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第20話
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白虎族――正確にはダークエルフ族と共存していた白虎族のスキルは素晴らしかったが、その能力の半分も活かすことはできなかった。
ボロ屋だった家の一室の改築はできたが、寝床だけ確保するのが精一杯だった。
ダークエルフ族や獣人族からご厚意でいただいた簡易的なご飯を食べて眠り、翌日の朝から夜まで働いて、新品同様の家を手に入れることができた。
「ざっとこんなもんよ」
これよ、これ!
これこそが夢にまで見たスローライフや!
手を叩きながら満足げな俺に拍手を送ってくれるギンコとクシィーちゃん。
ちゃんと個室も作ったから文句はないはずだ。
もちろん、ブラックウルフのウルルの小屋も作ったぞ。使うのはもう少し成長してからになるやろうけど。
「もう白虎族でいる必要はありませんわね。はやく元のお姿に戻ってくださいまし」
9本の尻尾を振り乱しているギンコの要望に応えるために、ステータスオープンさんにお願いすると一瞬で体が変化した。
「これでええか?」
「これです! このお姿こそが旦那様! ひゃー! 太陽を浴びた麦のような香りがたまりません」
俺の尻尾に顔をうずくめるギンコ。ちゃっかりウルルまで。
「お疲れ様でした。全てお任せしてすみません」
「ええよ、ええよ。家の組み方を教えてくれたのはクスィーちゃんやし。お互い様やって」
差し出された水を飲み干した。
「次は食糧問題か」
ここからは自給自足になる。
畑を耕すのはマストだが、時間がかかるからもっと手っ取り早い方法がいい。
「私にお任せください。狩りは得意なので」
「じゃあ、お願い」
俺の返答があっさりしていたからか、クスィーちゃんが意表をつかれたような顔をして硬直した。
彼女は矢筒を持ってきていない。
つまり、獲物を仕留める矢を自分の魔力で作らないといけないのだ。
「いい練習になるな」
「……謀りましたね、トーヤ」
この子の涙を溜めた悔しそうな顔はクセになるな。
「食糧はクスィーちゃんに任せるとして、次は風呂かな」
「妾の出番?」
「いや、ギンコはウルルの相手をしといてや。用があったら呼ぶから」
釈然としないギンコが走れるようになったウルルと駆け出す。
ブラックウルフの成長が早いことに違和感を覚えるのは俺だけらしい。
誰もいなくなった後、腕まくりした俺は白虎族になって簡易的な風呂作りに取り掛かった。
それなら数時間後、ドラム缶風呂もどきが完成した。
いずれは室内に浴室を作りたいが、今はこれで我慢だ。
右を見れば、死に物狂いで狩ってきたと思われる巨大な鳥型のモンスターを引きずるクスィーちゃん。
左を見れば、退屈そうに猫じゃらしを振ってウルルの遊び相手をしているギンコ。
猫又族になった俺は手際良く、鳥型モンスターを捌いて料理の仕込みを進めた。
「ギンコ」
「はい!」
やっと出番が来た、と意気込むギンコに指さしてお願いごとをした。
「火」
「は?」
「だから、火くれ」
ここだけを切り取るとタバコに火をつけろと言っているみたいで嫌な気持ちになってしまった
「鳥を焼くから火をください。あと、風呂も焚きたいから力を貸して」
「狐火で良いなら」
ギンコの手から出た薄紫の炎はすぐに薪に燃え移り、高火力になった。
同様に水の入った巨大な桶も沸かしてもらい、いつでも風呂に入れる準備を整えておく。
先に出来上がったのは、鳥型モンスターの丸焼きだ。
クスィーちゃんは一羽しか獲れなかったことをずっと引きずっていたが、坊主よりはいい。
