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第五章 光風の国ブリサルト

46.不穏な祝賀会

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ラシエルの先程の謎の怒りは収まったのかぎゅう、と俺を抱きしめてくる

「なっ!?周りっ見てるから!」

「俺がどれだけ貴方を想っているのかも、早く分かって下さい」

「はぁっ?」

ラシエルがグッと腰を引き寄せる
何か硬いものが、俺の腹辺りにグリグリ当たるのを感じる
それが何か分からないほど俺はバカではない

「ばッ何で勃っ…や、離せっ!」

「貴方にこれだけ欲情してるんですよ?ずっと我慢して、大切に想っているから最後までは手を出さなかったのに、その結果貴方は俺を傷付けた」

「えっ…な、なにっ!?」

周囲がざわざわとしながらこちらを見ていて、ラシエルの言葉が全く耳に入らない
恥ずかしくて頭がどうにかなりそうで、俺は顔を真っ赤にさせた

この国ブリサルトの問題が解決したら、貴方を抱きます。そのつもりでいて下さい」

「……へっ?」

ラシエルは漸く俺を解放すると、向こうで咳込んでいる人を見つけ足早に駆けて行ってしまう
呆然と立ち尽くす俺は、ラシエルの言葉を頭で反芻させた

だ……抱く……?それって……

「えっちするってこと!?」

考え無しに大声で俺は叫んだ
そしてハッとして両手で口を塞ぐ
一部始終を野次馬していた人々も、コソコソとこちらを見ながら散り散りになっていく
その中にサラもまた、その一部始終を呆然と見ていた





.





サラの評判度を無事に上げ切った俺達は、遂に王室からその能力を買われてお呼ばれすることに成功した
サラはブリサルトの英雄として讃えられ、その功績を祝しお城で盛大な宴が開かれることとなった

「サラ様が次期女王になるのは時間の問題ですな」

「あぁ、間違いない。前女王に次ぐあの美貌に類稀なる治癒の力。この国も安泰です」

女王には子はおらずその統治は精霊であるが故に千年以上に渡り続いてきたが、女王なき今サラが新たな女王になるとパーティの話題はその話で持ち切りだった

「リュドリカさん、これも美味しいですよ」

「あっ、うん、さんきゅ」

ラシエルと俺は宴会場の端で食べ物を摘み、ホールの真ん中でチヤホヤされるサラをボーッと見ている
正確には見ているのは俺だけで、ラシエルは次々と俺の皿に食べ物を配膳している

サラを囲む人々が次々に感謝の意を述べながら必死に取り入ろうとする姿が目に余る
サラは謙虚に薄く笑い、そのどれにもしっかりと受け答えをしている

しかしサラがこの国の女王になることは決してない
洗脳を受けた自国の為に、ミジャルーサを救った後にこの国の援軍を求める
女王ミジャルーサは快くそれを引き受け、魔王討伐後カタルアローズとブリサルトは、遠いながらも堅いパートナーシップを築いていく
本当に素晴らしい王女様だよなぁ

それに、サラと婚約を結べば治癒の他に攻撃力バフ効果も付いてきて、あの聖母のような優しさと相まってBSBのファンの間じゃバブ姫なんて呼ばれている

「サラって、」

「はい、これもどうぞ」

「あ…うん…」

なんだかサラの話題を出そうとするとはぐらかされる、気がする
たくさん食べて下さいとニコニコとラシエルは笑いかけるので、俺は遠慮なくご馳走をつまんだ

まあ食べ物は美味しいし、生きていた日本じゃなかなか見られない優雅なダンスも凄くきらびやかで良いものだ。
きっと明日は女郎蜘蛛と化したミジャルーサと遂に対戦の日
女王の神器の弓矢も無事にサラのおかげで手に入った事だし、俺はこの瞬間を楽しもうと思った

「あ、向こうにデザートがあるみたいです。取ってきますね」

「えっ、ほんと?わーい、ありがとうラシエル」

俺は笑顔でラシエルを見送る
何でもないような素振りを精一杯見せているが、本当は内心先日のラシエルの言葉に凄く悩まされていた

明日、もし、ミジャルーサを倒したら……
そこまで考えてハッとする
いやいや、絶対倒すんだ、ラシエルは。ゲームオーバーなんて許されない
でも、そしたら、俺はラシエルに……

カッと顔が熱くなる
心臓がバクバクと鼓動を早め、ラシエルの顔が脳裏に浮かぶ

うわっ!何考えてんだ!俺!
誤魔化すように手に持っていたグラスを勢いよく飲み干し、ご馳走をかきこんだ

酔いが回り呆然と口に物を入れたままきっと阿呆面で立ち尽くしている俺に、後ろから声を掛けられる

「リュドリカ様」

「んぇ…?」

気の抜けた声で、振り返る
ラシエルが戻ってきた?それにしては早すぎるよななんて考えて見てみると、そこには漆のような綺麗な黒髪ワンレンロングストレートの、会場の灯りに照らされて余計にキラキラと輝く金色の瞳とバチッと目があった

「リュドリカ様、今良いですか?」

「……えっ!?さ、サラ…!?さま……」

サラがいつの間にか俺の側に来ていた
目の前に立つ美人につい狼狽える。俺は挙動不審になりながらなんとか言葉を探した

「あっ、えと、ラシエル?……なら、さっきデザート取りに……」

「いいえ、貴方に用があります。テラスに移動出来ますか?」

「お、俺っ!?あ……はい……」

サラに連れられて、俺はあれよあれよとテラスまで連れて行かれた




「……リュドリカさん…?一体どこに……」

後から戻ってきたラシエルは、いつの間にか居なくなったリュドリカの姿に、心をざわつかせた



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