8 / 8
女装は終わらない
しおりを挟む
「……俺は、家のためにあなたを、いえ、公女様を狙っていた数多の男の一人にすぎません。無茶な頼みを聞いたのだって、あなたの機嫌を損ねないためで……」
「あら? 本当にそれだけだった?」
「そりゃ、そう、で……」
そうですよ、と答えようとしたレナードが、途中で言葉を止める。
少し時間をおいて、彼の顔はだんだんと赤く染まっていく。
「……女装はしたくなかったけど、それ以上に、あなたが喜んでくれるのが、嬉しかった。この人の笑顔は俺だけのものだという、優越感も……」
そこまで言ってから、レナードはハッとして口を閉ざした。
慌てる彼を見て、アナスタジアはくすくすと笑っていた。
「あのね、レナード。私、同性の友人としても、男性としても、あなたのことが好きだったのよ? こんなわがままを聞いてくれる人、あなた以外にいないわ。……ちょっと、女の子扱いしすぎちゃったけどね」
アナスタジアは、恥じるレナードを後ろからそっと抱きしめる。
彼の素肌に、彼女の手の感触と体温が伝わってくる。
「あなたは、婚約者の無茶なお願いまで聞いちゃう、男気のあるとっても素敵な人。私のことを見守ってくれる、とても優しい人」
「アナ、スタジア……」
耳元でそう囁かれて、レナードの頭はくらくらし始める。背中には柔らかな胸まで当たっていて、もう理性の限界だった。
耐え切れず、レナードがアナスタジアをベッドに押し倒した。
彼女もまた、彼の首に手を回し、受け入れる態勢だった――と思いきや、彼女ははあはあと息を荒げ、興奮した様子でこう言った。
「ねえ、レナード。かつらと夜着をもう一度着てくれない?」
「……は?」
彼女にキスを落とす気満々だったレナードは、ぴたりと動きを止める。
「あのね、私、男性としてのあなたもこれからは受け入れていこうと思うの。今まで我慢させてごめんなさい。でも、でもね、さっき、女の子の姿のまま押し倒されたのも、なんだかすっごくよくて……」
「……」
矢継ぎ早にそう話す彼女は、身体をくねらせ興奮している。
レナードは、信じられないものを見た気分だった。
とりあえず、一旦ベッドから降り、かつらとワンピースタイプの夜着を身に着ける。
そのままアナスタジアにのしかかると、彼女は「きゃー!」と黄色い声をあげた。
「わわ、わわわ……。わわわわ……。レナ、レナ、ちゃ……」
よほど気に入ったのか、アナスタジアは語彙を失っていた。
そんな彼女とは対照的に、レナードの気分は急降下する。
結局その晩のレナードは、女の子の格好をしたまま、アナスタジアに抱き枕にされて終わるのだった。
この夜をきっかけに、レナードとアナスタジアの関係は少し変わった。
次に会うときは女装しなくてもよい、と言われたのだ。
そう告げられたときのレナードは、ようやく男として認められたのだと意気揚々とした。
しかし、その期待はすぐに裏切られた。
毎回じゃなくていいから、三回に一回ぐらいは女装してほしい。アナスタジアは、そうお願いしてきたのだった。
「ど、どうして……」
そう告げられたとき、男性の格好をしたレナードが絶望交じりにそう問うた。
するとアナスタジアは、ぽっと頬を赤らめてこう言った。
「最初はね、男の子が苦手だから、女の子の格好をしてもらってたの。でも、続けていくうちに……。その……癖になっちゃった、みたいで……」
恥じらう彼女の前で、レナードは深いため息をつく。
どうやら、女装しろという命令が完全に解除されることはないらしい。
(アナスタジアが喜ぶならまあいいか、って思える時点で、俺も相当きてるよなあ……)
結局、レナードの女装はアナスタジアと結婚するまで続くのだった。
「あら? 本当にそれだけだった?」
「そりゃ、そう、で……」
そうですよ、と答えようとしたレナードが、途中で言葉を止める。
少し時間をおいて、彼の顔はだんだんと赤く染まっていく。
「……女装はしたくなかったけど、それ以上に、あなたが喜んでくれるのが、嬉しかった。この人の笑顔は俺だけのものだという、優越感も……」
そこまで言ってから、レナードはハッとして口を閉ざした。
慌てる彼を見て、アナスタジアはくすくすと笑っていた。
「あのね、レナード。私、同性の友人としても、男性としても、あなたのことが好きだったのよ? こんなわがままを聞いてくれる人、あなた以外にいないわ。……ちょっと、女の子扱いしすぎちゃったけどね」
アナスタジアは、恥じるレナードを後ろからそっと抱きしめる。
彼の素肌に、彼女の手の感触と体温が伝わってくる。
「あなたは、婚約者の無茶なお願いまで聞いちゃう、男気のあるとっても素敵な人。私のことを見守ってくれる、とても優しい人」
「アナ、スタジア……」
耳元でそう囁かれて、レナードの頭はくらくらし始める。背中には柔らかな胸まで当たっていて、もう理性の限界だった。
耐え切れず、レナードがアナスタジアをベッドに押し倒した。
彼女もまた、彼の首に手を回し、受け入れる態勢だった――と思いきや、彼女ははあはあと息を荒げ、興奮した様子でこう言った。
「ねえ、レナード。かつらと夜着をもう一度着てくれない?」
「……は?」
彼女にキスを落とす気満々だったレナードは、ぴたりと動きを止める。
「あのね、私、男性としてのあなたもこれからは受け入れていこうと思うの。今まで我慢させてごめんなさい。でも、でもね、さっき、女の子の姿のまま押し倒されたのも、なんだかすっごくよくて……」
「……」
矢継ぎ早にそう話す彼女は、身体をくねらせ興奮している。
レナードは、信じられないものを見た気分だった。
とりあえず、一旦ベッドから降り、かつらとワンピースタイプの夜着を身に着ける。
そのままアナスタジアにのしかかると、彼女は「きゃー!」と黄色い声をあげた。
「わわ、わわわ……。わわわわ……。レナ、レナ、ちゃ……」
よほど気に入ったのか、アナスタジアは語彙を失っていた。
そんな彼女とは対照的に、レナードの気分は急降下する。
結局その晩のレナードは、女の子の格好をしたまま、アナスタジアに抱き枕にされて終わるのだった。
この夜をきっかけに、レナードとアナスタジアの関係は少し変わった。
次に会うときは女装しなくてもよい、と言われたのだ。
そう告げられたときのレナードは、ようやく男として認められたのだと意気揚々とした。
しかし、その期待はすぐに裏切られた。
毎回じゃなくていいから、三回に一回ぐらいは女装してほしい。アナスタジアは、そうお願いしてきたのだった。
「ど、どうして……」
そう告げられたとき、男性の格好をしたレナードが絶望交じりにそう問うた。
するとアナスタジアは、ぽっと頬を赤らめてこう言った。
