抱き締めても良いですか?

樹々

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抱き締めても良いですか?

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 病院から外出すると、愛歩が通っている高校へ向かった。指定されている商業施設に駐車し、眼鏡を外すと下りた。浩介の話では、友達の前原有紀が乗るバス停まで一緒に帰ってくるので、そこから愛歩を引き受けるらしい。
 帰宅している高校生を眺めながらバス停まで歩いて行く。ハイテンションな生徒は、もうすぐ卒業を迎える子達だろう。愛歩もその一人だった。
 卒業後も、真澄の側に居てもらいたいと思っている。一人で過ごしてきた真澄にとって、愛歩は眩しい光になっている。私達大人とは違い、愛歩は遠慮なく話す。友達のように、あるいは恋人のように。
 二人の恋愛まで干渉する気はないけれど、弟の気持ちは良く分かる。眩しい光に、真澄は初めて恋をしている。
 前を通り過ぎていく高校生達を見送りながら、友達の有紀と小突き合いながら歩いてくる愛歩を見つけた。
「やあ、お帰り」
「あれ、変態兄さん」
「ブラコンさん、こんにちは」
 妙なあだ名を付けられているけれど気にしない。
「秘書さんはどうしたんですか?」
「ちょっとお熱でね」
「ああ、それで。いつもと何か違うなーって思ってたんだ」
「フラフラしてたよな」
 愛歩も有紀も気付いていたようだ。
「目が腫れてるし。でも聞いちゃいけない雰囲気があったから」
「そっとしてあげて。半分以上、私のせいなんだけど」
「え、また何かやらかしたんですか?」
「またって……酷いな~」
「拉致者っていう前例あるし」
 有紀が腰を突いてくる。頭を掻きながら受け入れた。
「ま、そういう訳で。明日も私が送るからね」
「前の運転手さんでも良いですよ?」
「ダメダメ。ボディーガードも兼ねてるから」
 慎二からは、今入院している碕山陸人が白だという情報が来ない。犯人が捕まっていない以上、愛歩を無防備には歩かせられない。
「ボディーガードって、ブラコンさん、強いんですか?」
「少なくとも、二人には負けないよ」
 にっこり笑いながら二人の腕を軽く捻りあげた。動きを封じてしまう。
「おお、動けねぇ!」
「でしょ? まあ、外科担当になってから、拳の殴り合いは卒業したけどね」
 二人を離すと愛歩が悔しそうに睨んでくる。
「秘書さんに柔道仕込んでもらったら投げてやる!」
「頑張りなさい。じゃ、帰ろうか」
 悔しそうな愛歩の背中を押し、有紀の頭をポンッと叩いて見送った。
「じゃ、またな~!」
「ああ、またな!」
 手を振り合う二人に、若いな、と思いながら歩いて行く。真澄にも、こういった友達を作らせてやりたかった。
 運転席に乗りこむと、愛歩も乗ってくる。外車に乗るのが初めてなのか、そわそわと中を見て回っている。結構、頑張って買った車だ。存分に見て欲しい。
「そうだ、愛歩君、卒業式の後、予定ある?」
「特には。有紀は彼女と大人デートだって言ってたし。ヒートが近いから、集まりには参加しないし」
「じゃ、真澄とデートしてくれる?」
「デート?」
「うん、遊園地に行きたいって言っててね。二時間くらいなら、良いかなと思ってる」
 車を走らせながら話した。
「卒業後は一度、ご両親のもとへ戻ってもらうから。ヒートが終わったら、また来て欲しい」
「了解です」
「プレゼントも用意しておくからね」
「……怪しいっすね」
「やだな~、何も怪しくないって」
 警戒心を露わにしている愛歩に苦笑してしまう。実家の桃ノ木家まで送ってあげた。
「じゃ、また明日迎えに来るね」
「ありがとうございました」
 軽く頭を下げた愛歩は家に入っていく。私を嫌っていても、お礼はちゃんと言える子だった。
「弟になってくれないかな~」
 優しい、良い子だ。真澄の番にこれ以上の存在はないだろう。
 思えども、無理強いはもうしない。病院まで車を走らせる。真澄に会いたかったけれど、そろそろ茜の勤務時間が終わるので迎えに行かなければ。
 一度、執務室に寄ると、起きていた浩介が書類整理をしているところだった。
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