それに魔力の矢を作り出すことに時間がかかるだけで、その作業が終わればもっと仕留められるはずだ。
一口頬張ってみる。
食えなくはない。
ダークエルフ族の集落で食べた料理とは雲泥の差があった。
「やっぱり、あそこの猫又族の料理スキルは高かったんだな」
白虎族も猫又族も本来のステータスは戦闘向きだった。
しかし、俺が触れ合った彼らは戦闘力を削る代わりに、より良い生活を送るために必要なスキルを得ていた。
その努力は計り知れない。
『超適応』で同じ種族になったからと言って、同様の技術やスキルを一朝一夕には得られないのだ。
「トーヤ?」
「万能スキルじゃないってことか。もっと改良する余地があるな」
心配そうに俺の顔を覗くクスィーちゃんに首を振り、丸焼きのモモにかぶりついた。
「このモンスターは何?」
「デスクックという魔鳥です。ダークエルフ族が食用にしていたモンスターとは異なるので味が落ちるのは仕方ないですよ。私がもっと上質なモンスターを狩れれば良かったのですが」
クスィーちゃんのフォローが辛い。
「俺がもっと上手に料理できれば良かったんやから、気にすることないで」
「はいはい。辛気臭いの禁止ー。旦那様、お先に湯浴みをどうぞ」
手を打ったギンコに促され、ドラム缶風呂もどきの方へ。
ウルルも一緒に入り、久々の感覚に酔いしれた。
やっぱり風呂はいい。
早く大浴場を作りたいな。
自力で作るのが無理なら誰かの手を借りるか。
異世界ならドワーフ族とかも存在するのか?
人族に味方しているイメージだけど、魔王国にもいるのだろうか。
風呂から上がると、二人が食事の片付けを済ませてくれていた。
「お先。二人も順番に入ってな」
ギンコのことだから、一緒にとか言い出すかと思っていたがそんなことはなかった。
安心したけど、ちょっと期待していたのも事実だ。
断るつもりだから余計に恥ずかしい。
ちょいちょいと小さく手招きしているギンコの元へ歩み寄る。
「次は二人きりで」
「~~~~っ!?」
悪戯っぽくウインクする姿には不覚にもときめいてしまった。
ボロ屋だった家の一室の改築はできたが、寝床だけ確保するのが精一杯だった。
ダークエルフ族や獣人族からご厚意でいただいた簡易的なご飯を食べて眠り、翌日の朝から夜まで働いて、新品同様の家を手に入れることができた。
「ざっとこんなもんよ」
これよ、これ!
これこそが夢にまで見たスローライフや!
手を叩きながら満足げな俺に拍手を送ってくれるギンコとクシィーちゃん。
ちゃんと個室も作ったから文句はないはずだ。
もちろん、ブラックウルフのウルルの小屋も作ったぞ。使うのはもう少し成長してからになるやろうけど。
「もう白虎族でいる必要はありませんわね。はやく元のお姿に戻ってくださいまし」
9本の尻尾を振り乱しているギンコの要望に応えるために、ステータスオープンさんにお願いすると一瞬で体が変化した。
「これでええか?」
「これです! このお姿こそが旦那様! ひゃー! 太陽を浴びた麦のような香りがたまりません」
俺の尻尾に顔をうずくめるギンコ。ちゃっかりウルルまで。
「お疲れ様でした。全てお任せしてすみません」
「ええよ、ええよ。家の組み方を教えてくれたのはクスィーちゃんやし。お互い様やって」
差し出された水を飲み干した。
「次は食糧問題か」
ここからは自給自足になる。
畑を耕すのはマストだが、時間がかかるからもっと手っ取り早い方法がいい。
「私にお任せください。狩りは得意なので」
「じゃあ、お願い」
俺の返答があっさりしていたからか、クスィーちゃんが意表をつかれたような顔をして硬直した。
彼女は矢筒を持ってきていない。
つまり、獲物を仕留める矢を自分の魔力で作らないといけないのだ。
「いい練習になるな」
「……謀りましたね、トーヤ」
