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抱き締めても良いですか?~エピソード0~
03-4
しおりを挟む「黙ってするなんて……酷いよ。ファーストキスだったのに……!」
「すみません……」
「僕の味覚に関係あるんでしょう?」
起き上がるとベッドに腰掛けた。まだ濡れている自分の唇に触れた。
「兄さんが言ってたべろちゅーって、キスのことだったんだね」
「舌と舌を絡める結構ハードなキスだから。真澄さん、嫌だろうなって思って」
「……嫌じゃないよ。愛歩君はいつも僕に優しいから。今朝、味覚が少し戻ったのって……」
夢だと思っていた。愛歩にキスをしてもらう夢。
見つめると、頭を掻いている。
「俺が下手で。ちゃんとできてなくて。中途半端に治したから、真澄さん、泣かせたのが辛くて。勝手にしてごめんなさい」
頭を下げられる。
愛歩は僕を思って行動に移してくれた。味覚を治そうとしてくれた。
恋人でもないのに、できそこないのαなのに、いつも僕の体を治そうとしてくれる優しい人。
好きなんだ。
君が、大好きで仕方がないんだ。
君の優しさに、少しだけ甘えさせて欲しい。
愛歩に手を差し出した。
「……ちゃんとして?」
「真澄さん?」
「知らない間に、ファーストキス、終わってたから」
嫌かもしれない。愛歩は僕の味覚を治してくれようとしただけだから。震えそうな手を、やっぱり駄目だと引こうとしたら握ってくれた。長身が立ち上がり、ベッドに腰掛けている。
大きな手が、頬を包んでくれた。薄暗い中でも分かる、綺麗な顔が近づくと僕の唇に優しく重なった。唇から熱が伝わってくる。瞼を閉じると大きな手に自分の手を重ねた。
「愛歩君、上手だね。……経験済み?」
「俺もファーストキスは昨日です」
「……本当?」
「なんで、変態兄さんが言ってたベロチュー、真澄さんの協力が無いとやっぱ難しい」
「どうしたら良いの?」
見つめる僕の顔を少し上に向けてくる。口を開けてと言われ、少し開いた。
「舌、こっちに出して」
「う、うん……」
「気持ち悪くなったら俺の手叩いて下さいね」
ためらいもなく唇が重なると熱い舌が触れた。僕の舌に絡めてくる。反射的に引っ込めそうになったのを追い掛けてくる。
息ができない、思うと愛歩は離れ、また重ねてくる。気付けば覆い被さられていた。温かい体に抱き締められ、舌を絡められ、体中に熱がこもっていく。
頭の芯がぼうっとしてきた。愛歩のキスはたまらない。下半身も熱を持ち、男として反応してしまっている。
もっと、愛歩と一つになりたい。
強く抱き締めてほしい。
僕と、一つになってほしい。
「……やばい……くる!」
「え……?」
「逃げて……真澄さ……!」
項を押さえた愛歩から大量のΩのフェロモンを感じた。
ヒートだ。
予定より早い。
苦しそうな愛歩が蹲っている。
「愛歩君!?」
「はな……れて……!」
震えながらベッドから下りようとしている。愛歩から感じるΩのフェロモンに僕のαが反応した。惹き寄せられそうになる。
嫌だ。
僕を思ってキスしてくれた子を裏切るようなことはできない……!
手の甲に噛みついた。血が滲んでくる。兄さんに怒られるかもしれないけれど、今はこれしかできない。
「つっ! ……はぁ……き、君はここに居て! 救急車を呼んでくるから……!」
愛歩はもう、動けないはずだ。僕が離れなければ。ベッドから飛び出し、部屋を出た。噛んだ手の甲からは血がツルツルと流れ出ている。構わずに一階まで下りると、当直で泊まってくれているお手伝いさんの部屋のドアを叩いた。
「お願い、起きて!」
今日の当直のお手伝いさんは番が居るΩのはずだ。何度もドアを叩いていると寝間着のまま飛び出してくる。
「ぼっちゃん!? どうしたんですか!?」
「ま、愛歩君がヒートで! 抑制剤飲ませてあげて!」
「ぼっちゃん、怪我を!? 血が……!」
「お願い、愛歩君を助けて!」
酷く苦しそうだった。僕と愛歩の番としての相性はとても良い。だから愛歩のヒートは普通の人より強いと兄さんは言っていた。
僕の弱いα性を、愛歩のΩ性が引き出そうとして。僕の側でヒートになってしまったのなら、もしかしたらもっと苦しいかもしれない。
僕の血を気にする彼女の背中を押した。αの僕では愛歩を助けられない。
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