幼馴染に勇者の座を奪われたので俺はこの異世界に叛逆する

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第一章

第七話 戦闘

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「やぁぁぁ!」

 豚の顔を持つ生物は一刀のもと、切り捨てられる。柔らかく煮込まれた角煮にスッと箸が通るかの如く、何の抵抗も見えずに切断されたかに見える。
 仲間の死を目前にし、他の個体は少し後ろににじり下がる。

 現在状況を説明しよう。今俺と光の前には、1m程の大きさの小豚頭。更に、ふた回り程大きな体躯を持つ豚頭の二種類が対峙している。
 数は合わせて7匹。いや、今1匹消えたから6匹だな。近くには今しがたのモノも合わせ4体の死体が転がっている。

「レッサーオークとオークをこんなに簡単に……」

 そして、背後では感嘆の声を漏らす女性が一人。

 話を少し遡ろう。あれはラークを出てから少ししての事だ――

 ◆

「睡蓮、睡蓮ってばー。なんで無視するの? 買い食いしたの怒ってるの?」

 歩く俺の周りをウロチョロウロチョロと回りながら器用に進む光。

「だぁ! もううるせぇな! 黙って歩けないのかお前は!」

 流石に痺れを切らして、怒鳴ってやる。

「ふふふー。ボクの勝ちー!」

 何が勝ちなのかわからんが、光は相手をされて上機嫌でニコニコしている。コイツは……

「ハァ。仕方ない、このまま無視してても鬱陶しいだけだから、相手をしてやる」

「さっすが睡蓮! それでさぁ、これからどうするの?」

「どうするって……魔王のところ目指すんだろ?」

「いや、それはそうなんだけど。そうじゃなくて、色々計画は必要になるでしょ?」

 ドキッとした。『⚫︎⚫︎』。俺の内心を見透かされた気がした。違う。コイツの言ってるのはあくまで、魔王討伐に向けての計画だ。平常心だ。

「そうだな。ひとまずは東。魔界の魔王城に向けて進路をとる。その上で、臨機応変に。だな」

「うーん? 大雑把過ぎない?」

「じゃあお前が考えろよ」

「うーん……人助けをして進む!」

 お前の方が大雑把な上、面倒ごとを背負しょい込もうとしてるだろうが……

「ほら、ボクって勇者らしいしさ。それに仮にそうでなくても困ってる人を放ってはおけないもん!」

 体の前で握りこぶしを作りながらフンスっと鼻息を鳴らしながら気合をいれている。子供にしか見えん。

「そういやお前さ、おっさんのところで『ボク』って言ってなかったか?」

 ふと話をしていて、街で感じた違和感を問いかける。

「ん? あぁアレ? アレはさ――ちょっと待って。何か聞こえた」

 光の顔つきが真剣なものに変わる。その言葉に俺も耳をすます。何だ? これは――悲鳴か?
 絹を裂いたような悲鳴が聞こえる。場所はそう遠くない。面倒だな……どうにかして避けたいが――

「こっち! 行くよ睡蓮!」

 ――光は一目散に声の聞こえた方へ走る。そうだよな。コイツはこういう奴だ。ハァ。
 ため息混じりに光の後を追う。

「イヤァ! 誰か! 誰か助けて!」

 走る光の背を視線だけ追い越した先。女性が豚の頭を持つ地球では考えられない生物に襲われている。皮や骨で作られた粗雑な装備に、手には無骨な棍棒。
 その手に持つものが女性に振り下ろされる。

 キィン

 ――しかし、女性が傷つけられることはなかった。目の前の光が一瞬前傾姿勢になったと思ったら、その姿がかき消えた。次の瞬間、甲高い音を立て、抜き身の白い刀身が豚頭の棍棒を防いでいた。いや、それだけじゃない。棍棒をゴボウを削ぐように切り落とし、そのまま豚頭の頭も飛んでいた。

 俺が追いついた頃には、すでに近場にいた2体の小豚頭レッサーオークがあの世に出荷されていた。

 ◆

 そして、今に至る。とりあえず仕方なしに俺は近場の女性に声をかけたが、特に大きな怪我はしていない。追いかけられた拍子に転んだであろう擦り傷程度だ。

 しかしそれにしても――ケタ違いの動きじゃないか?
 俺の視線の先では光が小豚相手に戦闘をしている。いや、これは戦闘じゃない。ただの出荷作業だ。棍棒や防具を歯牙にもかけず、切り裂いていく。
 これはアレか。『神の加護』か。

 みるみる内に豚共はその数を減らし、残すはデカイのが一体だけ。俺が手を出すまでもなく、殲滅間近となっていた。

「ブォォォォォ!」

 けたたましい雄叫びをあげる豚頭オーク。その声量に光は思わず両手で耳をふさぐ。そして、その隙を狙い振り下ろされる棍棒。

「ブ、ブオ!?」

 しかし、光が無造作に。反射的に挙げた手で棍棒が軽く防がれる。そのまま、棍棒を掴み……体重は100を軽く超えるであろう巨躯が宙に浮いた。
 片手で持ち上げるとかどんなグラップラーだよ……
 そのまま棍棒もろとも投げ落とされた豚頭も頭を落とされ出荷と相成った。

「ふぅ……」

 光は額の汗を拭う。汗よりも返り血が酷くて
意味があるのかと問いたい。

「ホラ。顔拭け」
「あ、睡蓮。ありがと――ふぅ。スッキリ! あ! そんなことより女の人は!? 大丈夫だった!?」
「あー、うっさい。近ぇ。無事だよ無事」

 渡したタオルで顔を拭いた後、顔を近づけてくる光にデコピンをかまし、女性を後ろ手に親指で指す。

「よかったぁ……あ! 睡蓮ひどいじゃん! 女の子一人で戦わせるとか!」
「へいへい。悪かった。つってもお前はお強い勇者様なんだろ? これくらいお供が手を貸すまでもなかったじゃねぇか」

 肩を竦めてテキトーに謝罪する。そのまま視線を出荷された豚肉に向ける。その視線を追うように光も見る。

「うわぁ……ひどいね。コレ」
「お前がやったんだろうが。お前が」
「いや、それはそうなんだけど。助けなきゃって思ったら勝手に体が動いちゃって……にしても、ボクこんなに強かったんだね」

 なんでそこで照れ笑いなんだよ……
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