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高校1年-6月
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しおりを挟む男女混合のバスケ試合が始まった。体育館にある2コートを使って各チームが前後半8分ずつのゲーム。最初の対戦は、正臣達のチームと康平のチーム、そしてもう2チーム。春菜達のチームは次の試合となり、観戦にまわった。自然にチームが一塊になり、座り込む。すると近くで小坂が細かく試合をしている選手をチェックし始めた。
「すげーな、小坂マジだぞ。」
篤がぼそりと呟いた。その声に健一も反応した。
「ああ、本気で勝つ気だ。目が怖えーって・・・。」
そんな2人を見ながらまたもや隣りにいる祐介に春菜は視線をそっと向けた。祐介は真剣に試合を見ていた。いつもの無関心さなど取払ったかのようにじっと見据えていた。本当はすごくバスケが好きなのだ。春菜はそう確信した。前半戦が終わると小坂が立ち上がり、移動を始めた。春菜はそれを目で追っていく。もう一試合の方へと行ったのだ。
なるほど・・・。
4チーム全てをチェックするつもりなのだ。すると隣りからくくッと篭った笑い声が聞こえてきた。見ると祐介が笑いを堪えていた。春菜に見られている事に気付くと笑いを堪えながら言った。
「あいつ、すげーな。本当に勝つつもりらしいぜ。」
「うん・・・そうだね。ゆ・・・赤城君はどう思う?やっぱり優勝は無理だと思う?」
「当たり前だろ?個人のレベルもあるけど、バスケの基本はチームワークだ。俺達のチームはそれが一番欠けてる。そんなチームが勝てるわけが無い。1勝出来たら良い方だろうな。」
「そっか・・・。」
「まぁ俺を含め、古賀と大久保が本気を出すって言うのならいい線いくと思うけどな。」
「え?」
「古賀と大久保の動きは悪くない。2人とは前に一度、授業で対戦したことがある。その時にそう感じた。でもお互いに手を抜いてたから本来の実力はわからない。」
「赤城君は・・・本気を出さない、の?」
「俺一人が本気になっても無駄だろう?あいつら次第だよ。」
「っ・・・。そ、そうだよね。例え私が頑張っても話にもならないし・・・。」
「アホ。そんなことを言ってるんじゃねぇって。つーか、勝っても何もでないんだろう?それじゃあ、誰もやる気が出ないって。」
ふぅーっと息を吐きながら祐介は気だるげに言った。何か・・・やる気が出るような条件があれば彼らは真剣になってくれるのだろうか。春菜はしばらくそんなことを考えていた。しかし一向にそんな条件が浮かばない。春菜は改めて自分の不甲斐なさを心の中で嘆いていた。ちょうど試合が終わったのか、コートの中にいた人間が散らばりだした。
すると、
「昼飯・・・。」
祐介がポツリと呟いた。春菜は反射的にその声の方を向いた。祐介はちらりと春菜を見ると再び、正面に目を向けた。
「手作りの弁当で手を打つ。」
「え・・・。」
「優勝したらチームの男4人に弁当を作るってのはどう?」
思いがけない提案だった。しかも祐介の口からそのような事が出てくるとは。
「まぁ、料理の腕にもよる・・・。」
「やる!」
祐介の言葉を遮り、春菜は力強く言い切った。思いのほか春菜の声が大きかったのか、近くにいた篤や健一が振り返っていた。それに気付いた祐介はニヤリと笑うと2人に向かってやや大きめの声で言った。
「おい、優勝したらコイツが弁当作ってくれるってさ。」
「マジ!?」
「うそ、ホントに!?」
2人の目が輝き、嬉しそうに近づいてきた。
「五十嵐さん、マジで?」
「俺達4人分?」
2人の勢いに圧倒されながらもなんとか頷く。
「あ・・・う、うん。」
すると春菜達の話を耳にした恭子がささっと春菜の横にやってきて春菜の肩を手を置いた。
「えー、なになに?五十嵐さんのお弁当?いいなぁ・・・毎日食べてる学食はもう飽き飽きなんだよねぇ。私もこっちのチームが良かったぁ。五十嵐さんってめちゃくちゃ料理上手いんだよ。ねぇ誰か代わってよぉ。」
「つーか、なんで橋本がそんなこと知ってんの?」
驚いて篤が聞いてきた。そんな反応に恭子は自慢げに胸を張った。
「ふふん、決まってるでしょ?食べた事あるんだもん。」
「マジで?」
「うん、未久も食べたよ。あとねぇ康平君や正臣君も。皆で感動したもん、本当に美味しくて。」
「は、橋本さん!」
春菜は堪らずに恭子を制した。
恥ずかしい・・・。
すると春菜の気持ちを察したようにタイミング良く笛の音が聞こえてきた。
「次!試合に出るものはコートに出て来ーい!」
先生の一声に春菜は助かった。春菜はそそくさとその場を離れ、コートへと向かった。コートの中心に向かう途中、祐介は篤と健一に何か耳打ちをしていた。それを少し気にかけながらも春菜はコートの中央で全員が揃うのを待っていた。すると試合直前に祐介が耳打ちをしてきた。
「おまえはゴール近くでシュートオンリーね。」
耳打ちされたことにドキッとしながらも、言葉をなんとか聞き取り頷いた。シュートに自信があるわけではない。しかしチームがそういう方針でいくのなら春菜は従うしかない。笛の合図と共にボールが宙に舞う。ジャンパーがジャンプボールでボールをタップした瞬間、春菜は一気に相手のゴール下に入り、辺りを覗いカットされない位置を見極め、場所を選んでいく。その間も、同じチームのメンバーの動きを目で置く。
なんというか皆、本当に・・・上手いんだよね?
