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第一章 冒険の始まり

2.AV女優も吃驚だ

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「お、おーい……んん?」

呼び掛けてもやはり返事はない
瞬きもしていなければ呼吸をしている様子も無かった

「つ…作りモンか…?めちゃくちゃリアルだなぁ…」

ほうと感心しつつ、無意識に手が伸びる
絵に描いたようなザ・村人な服装だけど、そこから垣間見える胸板が厚くて逞しくて気づいたら既に触れていた

「わわ…感触までリアルだ…ひえぇ、かっよすぎる…」

ペタペタと憧れの勇者である胸板を許可もなく触りまくる
こんな機会一生ないだろ!ってほど触ってたら急に頭上から声が降ってきた

「あ…あの、そんなに触られるとくすぐったいです」

「へぇッ!?ぅわっ!!」

勇者が突然喋りだした
余りにも驚きすぎて再び腰を抜かして地面にまた尻餅をつく

「ご、ごごごごめん!!作りモンだと思って!!ほんとに!!余りにも美しすぎて!!悪気はないんです!!どうか勘弁して下さい!!」

世界選手権に出れるんじゃないかと思うほど尻餅からの土下座の姿勢にシフトする速さは目を見張るものがあった
点数に表すと10点、10点、10点だ!出るかそんな不名誉な大会

地面に顔をくっつけて勇者に許しを請うても、全く返事が返ってこない

もしかしてキレた?ううう!この悪い右手め!出来心だとしてもやっていいコトと悪いコトがあるだろ!

まるで他人事のように、右手を握り締め唇を噛みしめる
そろそろ顔に当たる雑草がこそばゆくなり、恐る恐る上を見上げると再び勇者が、次は口を開いたままその場に停止していた。どゆこと?

「あ…あの…?」

まるでピクリとも動かない
AV女優が時間停止系のエロビデオで瞬きを我慢してピクピク動いているような様子もない
一体全体どういうことだ?

俺は立ち上がり、マジマジと見つめる

やはり先程とは少し表情も違う気がする
少し照れるような表情のまま、ピクリともしない

「だ、大丈夫か…?」

次は二の腕を叩くようにトントンと触れてみる
すると驚くほどの光の速さで、その腕を掴まれた

「あのっ!」

「ひ!ひぃ!?すいません!!ほんと!ごめんなさい!!」

強い力で手を捕まれ、引っ込めようにもビクともしない
やっぱ勇者力つえー!そこに痺れる憧れるぅ!俺は呑気か

「あっ…ご、ごめん、つい…何か…俺…急に動けなくなってしまって…意識はちゃんとあるんですけど…身体が動かせないんです…」

「へ?」

「あぁ、急にそんなこと言われても困りますよね!?でも、何故か貴方が触れた瞬間動けるようになって、俺も何が何だか…」

お互いが困惑したように俺はアホ面で瞬きを数回パチクリさせ、勇者は困ったように眉を顰める

「え、えぇと…」

動揺しながらとりあえず掴まれている自分の手を見つめる
それに気づいた勇者が、あっと閃いた声を出す

「じゃ、じゃあ、今から手を放しますから何か変顔してもらえませんか!?俺結構ツボ浅くって、笑わなかったら今の話信じて下さい!」

「はっ…?」

へ、変顔って!んな無茶な!
じゃあいきますよーと勇者は俺の返事も待たずに手を放す
ちょちょちょ、待ってくれ!もう既に勇者はまた石のように硬直し、まるで一人取り残されたように俺はその場に立ち尽くした

「へ…変顔…んんん、もうどうにでもなれ!」

俺は勢いに任せて渾身の変顔をつくって見せる
あ、そういえばまだ誰に転生したかも知らなかった。何処かの誰かさん、変な顔してごめんさい。とりあえず先に謝ります

そして、やはり返事はない
なんか物凄く不発感が否めなくて俺だけが恥ずかしい。何これ新手のイジメ?
耐えきれなくなってすぐ俺は勇者の腕を掴んだ

「……ッ……あ、ハハハッ!」

遅れて笑いがやってくる
なんか逆に恥ずかしくて、俺は口ごもってしまう

「……すいません、可愛いですね。あ、信じて貰えましたか?」

か、可愛い!?今のが!?勇者の感性は独特だなぁ

「あ、あぁ…うん…でもどうしてそんな事に…」

「俺も本当に分からないんです…空が急に光ったと思ったら気づいたら突然…」

んん?空が光るぅ?
うーん、それは…もしや…

「お…俺の…せいかも…」

「え?」

前の世界で突然死んだ俺は、何かの力でこの世界に転生した
そして勇者はこのゲームの主人公、つまりコントローラーで動かすキャラクターだ

なので、今一番可能性があるとするならば、プレイヤーだった俺が主人公に触れることで、漸く主人公が物理的にキャラとして動くようになれるって事か?俺はこの世界ではコントローラー的役割があるのかもしれない

「とりあえず、ここはまだ序盤のチュートリアル前だよな…」

「チュートリアル?」

「何でも無いです」

モヤモヤしててもしょうがない。現状はそういう事だと言うことにして、まずはストーリーを進める事に撤しようと思った

「あ、そうだラシエル、ちょっとこっち来てもらってもいい?」

「俺、名前言いましたっけ?」

「はっ!……あー……俺…実は予知能力があるんだよネ…」

「え!?預言者様なんですか!?凄い!」

「ウン、マア、エヘヘ~」

別に間違った事は言っていない
俺はこのゲームを熟知しているし、それぐらいの大義名分、背負ったって良いよね?

俺はラシエルの腕を引き、まずは当初の目的だった自分が誰に転生したのか、という目的を遂行するため、湖に顔を映す

水面が風に吹かれゆらゆらと光の屈折で歪み、しっかりと自分の顔を捉えるのに十数秒かかる

そしてやっとその人物が誰か分かった時、俺は愕然とした



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