理ができてない。
なぜあんな事になったのか。
彼女を抱くことになるなんて思わなかった。
どうして僕は彼女の誘いに乗ってしまったのか。
彼女の可愛いくらいのプライドだってわかってた。
だから拒絶するべきだってことも。
でも僕は彼女を受け入れてしまった。
言い訳にしか聞こえないだろうけど、あの時、すでに頭と体が僕の気持ちから切り離されたみたいに制御できなくなっていたんだ。


彼女から体を離した瞬間、気だるさの残る僕に彼女は目の覚めるような言葉をくれた。
「想像してた通りだった?」
思わぬ冷めた声で僕は情けない事にようやく自分を取り戻した。
「みー・・・。」
わずか数十分の出来事が僕の頭を駆け巡った。

あ・・・僕は・・・なんてことを・・・

後悔を始める僕に彼女は感情をなくしたまま続けた。
「この部屋で聞いてたんでしょ?私達が抱き合ってる最中ずっと。そして想像したんでしょ?こういうこと。同じだった?それとも違った?」
僕の体が一瞬にして凍り付いた。
そして、彼女の本当の目的にようやく気付いたんだ。
「それに・・・想像だけじゃないわよね?聞きながら一人でシテたんでしょ?違う?」
「やめろ・・・。」
「生の声を聞きながらってどういう気持ち?やっぱり他のものよりも感じちゃうわけ?」
「やめろって。」
これ以上、聞きたくなかった。
でも彼女は遠慮なく僕を貶める。
「今さら隠さなくていいじゃない。空の年齢なら普通のことでしょ?大地だってそういう事に無我夢中って感じだったし。」
「やめろって言ってるだろ!」
事実を言い当てられて僕は思わず声を荒げていた。
無理やり話を終わらせるように僕は彼女から離れると、彼女もゆっくりと起き上がった。
「黙って聞いてたくらいだもの。よほど気に入ってたのね、私達の声。でも私達がしなくなって溜まってきたのよね。だから今日、こうして私を誘ったんだわ。」
服を着ながら、彼女は一方的に僕の行動を解釈していく。
僕は慌てて否定した、いや否定しようとした。
「違う!そんなんじゃない!僕はこんなことよりみーの気持ちが・・・」
一番欲しいんだ。
そう言いたかった。
でもそれが彼女に届くことはなくて。

「空にはがっかりだわ。大地とセックスしてたって知ってて私を誘うくらいだからそれなりにセックスに自信があるんだと思ってたのに。はっきり言って大地の方が空よりマシ。だって大地はこんなに早くイったりしなかったもの。」
その言葉は、完全に僕を絶望の彼方へと突き落とした。
体の力が抜け、ベッドの上に沈んでいく。

「それに、大地は気持ちがなくてもそれなりに私を感じさせてくれた。でも空、あんたは私を気持ち良くはしてくれなかった。男としてそれってどうなの?」
「っ・・・ご、ごめ・・・。」
頭が真っ白で何も言えないし、考えられなかった。
ただ謝ることだけで精一杯。

つまり僕は結局、兄貴に何一つ勝てないという事。
彼女の気持ちも体も。

男としてどうなのかなんて・・・

最低ってことだろう、少なくともみーにとって。

でも僕にとってはそのみーが全てで。

その彼女に全否定されたも同然で。

さっきまでの熱いくらいの体温が今は全く感じられないくらい、僕はショックで感覚を失っていた。
そんな僕にみーは最後の最後に残酷な言葉をくれた。

「最後までなんにも1番になれなかったね、空。最後に幼馴染として言っとくわ。私を好きだって言ってたけど・・・・・・嘘はもっと上手につくものよ。」
「みー!」
違う!
気持ちは本当なんだ!
そう言いたくても彼女は言わせてくれなかった。
「気安く呼ばないで。もう二度とあんたの顔も大地の顔も見たくないし、見るつもりもない。もう幼馴染なんていらない・・・・・さよなら、幼馴染の空くん。」
「待って、みー!」
僕の声はとうとう最後まで彼女には届かなかった。
届くどころが途中で跳ね返されていた。

『顔も見たくない』
なんて。

『幼馴染なんていらない』
なんて。

『さよなら』
なんて言わないでよ。

僕はただ・・・ただみーが好きなだけだったんだ。
部屋から出ていく彼女を僕は最後まで見続けた。
そして最後に、ドアが閉まる瞬間に見た彼女の瞳が全てを物語っていた。

― あなたを許さない ―




一瞬にして僕は、彼女という存在を失ったんだ。





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