Arm ~俺の下にあるアーム、もしかして世界最強!?~

Se1ene

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アルム四神編

第五話 : 救い

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 少女の話を聞いた俺は、不覚にも目頭が熱くなったのを感じた。
気になることがあったため、俺は祖母に向き直り、俺は疑問をぶつけた。

「何故、ここに閉じ込めるようにしているんだ。可哀そうじゃないか。鎖も繋がれているし」

 訳アリそうな顔で、祖母はこちらを見つめる。
一瞬の間を置き、鋭い視線はこちらを向きながら、静かな口調でこう語った。

「あの子はね、とにかく人間が苦手なの。あたしには最低限話はしてくれるのに、
 専門家の人には一言もしゃべらないのさ。震えては、怯えて何もできやしない」

 祖母は、少し悲しそうな目になる。続けて語る。

「ある時、あの子はこういったの。」

"私は、あの日お母さんを置いてきぼりにした時から、ずっと同じ夢を見るの、
 いつもは優しいお母さんが、鬼みたいな顔をして、私の悪口ばかり言ってくるの
 そして、いつも最後に決まって言うの。自分のやった事の懺悔を、暗い部屋で縛られ苦しみなさいと"

「そう言ってね、夢で母親に言われた通り、暗い部屋に連れて行き、
 縛ってやったのさ。苦しかったねぇ......あの時は。縛った次の日は、すっと悪夢が終わったみたいで、
 縛られてるのに幸せそうな顔をして、こっちを見てくるんだよ」

 そう語る祖母は、自身から零れる涙に気づき、
こんな年になっても涙ってのは枯れずに出るもんなんだねぇと、
微笑みとはかけ離れたような、笑っているようで笑っていない笑顔をこちらに向ける。
俺は、とても胸が苦しくなる。何故母親は、夢に出てきては苦しめるのだろう。
もし、仮に少女が見た夢だとしても、まだ幼い少女がそのような夢を見るのだろうか。
そこで俺は、とある事に気が付く。

――大人を拒絶 母親の死 悪夢 縛られる事で消える夢 幼い少女――

 静かにすすり泣く祖母の声をかき消すような声で、少女に問いかけた。

「お前、もしかして自分が母親を死なせてしまったのではと、考えていないか?」

 祖母が、こちらをバッと見る。
先ほどまで静かだった空間だったからか、俺の声が少しばかりうるさく感じた。
強く言い過ぎたか?と思い少女に謝罪として礼をする。
少女は、何の音も鳴らさず、小さく頷いた。
 やはり、そういう事だったのか。幼い少女と母親の逃避行。
あくまで憶測の範囲でしかないが、
母親はいつも娘の事を考えて、食べ物を優先的に与えていたはずだ。
一日で得られる水分や食料は、数少なかったろう。
そんな日々が、何日が続いてしまえば、確実に母親は栄養失調となりやつれていくはずだ。
少女が心配して食べ物を渡そうとしても拒否したのだろう。
そんな過酷な体調だったのに、毎日歩き続けたんだ。焚火をつけて、夜も何か起きないか警戒し続けたんだ。
そして、ついに限界は来て熱を出した。
ちゃんとした町があれば、治療はできる。そのくらいの病気だ。
しかし、熱のある母親、幼い子供、国からの追放。
何かしようと必死に考えても恐らく何もできなかっただろう。
そして、母親は最期まで必死に堪えたが悔しくも息を引き取った。
少女は、きっと自分に何かできる事を必死に考えて、とにかく動きまわっただろう。
動き回って遠くに行く度に怒られてしまい、何も出来なかっただろう。
 自分にできる事を探しても見つからない、まるで出口のないような迷路を歩き続ける苦悩を少女は味わったのだ。
そして、亡くなった時、少女は自分に対して問いかける。

――何故、救えなかったのか。何故、何も出来なかったのか。

 その考えの行きつく先が、自分が母親を殺めてしまった。という事だ。
夢で、母親に縛られろと言われ、しかも暗闇でと言われたのは、
きっと少女が見た苦しむ母親の姿そのものだったからだ。
体を病に侵され、病に縛られ。少女という存在に縛られ。
暗い恐ろしい夜の中で、ひたすらもがき苦しんだのだ。
その光景を、常に見守っていた少女が、自身をその身と同じ苦しみを味合わせて、
母親に対する懺悔を行うというのは無理もない。
 俺の中のつっかえが取れて再び少女に問う。

「きっとお前の母親は、自身の娘に対してそのような事をする人間じゃなかっただろ!
 自分の妄想の母親に苦しめられて、自身を傷つけるような事はするなよ!」

 言い過ぎてしまったような気がする。
しかし、これだけは抑えようがなかった。
若気の至りと言えばその通りなのだが、このようなデリケートな問題で、
ここまで首を突っ込み、一方的な事を言った自分に対して怒りが湧いてきた。
狭い部屋で反響する俺の声が無音になった時。
少女が、ぽろぽろと涙を流しながら、こちらを見てきた。
そして少女は、俺に対して初めて喋った。
長い長い苦しみから解放されたような、自分を憎むような声で。

「母は、私が苦しむ事は絶対に望まない人で、私に怒るような事はしませんでした。
 誰よりも私を愛してくました。でも、自分が悪いっていう考えが酷くて、
 あの光景が、失礼を承知の上で言うと、トラウマになっちゃったんです。
 それから私は、優しすぎる母親とは対称の、自分で作った母親に苦しめられるようになったんです。
 それが、私にできる事だと思っていました。
 薄々気づいていたんです。これでも私は年を取ります。
 考え方もたくさんの本を読むたびに変わってきて。
 でも、何故か体が言う事を聞かなくて、最早機械のような人間になっていました。
 自分の過去の悪夢やトラウマをやっと断ち切れそうです。あなたの言葉のおかげですね」

 乾いた涙の頬の痕が証明に照らされながら、
幸せそうな優しい笑顔で彼女は言った。
俺は、自分を憎む所だったが、いやしかし、言い過ぎた事に変わりはないため反省はしなければならないが、
これが俗に言う終わりよければなんとやらとそう思った。
最初は、ピリつくような空間だったこの部屋が、
今は何故か少し温もりを持った幸せな空間になったような気がした。
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