「最初はね、男の子が苦手だから、女の子の格好をしてもらってたの。でも、続けていくうちに……。その……癖になっちゃった、みたいで……」
恥じらう彼女の前で、レナードは深いため息をつく。
どうやら、女装しろという命令が完全に解除されることはないらしい。
(アナスタジアが喜ぶならまあいいか、って思える時点で、俺も相当きてるよなあ……)
結局、レナードの女装はアナスタジアと結婚するまで続くのだった。
33
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~
紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。
ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。
邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。
「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」
そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。
不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
翼 うみ
恋愛
父の会社を立て直す交換条件のため、ほぼ家族に身売りされた形で関東最大級の極道・桜花組の次期組長に嫁入りしたジェシカ。しかし母を亡くして以降、義母と義妹に虐げられていたジェシカは実家を出られるなら、と前向きだった。夫となる和仁には「君を愛することはない」と冷たく突き放される。それでもジェシカは傷つくことはなく、自分にできることを探して楽しんでいた。
和仁には辛い過去がありそれ故に誰のことも愛さないと決めていたが、純真で健気なジェシカに段々と惹かれてゆき――。
政略結婚から始まる溺愛シンデレラストーリー。
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
あなたのそばにいられるなら、卒業試験に落ちても構いません! そう思っていたのに、いきなり永久就職決定からの溺愛って、そんなのありですか?
石河 翠
恋愛
騎士を養成する騎士訓練校の卒業試験で、不合格になり続けている少女カレン。彼女が卒業試験でわざと失敗するのには、理由があった。 彼女は、教官である美貌の騎士フィリップに恋をしているのだ。
本当は料理が得意な彼女だが、「料理音痴」と笑われてもフィリップのそばにいたいと願っている。
ところがカレンはフィリップから、次の卒業試験で不合格になったら、騎士になる資格を永久に失うと告げられる。このままでは見知らぬ男に嫁がされてしまうと慌てる彼女。
本来の実力を発揮したカレンはだが、卒業試験当日、思いもよらない事実を知らされることになる。毛嫌いしていた見知らぬ婚約者の正体は実は……。
大好きなひとのために突き進むちょっと思い込みの激しい主人公と、なぜか主人公に思いが伝わらないまま外堀を必死で埋め続けるヒーロー。両片想いですれ違うふたりの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
幼馴染に10年片想いしてたら、冷酷御曹司にプロポーズされました
ほーみ
恋愛
春の匂いが、駅前の並木道をくすぐる。満開の桜の下、私はひとり歩いていた。駅までの道は、高校時代、彼とよく歩いた道だ。
制服姿の学生が笑いながらすれ違っていくのを横目に、私はスマホを見下ろした。
「今日、伝えるって決めたんじゃなかったの?」
送信したきり返信のないメッセージ。画面には「既読」の文字があるだけだった。
――渡瀬 湊。私が10年間片想いをしている、幼馴染。
家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました
日下奈緒
恋愛
そばかす令嬢クラリスは、家族に支度金目当てで成り上がり伯爵セドリックに嫁がされる。
だが彼に溺愛され家は再興。
見下していた美貌の妹リリアナは婚約破棄される。
婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた
鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。
幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。
焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。
このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。
エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。
「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」
「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」
「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」
ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。
※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。
※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。
下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~
星森
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。
王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。
そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。
これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。
⚠️本作はAIとの共同製作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる