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抱き締めても良いですか?
32.驚きの事実
しおりを挟む抱き枕状態の俺は、抱き枕として俺にしがみついている浩介の背中を撫でていた。愛歩と話している間にまさかベッドに連行されるとは思わなかった。
俺の肩に顔を埋めたまま、微かに震えている。意外にも猫っ毛の浩介の髪を撫でながら、数時間前のことを思い出していた。
~*~
後輩の杉野と一緒に署に戻った俺は、事務作業に追われていた。碕山陸人には先輩警察官が付いている。ヒートが収まらないと手術ができないと瑛太に言われ、待っているらしい。
愛歩の高校には取材陣が来ていると連絡があった。連続強姦魔が捕まったと言うニュースが、明日の一面だろうか。
愛歩を矢面に立たせられない。彼が叫んでくれたおかげで他のΩは無事だった。愛歩のヒートが無事に終われば、俺が学校側へ出向くつもりだった。
「先輩、受付に番さんが来てるみたいです」
「ごめん、行ってくる!」
内線を取った杉野に言われ、急いで一階の受付窓口まで走った。まだ署内は多くの警察官がいる。ぶつからないよう走って一階に辿り着いた俺は、受付窓口に立っている浩介を見つけた。彼も俺と目が合った。
「あの、ちょっと!?」
長身の浩介は、受付カウンターに手を突くと、ヒラリと飛び越えてきた。カウンターからこちら側は関係者以外立ち入り禁止で、不法侵入とみなされる。すぐに座っていた警察官達が立ち上がっている。
「俺の番です! 浩介! 止まれ! 勝手に入るな!」
周りの警察官を止めながら、浩介の方へ走っていた俺は、同じように走ってきていた浩介に抱き締められていた。その力は強くて、簡単に外せそうにない。
「すみません、混乱しているみたいで」
「お前の番で間違いないな?」
「はい。事件の当事者でもあります。浩介、あっちで話そう。な?」
広い背中を軽く叩いてやると顔を上げている。力が少し緩んだので、長い両腕から抜け出すと手を引いた。カウンターの外へ出て、自動販売機がある休憩スペースの方へ連れて行くと浩介を座らせた。隣に座った俺の手をすぐに握ってくる。その手が震えていて。
「申し訳ありません……! 感情が……まだ抑えられなくて……!」
手で顔を覆った浩介の顔は、苦しそうに歪んでいた。
「……人間はさ、喜怒哀楽があるもんだろう?」
握られていない手で、浩介の頭を撫でてやる。
「俺だって、お前を誤解して、怒鳴って、当たったよな。人間なんだ、感情的になるなって方が難しい時だってある」
抱き込んでやった。
震えている体を。
精一杯抱き締めた。
「吐き出して良い。辛い時は辛いんだ。なあ、浩介?」
愛歩を送って、瑛太ではなく、俺の所へ戻ってきた。俺を、頼ってくれた。
求めてくれた。
「溜め込むな。俺に当たっても良い。受け止めるよ、全部」
崩れ落ちるように、浩介の体が傾いた。抱き締めながら膝に導いてやる。震えている体は丸まった。ベンチから足がはみ出している。俺の膝を握り締めた浩介は泣いていた。
犯人と、誰かを、重ねて見ていた浩介。
襲われた愛歩と、誰かが重なっていたのか。
いつもの浩介ではなかった。怒りの感情があれほど爆発した浩介を見たのは初めてだった。
そして、これほど弱々しい浩介も初めてだ。顔を隠すように手を当ててやる。その手を握り締めてきた。まるで子供のように。
「……俺、言い過ぎましたかね」
いつの間にか杉野が側にいた。手には書類を持っている。俺の膝で震えている浩介に、ばつが悪そうに頭を掻いた。
「この間は偉そうに言っちゃってすみませんでした。これ、名目を持ってきました」
杉野は調書用の書類を振って見せている。
「番さんも当事者ですから。これ取るってことで時間作りました」
「ありがとう、助かる」
杉野から書類を受け取った。浩介を少し見つめた杉野は帰っていく。
「仕事の……邪魔をしてしまって……!」
起き上がろうとした浩介を戻した。ポンポン、腕を叩いてやる。
「今、仕事してるから。落ち着いたら、話してくれ。焦らなくていいから。震えが止まるまで待つから」
覆い被さりながら囁いた。浩介の震えは、暫く止まらなかった。
~*~
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