不死の悪役令嬢は妹と幸せになる為ならなんでもします

赤木

文字の大きさ
2 / 10

軽薄な男と婚約

しおりを挟む
 ⋯⋯私は焦っていた。
執務机には、これまでのキルシュ家の交友関係全ての書類が広げられている。襲撃された日から今日まで、ろくに睡眠をとらず犯人について調べていたが、未だ足取りが掴めていない。

「お嬢様、少しお休みになられては」
「ああ⋯⋯ありがとう。エリー」

「でも大丈夫」と伺いにきたメイドを手で制して追い返す。我がキルシュ家に仕えていた、多くの従者が先日の襲撃によって殺害されてしまった。

かなり大胆な手口であるのに、こんなにも足取りが掴めないなんて⋯⋯。そこで浮かび上がってくるのが、キルシュ家よりも地位の高い貴族か、それよりももっと大きな存在か。そんな嫌な予感。

(いずれにせよ、今ある手札では戦えそうにないわね⋯⋯)

この手は使いたくなかったれど、仕方がない。私は古くから交友のある男に連絡をいれた。

***


「やあ! ついに俺と結婚してくれる気になったのかな?」
「⋯⋯うるさい」

私から連絡を入れておいて何だが、呼んだことを少し⋯⋯いやかなり後悔した。

「アレン、何についての相談かはもう伝えてあるはずなんだけど?」

目の前の胡散臭い銀髪の髪を引っ張りながらそう伝える。寝不足なんだから余計な手を煩わせないで欲しい。

「いたたたた⋯⋯冗談冗談。それじゃあとりあえず当日の状況と交友関係の書類見せてよ」

貴族であるアレンに交友関係の書類まで渡すのは不本意だったが、キルシュ家の存亡が危うい今、仕方のないことだった。執務机に乱雑に置かれた書類を軽くまとめてアレンに渡すと、彼は素早く書類に目を通し始めた。

「当日の状況も伝えてくれていいよ」

本当に癪だが、アレンは出来る男だ。特にこういう時の彼は心底心強い。書類をペラペラとめくる彼を見つめながら私は当日の詳しい状況と考えを述べた。

「きっと交友関係のある貴族かキルシュ家に恨みを持っている貴族に違いないわ。最初は私の不死の力を知った貴族かとも思ったのだけれど、それなら私が死なない事を知っている筈だもの」

「ふーん⋯⋯」

アレンは聞いているのかいないのか、曖昧な返事をした後、書類をトントンと整えた。⋯⋯もう読み終わったのだろうか。彼はまとめた書類を私に返しながら、あっけらかんとこう言った。

「多分この書類の中には犯行を及んだ貴族はいないね」
「⋯⋯なぜそんなことがわかるの」
「そうだね、気を悪くしないで欲しいんだけど、キルシュ家を襲うメリットが何一つないという点かな。⋯⋯君はよく頑張っていると思うよ。しかしご両親を一度に亡くしてから、キルシュ家は少しずつ没落の一途を辿っていたのではないかな」

耳の痛い話だが、アレンの話は全て本当だった。

「あの一夜で屋敷中の従者をほとんど殺害し、君を探し出して刺すためには、かなり多くの人員を割く事になる。あの交友リストに載っている貴族は、ほとんどがキルシュ家が没落する前に深い親交にあった上流階級の貴族たちだ。そんな貴族たちがわざわざ、没落しかけている家を潰しにかかるかな?」

⋯⋯たしかに。

「まあ現時点では犯人だと断定できるような証拠は何一つないね」
「犯人を探すことはできる?」
「調べていけば⋯⋯たぶんね。」
「⋯⋯調べて欲しい」

「いいよ!」その答えを聞いて安堵したのも束の間、急激に近づいてきたアレンにぎょっとする。

「でもさ⋯⋯それって俺になんのメリットがあるのかな?」

人差し指と親指で顎を軽く持ち上げられ、アレンと視線がかち合う。血のような赤い目に射抜かれてしまいそうで、慌てて視線を逸らした。

「⋯⋯私を愛してるならそれくらい出来るでしょう」

苦し紛れに私の口から出たのはなんとも可愛げのない言葉だった。明らかな言葉の選択ミスだ。普段から憎まれ口を叩いているせいで、こういう時に可愛げのある言葉の一つもでない。

流石に怒った⋯⋯かな。

恐る恐る彼の顔を見ると、アレンはくつくつと喉を鳴らして笑っていた。

「っ!なんで笑ってるのよ!」
「いや、なんかマリアらしいなと思って」

「馬鹿にしてる訳じゃないんだよ?」そう言いながら彼は私の頭をぽんぽんと撫でた。まるで子供をあやすかのような手つきに顔が熱くなる。

「それじゃあさ、犯人を捕まえられたら、今度こそ俺と婚約してよ」
「⋯⋯それとこれとは話が別よ!」
「キルシュ家が没落しかけている今、俺と婚約するのはかなり有用だと思うんだけどね?公爵夫人になれば、キルシュ家を復興させるのも夢じゃないよ?」

それは全くもってその通りだった。アレンの爵位は公爵。そんなアレンと婚約を結ぶこととなれば、キルシュ家を再び復興させることも容易だろう。

(そうすればきっと⋯⋯ミリアを幸せにできる。)

「⋯⋯いいわ。犯人を見つけてくれたら貴方と結婚する」
「それじゃあ交渉成立ということで! また何か手がかりが掴めたら会いにくるよ、俺の奥さん」

そう言ってアレンは私を抱き寄せ、額に軽いキスを落とした後、颯爽と帰っていった。

あっという間の出来事に呆然としていた私が意識を取り戻したのは、彼がいなくなってから暫く経った後だった。








 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした

ゆっこ
恋愛
 豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。  玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。  そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。  そう、これは断罪劇。 「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」  殿下が声を張り上げた。 「――処刑とする!」  広間がざわめいた。  けれど私は、ただ静かに微笑んだ。 (あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。

しぎ
恋愛
カーティア・メラーニはある日、自分が悪役令嬢であることに気づいた。 断罪イベントまではあと数ヶ月、ヒロインへのざまぁ返しを計画…せずに、カーティアは大好きな読書を楽しみながら、修道院のパンフレットを取り寄せるのだった。悪役令嬢としての日々をカーティアがのんびり過ごしていると、不仲だったはずの婚約者との距離がだんだんおかしくなってきて…。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

転生モブは分岐点に立つ〜悪役令嬢かヒロインか、それが問題だ!〜

みおな
恋愛
 転生したら、乙女ゲームのモブ令嬢でした。って、どれだけラノベの世界なの?  だけど、ありがたいことに悪役令嬢でもヒロインでもなく、完全なモブ!!  これは離れたところから、乙女ゲームの展開を楽しもうと思っていたのに、どうして私が巻き込まれるの?  私ってモブですよね? さて、選択です。悪役令嬢ルート?ヒロインルート?

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

処理中です...