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第一章 冒険の始まり
11.嫁イベ掻っ攫っちゃった
しおりを挟む意外と表情が豊かなんだなぁと、画面越しでは分からなかった勇者ラシエルの新たな一面に俺は見惚れてしまった
「リュドリカさん、俺何か気に触ること言いましたか?」
ラシエルは真剣な眼差しで、俺に面と向かって向き合う
「え?…なんで…別に…」
「凄く悲しそうな顔をしてたから…傷つけてしまったのならすいません」
次は少し寂しそうに、俺の手のひらを掴んで強く握りしめた
こんな神妙な態度を向けられるのは初めてのことなので、少しの気まずさに話を逸らしてしまう
「そんな事ないって!ていうかメルサは……」
「どうしてそんなにメルサの事を気にするんですか?」
次にラシエルは顔をあからさまに顰めて、不服そうに俺に尋ねる
ドキッとした俺はつい吃ってしまう
「ど、どうしてって…それは…」
「俺達、結婚したのに」
「………ん?」
結婚したのに?
聞き間違いか、まだそんな事を言っているのか、俺は声を荒げた
「け…結婚!?誰が!?誰と!?」
「俺の事嫌いですか?」
「そんな事ない!寧ろめちゃくちゃ好き!」
しまった!子犬のような悲しそうな顔で見つめてくるから反射的に答えてしまった!ラシエルは嬉しそうな笑顔を見せる。ああそんな所も凄く可愛い好き
でもそれは、尊敬とか憧れとか男としてってことであって…恋愛的な意味は……無い、よな?無いはず!
「だったら……俺と結婚、しましょう。俺が必ず貴方を守りますから」
ちょっと待て!そのセリフ、本来ならばここでメルサに言うはずだったのでは!?俺、そのイベント掻っ攫っちゃった!?
「い…いや…俺達出会ったばかりだし…男同士だし…それにお互い何にも知らないじゃん…」
俺は知ってるけど
この世界カロリアにまつわる歴代勇者の末裔で、齢18を迎えると聖剣が選ばれし勇者の元へ帰る
それは魔王の復活と、この世界の危機が迫る証でもあった
そんな運命を背負って、正義感と使命感を持ったラシエル・アーマイトは、立ちはだかる数々の敵に立ち向かい、蝶のように舞い蜂のように刺す剣技は、獅子の舞人と異名が付きこの世界に名を轟かせる事も全て知っている
「そんなの、これから知っていけば良いと思いますし、性別は関係ないです…それに…」
「それに?」
「初めてなんです、こんなにストレートに想いを伝えてくれた人は」
「へ?」
「ほら、言いましたよね?さっきも好きとか…カッコいいとか…惚れる…とも…嬉しいです。そんな風に想いを伝えてくれると」
「ん゙……」
それは…所謂一ファンとしてであって恋愛感情では…
しかし俺を見つめるラシエルの瞳は、屈託のない真っ直ぐな眼差しで、今更違うだなんて到底否定出来る雰囲気では無かった
「う…わ…かった…俺なんかで良ければ…」
あ、なんか今ミッションコンプリートの音楽聞こえたような
転生してから思わぬ方向にストーリーが進んでいってしまってる気がするけど…どうにかなるのか…どうにかなるよな!俺このゲーム熟知してるし!
「はい!ふふ、嬉しいです。そろそろ家に戻りましょう」
「あっ……お、おう!」
まあ今はとりあえず後々に現れるであろう次のヒロインにこの軌道修正を任せるとして、口約束でしかない結婚を受け入れるとするか
ラシエルが俺に向ける笑顔が眩しくて思わずこちらも自然に笑みが溢れる
そんな呑気な事を考えては、このゲームが本筋から尽く逸れていってしまうことなど、悠長な俺は知る由もなかった
.
あの後、ラシエルの家へと戻った俺はそこで一晩過ごす
そして朝になり目覚めると、横で目を瞑り動かなくなった勇者が横たわっていた
「…………これは……」
ラシエルの寝顔をマジマジと見つめる
洗練された顔面国宝のような造りはどれだけ見てても飽きることがない
しかし寝息も立たず、腹式呼吸もしている様子はない
完全に固まってしまっている
「ラシエル…大丈夫か…?」
ラシエルの肩にトンと手を置く
すると段々と生気が蘇るように血色も良くなっていく
スゥ、と息が吐かれラシエルがゆっくりと目を覚ます
「……おはようございます。一時間ほど前に目覚めてたんですが、動けなくて…」
「ご…ごめん…寝すぎた…てか、なんでまた動けなくなって…」
「もしかしたら、一日経つとリセットされてしまうのかもしれませんね」
勇者が肩に置かれた俺の手を掴むと、そのままグイッと身体を引き寄せられた
「えっ!?…な、なに?」
「キスしてもいいですか?」
「きっ…何で!?」
「ずっと手を繋いでいたらお互い何かと不便じゃないですか?俺は別にそれでも構いませんけど」
「あっ…そ…それは…でも別にき……すじゃなくても…」
「他に何か良い案はありますか?」
「え…えーと…」
「俺は別に貴方のモノなら何でも構いませんよ。髪でも爪でも、何なら尿でも」
「な…っ!?何言ってんだ!!バカ!!」
体の一部…髪の毛…爪…そんなの不潔すぎて高潔な勇者に持たせるなんて以てのほかだし…尿って!!何考えてんだコイツ!?
「そ…そしたら…」
かといって…指!?目!?臓器!?そんな任侠映画のようなムゴい絵面は似つかわしくない…ダメだ…目覚めたてじゃ何も良い案が思いつかない…
うーんと回らない頭で考えあぐねた結果、俺は腹を括った
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