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抱き締めても良いですか?
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卒業式の練習は今日で終わり、明日からは午前中だけになる。下校している生徒に紛れた俺と有紀は、いつものように商業施設の駐車場まで歩いて行く。
卒業して、真澄と遊園地に行った後、一度家に戻ることになっている。久しぶりに家で両親と過ごすので、少し気恥ずかしい。ヒートが終わったら、また真澄の元へ行く。
まだ、気持ちは伝えない。真澄がもっと元気になって、俺が居なくても倒れなくなってから、好きだと言ってみよう。
今、告白して振られてしまうと、真澄の側に居辛くなってしまうから。そうすると、せっかく歩けるようになった体がまた寝込んでしまうかもしれない。それは駄目だ。例え気持ちを受け入れてもらえなかったとしても、真澄には元気で居て欲しい。
「……可愛いね」
不意に、声が掛かった。振り返ると知らない男性が俺をじっと見つめていた。無精髭を生やした三十代くらいの男性は、ガードレールに腰掛けている。
「君、Ωだろう?」
「……誰ですか?」
「ここ、母校なんだ。急に懐かしくなって来てみたんだ」
男性はゆっくりと立ち上がっている。くたびれたコートのポケットに手を突っ込んでいる。
「あの人、来てくれるかな」
「あの人?」
「もう、時間が無いからさ。君でいいや」
ポケットから何かを取り出している。掌に収まるくらいの瓶だった。親指で瓶の蓋を開けている。その中身を俺に向かって振りかけた。
咄嗟に一歩後ろに引いた俺と、なおかつ有紀が俺を抱きかかえ後ろに下がったおかげで粉を浴びずに済んだ。粉は風に溶け込むように消えていく。
「残念」
そういった男は、粉の入った瓶に鼻先を持っていき、吸っている。だんだん、恍惚とした表情へと変わっていく。
脳裏に、瑛太が言っていた言葉が蘇る。
「……Ωは全員離れろ!! 強姦魔だ!!」
怒鳴った俺に、息を荒げ、目を充血させた男が笑っている。
「はは、あはは! 何で知ってんだよ! ΩとΩが、楽しむ薬だって!」
男が詰め寄ってきた。有紀が男の腰にタックルをして止めたけれど、漂ってきたΩのフェロモンが鼻を擽ってくる。Ωを離すために怒鳴った時に、少し吸ってしまった。
体が震えてくる。有紀が男を力尽くで引き離そうとしているけれど、背中にもらった一発に力が抜けている。投げ飛ばされた有紀が震える視界の隅に映った。
「なあ、良いだろう? Ω同士でやると、すっげー気持ち良いぞ」
「くる……なっ!」
男との距離が近づき、立っていられなくなった。俺達の騒ぎに周りにいた生徒が先生を呼びに行っている。腰から崩れ落ちた俺に、男が手を伸ばそうとした。
その腕が鈍い音と共に変な風に曲がった。曲がった腕のまま、弧を描いて地面に叩きつけられている。
「がっ!?」
仰向けに倒れた男の膝に、長身の男の踵がめり込んでいる。そこからも鈍い音がしている。
「ぐっ……・! 秘書さん……! そいつ、薬持ってる! そいつが薬吸った!」
有紀がなんとか立ち上がり、俺の側に来てくれた。ポケットを探すと、首に首輪を着けてくる。その刺激にも、体が震えた。
強姦魔の男の腕の骨と、膝の骨を折って逃げられないようにしたのは、騒ぎに気付いた浩介だった。倒れてしまった俺を強姦魔から離すため抱き上げてくる。
「ぅっ……!」
「申し訳ありません!! お守りできず……!」
「Ωを……俺に近づけないで……!」
薬を使ってヒートになった犯人と、それに引っ張られて俺もヒートになっている。浩介が校内へ連れて行こうとしたのを止めた。他のΩがヒートになったら駄目だ。引き離さなければ。
「田津原!!」
クラスの女子が呼んでくれたのだろう、担任の平田先生が駆け寄ってくる。俺に触れようとしたのを浩介が止めた。今、触れられたら変な声が出てしまう。
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