抱き締めても良いですか?

樹々

文字の大きさ
上 下
79 / 152
抱き締めても良いですか?

25-2

しおりを挟む

「あのイケメン誰!?」
「イケメン? 居たか?」
「さあ」
 よく分からないけれど興奮気味に俺の背中をバンバン叩いてくる。
「もう! なになに!? 秘書風シブメンの次はダンディイケメンって! 田津原君、何者!?」
「ダンディ? あの人が?」
「へー、女子から見るとそう見えるんだな」
「良いな~! 毎朝、シブメンを拝んでたら今日はダンディでしょ! もう、ありがとう!」
 両手を握られてしまう。するともう一人加わった。隣のクラスの女子だった。
「私も見た! 私もあんな外車で送ってもらいたい!」
「モデルみたいだったよね! ねえ、帰りもあの人が来るの!?」
 二人が喰い気味に迫ってくる。有紀が思い切り吹き出している。
「愛歩のイケメン霞んでんじゃん!」
「俺は別にイケメンだと思ってねぇし。つか、秘書さんってシブメンっ呼ばれてんの?」
「最初見たときは怖かったんだけど。髪下ろしてスッと立ってる姿がもう、やばいの!!」
「分かる!! 噂になってるもんね!」
 女子二人が騒ぎ出したので、そっと手を放すと距離を取った。そろそろと歩いて行く。有紀と一緒に下駄箱へ走った。二人はまだ話しに夢中になっていた。
「どっちにしても目立ってたのか」
「まあ、分かるよなー。秘書さん、顔立ち綺麗だろ。無表情じゃなきゃ、もっとモテると思う」
「秘書さんは分かるけど、変態兄さんがモテるのは納得いかねーな」
 真澄大好き変態兄がダンディ? 俺にはそう思えない。
「まあ、お前は真澄さん大好きだからな。他の男の顔なんて気にしないだろう?」
「顔立ちは似てるかもしれないけど、真澄さんは可愛いって感じなんだよ。変態兄さんとは違う……ってまたお前!」
「可愛いのか。見てみたいな~。写真撮ってこいよ」
「撮らねぇし!」
 いつも有紀の誘導に乗ってしまう。教室に入ると、先ほどの女子達も駆け込んできた。
「今日はどっち!?」
「分かんねぇ。秘書さん、熱出したって聞いてるから」
「じゃ、ダンディの可能性があるのね!」
 二人はそう叫ぶと、また廊下に飛び出していった。
「元気だな~」
「つか、あの人見てどうすんだ?」
「目の保養じゃないの? 眼鏡を外してると若く見えるっちゃ見えるよな」
「そういや、してねぇな」
 いつも掛けている眼鏡はどうしたのだろう。思っていると担任の平田先生が入ってくる。慌ただしくクラスメイトが席に着いた。
「おはよう。もうすぐだからな。全員、揃って卒業するぞ。風邪ひくなよー」
 そう言うと、出席確認が始まった。
 もうすぐ卒業。
 俺も、卒業式には出たい。
 有紀と揃って、普通の人として、卒業したかった。

***

「やあ、お帰り」
「あれ、やっぱりまだ熱出てるんですか?」
 有紀が乗るバス停付近で待っていたのは、瑛太の方だった。眼鏡を外している彼は困ったように頭を掻いている。
「まあ、大人の事情?」
「高いんですか? 変態兄さん、忙しいなら前の運転手さんでも……」
「私が迎えに来るのは問題ないんだけど。本当に、二人には申し訳ないことをしてしまったよ」
 はあ、と溜息をついている。有紀が背中をポンポン叩いてやっている。
「何やらかしたんですか?」
「ちょーっと琴南さんを嫉妬させようと思って、浩介君に悪戯したんだけど……。思いの外琴南さんが切れてしまって」
 思い出しているのか顔がだんだん暗くなっていく。
「それが原因でぎくしゃくしてるところに、私がタイミング悪く電話をかけたせいで、琴南さんが怪我しちゃうし」
「怪我?」
「うん。浩介君、怪我してる琴南さんに絶対手は出せないって頑なで」
 はあ、とまた溜息をついている。有紀が、ああ、と頷いた。
「番同士でイチャつけないってことですね」
「イチャつく?」
「あ、お前にはまだ早かったかー」
「んだよ、大人ぶんなって」
 有紀は何か分かっているようだ。俺だけ分かっていないのは不公平だ。
「何、琴南さんが怪我したのと、秘書さんの熱が下がらないのって関係あんの?」
「お前さ、相性が良い番同士って、ほとんど風邪引いたり体調不良にならない理由って知ってる?」
 有紀に聞かれ、保健体育で習ったことを思い出す。
 思い出して、顔が赤くなってしまう。
 そうだ、男同士だけれど、浩介と慎二は番で、やっている仲だった。
「おっ、ちゃんと分かってるじゃん!」
「う、うるせーな! なんか、琴南さんからそういうの、想像できなかったんだよ」
 あの人は男って感じだ。抱かれている姿が想像できない。
 番同士のαとΩは、やると体調不良には滅多にならないと言われている。番になっていなくても、俺と真澄のように極端に相性が良い場合は、側に居るだけでお互いの体調不良を治すと言われている。
「さすがに昨日は一緒に過ごしたと思ったのに……浩介君の目がウルウルのままで困ってる」
「そんなに酷い怪我なんですか?」
「腕を五針縫ってる。浩介君は、琴南さんが痛かったり泣いたりするの、駄目なんだよ。大切すぎて、ね」
 はあ、と三度溜息を吐いた瑛太は、俺の肩に埋もれてくる。
「私のバカバカ! あーどうしたら-!」
「怪我が治るの待つしかないんじゃないですか?」
「そうなんだけど……暫くかかりそうなんだよね」
 四度目の溜息を俺の肩に落としている。珍しく反省している瑛太の背中を何となくポンポン叩いてやった。
 ふと、視線を感じる。
 道を挟んだ向こう側から、クラスの女子に見つめられていた。五人グループは俺達を指さしながら何か言っている。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

俺を裏切り大切な人を奪った勇者達に復讐するため、俺は魔王の力を取り戻す

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,013pt お気に入り:93

発禁状態異常と親友と

BL / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:206

異世界ライフは山あり谷あり

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,598pt お気に入り:1,552

素直になれない平凡はイケメン同僚にメスイキ調教される

BL / 完結 24h.ポイント:411pt お気に入り:1,664

反省するまで(完結)

BL / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:32

それでもいいのか、それだからいいのか

BL / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:52

きもちいいあな

BL / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:755

溶かしてくずして味わって

BL / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:162

[完]ノア

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:14

処理中です...