藍色バース

弓川ルツ

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第1章

導き-2

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  アクアは自身のブログの編集画面を開いていた。
  ブログのタイトルは『人魚姫の奇跡』。
 内容は、エリンの人工死産の経緯と、以降の不妊治療の記録である。エリンの死産後、休養するアクアに必要だろうと、凛也がノートパソコンを新調してくれたのだ。
  その凛也には、ブログの存在を秘密にしている。ブログでアクアは不妊理由を男性不妊とはっきり綴っている。治療の話以外に、夫の親との同居主婦として、日頃の義母や義妹に対する愚痴も書き込んでいる。凛也には読まれるわけにはいかないのだ。
【BT七日目 今回も轟沈】
  アクアはタイトル欄に入力後、記事を書き始めた。
【たった今、妊娠検査薬を使いました。今回はグレード4ABのタマゴを戻しています。いつも期待しすぎては落ち込むので、移植のことは意識しないように過ごしていたのですが、今朝になって我慢しきれず、フライング検査してしまいました。
 結果は文句なしの真っ白でした(涙)。どれだけ目を凝らそうとも、線は見えません。どうして着床してくれないんでしょう? もう凍結胚は残っておらず、一からやり直しです。また採卵の痛みに耐えないといけない。お金だって残り少ない。果たしてあと何回チャレンジできるのか。そろそろ治療に区切りをつける時期が来たのかもしれません。
 私も三十五を過ぎて、年齢的に焦りを感じています。今まで私たち夫婦の不妊原因は男性不妊のみだったけれど、これからは私の年齢が問題になります。三十五を過ぎると、卵子の老化により妊娠率が下がって行きます。
 もっとも、年齢だけでなく、今までこれだけ着床しないのは、私の側にも検査では分からない隠れた原因があるのかもしれませんが……】
  アクアは記事の投稿をした後、メールソフトを開いた。今日、カウンセリングを実施する予定のメンバーの情報を、改めて確認するつもりだった。
『きらきら星ベビーの会』は流産・死産・新生児死で子供を亡くした家族のための会だ。メンバーの資格は原則、遺族のみ。メンバー同士の交流を図ることによる、相互の精神的サポートを目的としている。
  会の活動は、半年に一度の会報の発行の他、近隣地域に住むメンバー間での懇親会の開催、希望者に対する他のメンバーによるカウンセリングだ。
  アクアは、ボランティアでカウンセラーとして活動していた。だが、最近になって、カウンセラーに嫌気がさしていた。
 同じ赤ちゃんを亡くすという状況でも千差万別だ。心の底から相手の気持ちに寄り添うのは難しい。例えば、アクアにストレスを与える例の一つとして、亡くした子供が二人目や三人目というケースだ。子供を亡くすということに何人目の子供であろうと哀しいに決まっている。頭では良く分かっていても、どうしても自分の境遇と比較してしまうのだ。
  活動開始当初から違和感は感じていた。約二年が経過した今、カウンセリングを行った後、強い疲労や敗北感、自身に対する失望感に悩まされるようになっていた。
  アクアは三崎愛子からのメールを開く。
  愛子は『きらきら星ベビーの会』の古株メンバーだ。今日のカウンセリングは浜松市内にある愛子の自宅の離れで行う予定だ。愛子は自宅の離れを、クラブの活動場所として提供している。
【カウンセリングについての連絡
 ……平田真澄さんが、カウンセリングを希望されています。平田さんは、パートナーとの間の赤ちゃんを、妊娠二十七週の時、子宮内胎児死亡で亡くされました。……】
「パートナー」と書かれているのは、未婚女性だからだろう。
 アクアは次に、平田真澄からのメールを開いた。何度見てもうんざりする。今日は、うんざりに苛々も加わった。
  ギャル文字だらけのメール。とにかく読みにくいったらない。赤ちゃんを亡くした哀しみが綴られているが、ギャル文字のせいで、本当に哀しんでいるのかと、疑ってしまう。
真面目に取り組む気になどなれない。真澄には悪いが、今日のカウンセリング、手短に終わらせてしまおう。
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