春菜は首を捻った。以前に見た祐介の動きとは思えないくらいタドタドしい動き。そして篤も、健一もパスに失敗したり、カットされたりとどうみても初心者のような動き。
本当に優勝できるの?
春菜は疑問に思いながらもボールがいつ飛んできても良いように構えていた。するとようやく攻防戦を制した祐介がロングパスで一気に春菜へボールを投げた。春菜はそれを受け取る瞬間、周りに視線を配り、一気にゴールへとボールを放った。それは綺麗な弧を描き、スポッとネットを揺らし、真下へと落ちた。
「よっしゃ!」
コートの中心近くで健一がガッツポーズを取っていた。
まだ4点なんだけど・・・。
春菜は不安に思いながらも試合に集中する。結局、前半は4点差を維持したまま終わった。2分間の休憩が入ると、祐介が4人を呼んだ。
「このまま4点差を守る。前半同様、程よく力を抜いていこうぜ。」
4人にしか聞こえない小さな声でそう言い、祐介はニヤリと笑った。それに攣られて健一も小声になる。
「そうだな。他のチームも見てることだし、このまま油断させておこうぜ。」
春菜は驚いていた。いつの間にそんな話になったのだろう。そこでようやく先程の耳打ちを思い出した。
あの時だ。それにしても・・・。
「最初の相手があいつらで助かったよ。それより庄司、おまえバスケやってたのか?」
「ん?あぁ、ちょっとな。なんだ、3人の間でそんな話になってたのか。そう言ってくれれば俺も手を抜いたのに。」
庄司 一志は肩をすくめてそう言った。その言葉に祐介が首を横に振った。
「いや、予定外だったけど結構、いいカモフラージュになってる。このままでいこう。そうすれば、他のチームを欺く事が出来る。」
「そうだな。それに次の試合はバスケ部って言っても女子バスケの新城しか経験者はいない。他は大した事ない。問題は残りの2チームだ。」
健一がそう言うと皆が目を合わせ、頷く。
すごい・・・皆が一つになってる。
こんな短時間で。男同士だからだろうか。
「すごいね・・・。」
春菜がぽつりと呟いた。その声に4人全員が春菜を見た。
「あ・・・、えーっと、4人ともすごくまとまってるなぁって・・・。」
春菜は皆の視線を避けるように下を向いた。すると上から篤の声が聞こえてきた。
「当たり前。なんてったって五十嵐さんの手作り弁当がかかってるんだから、な?」
「そうそう。今まで聞いた事ないもんな、たかが授業でやったバスケの戦利品が女の子の手作り弁当なんて。庄司も聞いた事ないだろう?」
「ははは!そうそう、普通ないし。それになんてたって“五十嵐さんの”手作り弁当だしな。」
一志が春菜の名前を強調しながら言った。思わず春菜がぽかんと呆けて声を裏返して反応した。
「へ?」
その声に全員が噴き出す。祐介でさえ、お腹を抱えて笑っている。
「も、もう!そこまで笑わなくても・・・。」
「悪い、悪い。別に五十嵐さんの反応で笑ったんじゃなくて、その・・・あまりにも本人が気付いてないからそれが可笑しくて。それに五十嵐さんがそこまで鈍いとは知らなかった。」
「気付く?」
「そうそう。五十嵐さんって結構、人気あんだよ。知らなかった?」
人気?
春菜は怪訝そうな顔で皆を見回した。
からかっているのだろうか。
皆に対して不信感を抱いた時だった。
「でもさ、今まで話したことなかったからわかんなかったけど五十嵐さんって印象と全然違うのな?」
何気ない健一の一言。けれど春菜はその言葉で一気に現実を思い知らされた。
「印象・・・。」
春菜は胸の奥で何かに突き刺されたような痛みを覚えた。イヤと言うほどわかっている。皆が私にどんな印象を持っているか、なんて。暗い、怖い、何を考えているのかわからない。無表情で感情が読めない。挙げても挙げても、次々と出てくる私の印象。実際に恭子達にも言われたこともある。俯く春菜に気付いた祐介が他の4人に声をかけた。
「そろそろ時間だ。行こう。」
「よし!適度に運動しましょうや。」
そう言ってコートの中心に向かう。春菜もゆっくりと彼らの後ろを付いていく。すると祐介が春菜の横に並んで歩く。
「俺のおまえに対する印象って知ってる?」
彼がいきなりそんなことを聞いてきた。春菜は顔を上げ、恐る恐る祐介の顔を捉える。
「おまえの印象は・・・“天然”。」
「天然?」
「普通、人がしないようなことをするし、言わないようなことを言ってくる。しかもそれが可笑しいことに気付かず、真面目に。まさに天然だろう?」
祐介はニヤリと笑うと、歩速を上げ篤の隣りに行った。春菜は祐介の言葉を思い返し、ようやくその意味を呑み込む事が出来た。そして次の瞬間、祐介の言っていることが自分を小ばかにした内容だと気付き、眉間に何重もの皺を寄せた。
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