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第三章 迅雷の国カンナル

32.神獣ライダンとの対峙

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「はっ…あ……ラシエル…どこにいったんだろう……」

すぐに後を追ったものの、ラシエルの姿は何処にも見当たらない
ナルマ族のとんがり帽子で雨風を防げても、目の前は一寸先も見えないほど視界が効かなかった

こうなってしまえば少しでも多く綿を回収しようと、俺は大樹の森の周回コースに足を運ぼうと試みる

「ふぅ……でも…風が強すぎて前が見えない…今どの辺りだ…?」

キョロキョロと周りを見渡しても、どこも似たような光景に頭が回る
風が強すぎて足取りが重い。少しでも油断すれば足がもつれてひっくり返ってしまいそうだ
このままでは迷子になってしまうと、俺は来た道を引き返そうと踵を返した

「ッ!」

ーー激しい豪雨の中 森の奥で 何かが光る

遥か上空から突き刺す稲光が、目の前に広がった
ドォーンという地鳴りを伴う自然の猛威が、リュドリカの足を強張らせる

「あ……れは……まさか…」

四脚の獣
淡い光を纏ったアレは、その周りだけが異様な程に晴れていた

「ライ…ダン……」

腰から力が抜け落ち、その場にへたり込む
神獣ライダンがリュドリカの目の前に立ち塞ぎ、射るような眼差しが獲物を捉えた





.





「ハァ……全く見つからない……これだけ探してやっと五つ…体力の消耗も激しい……一旦森の外に引き返した方が…」

ラシエルは豪雨の中、綿を探し回っていた
体中が泥塗れになり体力スタミナ共に底を突きかけて、そろそろ限界だと察した頃、暴力的に打ち付ける雨の散弾が徐々に弱まるのを感じた

「………?……雨が……」

雨脚が遠のき、分厚く灰黒い曇天も次第に引いていく
そして遂に上空に青空が広がっていった

「……どういうことだ…?」

ラシエルは顔に掛かった泥や汗を袖で拭い、呆然と立ち尽くす
すると遠くから自身を呼ぶ声が小さく聞こえた

「……おーい!」

「……?」

「おーい!ラシエル~!」

声が次第に大きくなり呼ばれた方角に目を向けると、そこにいたのはこの国の神獣ライダンに跨るリュドリカの姿だった

「え……?一体どうして……」

ラシエルのすぐ側まで行くと、リュドリカはぎこちない動作でライダンから降りるのを咄嗟にラシエルは落ちないように支えた

「お、わ、わっ…と……へへ、ありがと」

「リュドリカさん…これは……」

「えっと…なんかよく分かんないけど俺の事気に入ったって言って雷も止めてくれたんだよ!」

ニコニコと笑うリュドリカの横には、ラシエルをキツく睨みつける神獣ライダンがブルルと鼻息を荒くしている

〈リュドリカ、ソイツは何だ。殺しても良いのか〉

純白の美しい毛並みを持った神獣ライダンは、一際輝くたてがみを横に振りかざし、リュドリカの前に強く土を踏み締め敵を見るかのようにラシエルを捉える
リュドリカはその反応に驚いてどうどうとライダンの背中を擦る

「えぇっ!?ダメだよ!俺の大事な友達なんだから!」

「……友達…」

リュドリカは憤るライダンを必死に宥めるが、ラシエルは段々と表情が曇る

〈ソイツはお前にとって危険因子になり兼ねない。今すぐ始末しないとマズい事になる〉

ライダンは粘り付くような軽蔑の視線をラシエルに向けた
リュドリカは冗談だと思ったのか、一人呑気に笑い出す

「アハハ、何言ってんだよ?ラシエルが俺に危害を加えるワケないだろ」

〈否、ヤツはお前を狙っている。俺には分かる、目を見れば分かる〉

「………。」

ラシエルとライダンは冷めきった目付きでお互いを敵意丸出しで睨み合っている
リュドリカはそのあまりの冷然たる空気にしどろもどろになり交互に二人を見やった

「え、なんでそんな睨み合ってんの……?」

「リュドリカさん……コイツはもうこの国の神獣としての役目を務めるのは無理です。今すぐ殺さないと……」

「……へ?ちょ、ラシエルまで何言ってんだよ?」

「コイツは気高きペガサスとしての威厳を捨ててます。完全に魔王に洗脳されている。俺なら楽に殺せます」

ラシエルは背中に手を伸ばし、スゥと聖剣を取り出す
それを見たライダンも、嘶きをあげ威嚇するように両脚を高く上げた。途端快晴だった雲行きが怪しくなる

〈リュドリカの純潔は我が守る。一瞬で始末する〉

「離れていて下さい、リュドリカさん。すぐに倒します」

「おい!?何で揉めてんのかさっぱりなんだけど!?落ち着けってお前ら!?」

今すぐでも物騒なことが始まりそうな殺気立った状況におろおろとしながらリュドリカは二人を止めようとしたその時

「なんだぁ!兄ちゃんたちこんなところにいたのか!」

陽気な声が遠くから聞こえる
その方角に目を向けると、先程ラシエル達に助けを求めたナルマ族の小人が駆け寄ってきていた

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