この子の涙を溜めた悔しそうな顔はクセになるな。
「食糧はクスィーちゃんに任せるとして、次は風呂かな」
「妾の出番?」
「いや、ギンコはウルルの相手をしといてや。用があったら呼ぶから」
釈然としないギンコが走れるようになったウルルと駆け出す。
ブラックウルフの成長が早いことに違和感を覚えるのは俺だけらしい。
誰もいなくなった後、腕まくりした俺は白虎族になって簡易的な風呂作りに取り掛かった。
それなら数時間後、ドラム缶風呂もどきが完成した。
いずれは室内に浴室を作りたいが、今はこれで我慢だ。
右を見れば、死に物狂いで狩ってきたと思われる巨大な鳥型のモンスターを引きずるクスィーちゃん。
左を見れば、退屈そうに猫じゃらしを振ってウルルの遊び相手をしているギンコ。
猫又族になった俺は手際良く、鳥型モンスターを捌いて料理の仕込みを進めた。
「ギンコ」
「はい!」
やっと出番が来た、と意気込むギンコに指さしてお願いごとをした。
「火」
「は?」
「だから、火くれ」
ここだけを切り取るとタバコに火をつけろと言っているみたいで嫌な気持ちになってしまった
「鳥を焼くから火をください。あと、風呂も焚きたいから力を貸して」
「狐火で良いなら」
ギンコの手から出た薄紫の炎はすぐに薪に燃え移り、高火力になった。
同様に水の入った巨大な桶も沸かしてもらい、いつでも風呂に入れる準備を整えておく。
先に出来上がったのは、鳥型モンスターの丸焼きだ。
クスィーちゃんは一羽しか獲れなかったことをずっと引きずっていたが、坊主よりはいい。
それに魔力の矢を作り出すことに時間がかかるだけで、その作業が終わればもっと仕留められるはずだ。
一口頬張ってみる。
食えなくはない。
ダークエルフ族の集落で食べた料理とは雲泥の差があった。
「やっぱり、あそこの猫又族の料理スキルは高かったんだな」
白虎族も猫又族も本来のステータスは戦闘向きだった。
しかし、俺が触れ合った彼らは戦闘力を削る代わりに、より良い生活を送るために必要なスキルを得ていた。
その努力は計り知れない。
『超適応』で同じ種族になったからと言って、同様の技術やスキルを一朝一夕には得られないのだ。
「トーヤ?」
「万能スキルじゃないってことか。もっと改良する余地があるな」
心配そうに俺の顔を覗くクスィーちゃんに首を振り、丸焼きのモモにかぶりついた。
「このモンスターは何?」
「デスクックという魔鳥です。ダークエルフ族が食用にしていたモンスターとは異なるので味が落ちるのは仕方ないですよ。私がもっと上質なモンスターを狩れれば良かったのですが」
クスィーちゃんのフォローが辛い。
「俺がもっと上手に料理できれば良かったんやから、気にすることないで」
「はいはい。辛気臭いの禁止ー。旦那様、お先に湯浴みをどうぞ」
手を打ったギンコに促され、ドラム缶風呂もどきの方へ。
ウルルも一緒に入り、久々の感覚に酔いしれた。
やっぱり風呂はいい。
早く大浴場を作りたいな。
自力で作るのが無理なら誰かの手を借りるか。
異世界ならドワーフ族とかも存在するのか?
人族に味方しているイメージだけど、魔王国にもいるのだろうか。
風呂から上がると、二人が食事の片付けを済ませてくれていた。
「お先。二人も順番に入ってな」
ギンコのことだから、一緒にとか言い出すかと思っていたがそんなことはなかった。
安心したけど、ちょっと期待していたのも事実だ。
断るつもりだから余計に恥ずかしい。
ちょいちょいと小さく手招きしているギンコの元へ歩み寄る。
「次は二人きりで」
「~~~~っ!?」
悪戯っぽくウインクする姿には不覚にもときめいてしまった。
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