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第1章
導き-5
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平田真澄は約束の2時から10分遅刻して登場した。
大きく胸が突き出たピンクのタンクトップに超ミニスカートで、目の周りがやたら黒い、濃いメイクをしていた。
痩せた金髪のカレシを引き連れている。もちろんカレシの付き添いなど予定外だ。
アクアは二人を三崎家に連れて行くと離れに案内し、早速カウンセリングを開始した。
「もう、お体は大丈夫なんですか?」からスタート。少し不自然な間が空いた。
「……はい、体のほうは。でも、なかなか気持ちの切り替えができなくて……」
外見と、若者独特の抑揚をつけた話し方はともかく、真澄の哀しみは深いようだった。
揃えたベビー用品。友人たちの祝福。カレシとの結婚を親が認めてくれたこと。
死産以来、外出ができなくなった。カレシ以外、誰とも会いたくない。
アクアは真澄の気持ちに、思ったより無理なく寄り添えた。今日のカウンセリングは無難に終われそうだ。
だが最後になって……。
「実はまた、できたんです。今八週目で。今度こそ絶対無事に産みたい」
真澄は恥ずかしそうな笑顔で、カレシと顔を見合わせる。
なんだ……。
じゃあ、いいじゃない。そりゃ若いからこれから何人だって産めるよね。
アクアは心の声とは裏腹に、「前回の死産のこと、病院にしっかり伝えて。とても大事なことだから」と真澄にアドバイスする。
真澄たちを先に帰し、アクアは三崎家の離れに一人残った。ショッピングセンターまで二人に同行しないで済むよう、帰るタイミングをずらしたのだ。
真澄と違い、アクアに残された時間は、多くはない。しかも凛也との間で自然妊娠はまず望めないのだ。
不意に突拍子もない空想が頭に浮かんだ。ついさっき出会ったばかりの愛子の息子、迅。
もしも、迅と結婚する未来があるとすれば、すぐに子供ができるのだろうか。
アクアはたった今自分の考えたことに、恥ずかしさを通り越し惨めさを感じた。子供、子供と頭の中が一杯になりすぎて、精神が病みかけているのかもしれない。
今朝の妊娠検査薬陰性のダメージも大きく影響しているのだろう。急に涙が溢れてきた。
もう止めよう。『きらきら星ベビーの会』の活動を休もう。
アクアはそのまましばらく泣いた。泣き止んで気分が落ち着いたところで、手鏡で顔を確認する。泣き顔だと分かるだろうか。アクアは化粧を直した。
迅に離れの鍵を返さなければならない。カウンセラーのほうが泣いているなんて、変に思われだろう。
アクアは迅の、哀しみを暴き出そうとするかのような、強い視線を思い出して不安を覚えた。
離れを出て鍵を掛け母屋に向かい、インターホンを押す。すぐに迅が顔を出した。
アクアの心配したとおりの事態になった。
迅は、何か勘づいたようだった。少なくとも、アクアにはそう思えた。さっきの愛想の良さは消えて、アクアを気遣うように、問いかけるように見つめてくる。
アクアは素早く迅に鍵を渡すと、礼を言って、そのまま逃げるように玄関を去った。
何も言ってほしくなかった。同情なんかされたくない。一言話しかけられただけでも、泣かないでいる自信がなかった。
大きく胸が突き出たピンクのタンクトップに超ミニスカートで、目の周りがやたら黒い、濃いメイクをしていた。
痩せた金髪のカレシを引き連れている。もちろんカレシの付き添いなど予定外だ。
アクアは二人を三崎家に連れて行くと離れに案内し、早速カウンセリングを開始した。
「もう、お体は大丈夫なんですか?」からスタート。少し不自然な間が空いた。
「……はい、体のほうは。でも、なかなか気持ちの切り替えができなくて……」
外見と、若者独特の抑揚をつけた話し方はともかく、真澄の哀しみは深いようだった。
揃えたベビー用品。友人たちの祝福。カレシとの結婚を親が認めてくれたこと。
死産以来、外出ができなくなった。カレシ以外、誰とも会いたくない。
アクアは真澄の気持ちに、思ったより無理なく寄り添えた。今日のカウンセリングは無難に終われそうだ。
だが最後になって……。
「実はまた、できたんです。今八週目で。今度こそ絶対無事に産みたい」
真澄は恥ずかしそうな笑顔で、カレシと顔を見合わせる。
なんだ……。
じゃあ、いいじゃない。そりゃ若いからこれから何人だって産めるよね。
アクアは心の声とは裏腹に、「前回の死産のこと、病院にしっかり伝えて。とても大事なことだから」と真澄にアドバイスする。
真澄たちを先に帰し、アクアは三崎家の離れに一人残った。ショッピングセンターまで二人に同行しないで済むよう、帰るタイミングをずらしたのだ。
真澄と違い、アクアに残された時間は、多くはない。しかも凛也との間で自然妊娠はまず望めないのだ。
不意に突拍子もない空想が頭に浮かんだ。ついさっき出会ったばかりの愛子の息子、迅。
もしも、迅と結婚する未来があるとすれば、すぐに子供ができるのだろうか。
アクアはたった今自分の考えたことに、恥ずかしさを通り越し惨めさを感じた。子供、子供と頭の中が一杯になりすぎて、精神が病みかけているのかもしれない。
今朝の妊娠検査薬陰性のダメージも大きく影響しているのだろう。急に涙が溢れてきた。
もう止めよう。『きらきら星ベビーの会』の活動を休もう。
アクアはそのまましばらく泣いた。泣き止んで気分が落ち着いたところで、手鏡で顔を確認する。泣き顔だと分かるだろうか。アクアは化粧を直した。
迅に離れの鍵を返さなければならない。カウンセラーのほうが泣いているなんて、変に思われだろう。
アクアは迅の、哀しみを暴き出そうとするかのような、強い視線を思い出して不安を覚えた。
離れを出て鍵を掛け母屋に向かい、インターホンを押す。すぐに迅が顔を出した。
アクアの心配したとおりの事態になった。
迅は、何か勘づいたようだった。少なくとも、アクアにはそう思えた。さっきの愛想の良さは消えて、アクアを気遣うように、問いかけるように見つめてくる。
アクアは素早く迅に鍵を渡すと、礼を言って、そのまま逃げるように玄関を去った。
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