藍色バース

弓川ルツ

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第6章

ファーザーズ・クライ-1

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  沢野レディース・クリニックでの出来事のせいで、アクアは凛也と口を利くどころか、目を合わせるのも避けるようになった。
凛也は逆にアクアと話したそうな素振りを見せたが、アクアは無視し続けた。

夜になると、アクアはノートパソコンと一緒に、寝室の隣の部屋へ移動した。
その部屋は、アクアの嫁入り道具の衣装箪笥やチェストが置かれ、主に衣類置き場として使用されている。

毎晩この部屋に布団を敷いて眠っている。
どうしても凛也と同じベッドに入りたくない。

アクアは、凛也に対して嫌悪感を抱き始めていた。

ある夜、凛也が遠慮がちに部屋に入ってくる。
アクアは身構えた。

「アクアは怒ってるのか? 俺がアクアに何の相談もなく、AIDなんて言い出したから」

これ以上、凛也に干渉されたくない。
それに、凛也に対する嫌悪感を勘づかれないようにしなければならない。

アクアは敢えて微笑んだ。

「違うの。私、怒っているわけじゃないの。ただ、凛也の考えを知って、あまりに驚いたの。私は血の繋がりに拘ってばかりいるのに、凛也はそうじゃないんだって。自分の小ささにショック受けて、凛也を避けちゃった。ごめんね。それでね、私、パソコンで調べたいことが山のようにあるから、しばらくこっちの部屋にいるね」

凛也は少しだけ笑顔を見せた。

「そうか、怒ってないんなら、いいんだよ。良かった。安心したよ。じゃあ、おやすみ」

アクアはおやすみ、と返した。
凛也がひどく寂しそうに見え、アクアの心が傷む。

だが、診察室で発言した「愛する人」が当然のことながら自分を指すと思っている凛也は、アクアを求めてくるかもしれない。
凛也に触れられる想像をしただけで、鳥肌が立ってきた。

アクアは『人魚姫の奇跡』の編集画面を開く。
感情のままに、アクアはキーを打ち始める。

久しぶりに記事の入力欄に、文字が埋まっていく。

【我が子が初めて歩いた日、親はどれほど感動するのでしょうか。

 我が子がテストで、百点を取った時、駆けっこで一番でゴールした時、親はどれほど誇らしく思うでしょうか。

  我が子の将来を夢見て、親は全力で子供をあらゆる方向からバックアップします。
  でも、もし、子供が血の繋がらない子だったとしたら?

  私は何の感動も喜びも、味わうことなどありません。

 子供の将来など、関心を持つこともない。
 そんな育児に、何の意味があると思いますか?

 実は、私たち夫婦は、義妹のお腹の子供を、養子に迎えてほしいと望まれています。
 訳あって、義妹夫婦が離婚の危機にあるせいです。

  世の中には、血の繋がらない子を愛情を持って育んでいらっしゃる方は、たくさんいます。

  でも、私にはできません。

 どうしても、無理なんです。

 これは、私の感じ方の問題です。
 こんな心構えで、立派に養子を育てられるとは、とうてい思えません。

  そしてもう一つ、私自身の気持ちに大きな問題があります。

  私には今、夫以外に、愛する男性がいます。

  これほどに強く人を恋慕い、愛した経験は、いまだかつてありません。
 私は本能で、彼を、彼の魂を求めています。

  夫と別れて、彼と結婚したい。今の私の心からの願いです。

  そうです。私たち夫婦にとって、養子を迎えるために最も必要な夫婦の絆が、既に失われているのです】

 アクアは記事を投稿した後、ブログの設定を変更した。コメントの受付を不可に。
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