妖艶幽玄絵巻

樹々

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遊戯ノ巻

遊戯ノ三②

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***



 長いような、短いような、時間が過ぎていく。またしても食事の時間になり、なるべく何も考えないようにしながら支度した。焚いたばかりの米と煮物、味噌汁を盆に乗せて運んでいく。

 紫藤はまた、庭先に足を降ろして空を見上げていた。日が落ちた庭は暗く、月明かりしかない。

 盆を置き、明かりを灯した俺は、紫藤を呼んだ。けれど、彼は縁側から動かない。

「紫藤様?」

 廊下まで迎えに行った俺は、しょんぼりと肩を落としている紫藤の姿に戸惑った。項が良く見えている。思わずそこに口付けたくなって、根性で堪えた。

「冷めてしまいます。お早くどうぞ」

「……何故だ、清次郎」

 ポツリと呟いた紫藤が振り返る。どうしてか、泣き出しそうな顔をして。

 そんな目で見ないで欲しい。今は駄目だ。命を無視して、抱き締めたくなってしまう。

 距離を取って足を止めた俺に、ますます顔を歪めた。

「これが……気に入らぬのか? 皆は美しいと言うてくれたのに……お主が好かぬのなら、意味がない」

「……な、何のことでしょうか?」

「誰が好き好んでおなごの格好などするものか。お主が本当はおなごが好きなのではないかと思い、せめて雰囲気だけでもと思うて、皆に用意してもらったと言うに……お主は一言も褒めてくれなんだ」

「紫藤……様?」

「……馬鹿ではないか」

 ポロリと、涙が零れ落ちていく。唇が紅いためか、白い肌がいっそう際だって見えた。無色の涙が頬を伝い、顎を伝って流れていく。ポタ、ポタッと廊下に落ちていく。

「一人はしゃいで……お主がきっと褒めてくれる、美しいと言うてくれると……おも……思っておったのに……!」

 紅を引いた唇を噛み締めた紫藤は、結い上げていた髪に手を当てている。解こうとしたその手を咄嗟に取ってしまった。

 触れてはならない、その命を破って。

 細い紫藤の手を取ってしまった。

「大変申し訳ございませぬ! 今日は触れてはならぬと命ぜられていましたものを……!」

 廊下に額を打ち付け、詫びた。身を硬くした俺に、紫藤の乾いた笑いが聞こえる。

「命など気にするな……! もう……茶番は終わりだ……この姿も止めるでな」

「もう、お止めになるのですか?」

 思わず顔を上げてしまう。紫藤が首を傾げて腕を組んだ。

「好かぬのであろう?」

「その様なことはありませぬ」

「しかし……逃げたではないか」

 紫藤に問われ、俺も唇を噛み締めてしまう。

「あまりに眩しかった故、どうお接しすれば良いのか分からなくなったのです」

「……眩しいとな?」

「紫藤様がお美しい事は存じておりますが、まさかここまでとは思わなかったのです。美しいという言葉では足りぬと思い、それ以上の言葉を探したのですが、思い浮かばず……」

 結果、体が逃げてしまった。走るという行動に。

 今も分からない。彼をどう表現すれば良いのか。

 言葉を探す俺の目の前で、紫藤がグッと着物の襟を開いて見せた。

 何をするのか。

 息を止めた俺に見せつけるように、なおも開いて見せる。重ねて着た着物が、緩んだ。

 もはや我慢の限界だった。紫藤を胸に掻き抱く。廊下に押し倒した俺に、彼がたった一言、命じた。

「床の間へ運べ」

 と。

 辛うじて体が動く。重たい女物の着物を着た彼を抱き上げた。霊すらも遮断する床の間へ運び、布団を敷く余裕もなく覆い被さってしまう。

「これ……障子は閉めよ……!」

「紫藤様……紫藤様……!」

「せ、清次郎……ぅぁっ!」

 幾重にも重ねられた着物の裾を思い切り広げた。そこには何も身に着けていなかった。いつもは締めている褌を外していたためか、すぐに目指す物がある。

 頭を突っ込んでいた。捲っても捲っても着物が被さってくるので焦れてしまって。着物に隠れた俺の頭を紫藤が抑えようとしたけれど、一瞬早く、口に銜えた。

「せ、せ……清次郎!? お主……あ……ぁん……うぅん……!」

 熱かった。紫藤のそれはとても熱かった。口に含むと暴れている。着物の中は息苦しかったけれど、夢中で吸った。

「……はぁ……あっ! ぁ……ぁ……なんと……熱い……!」

「ぅん……んぐ……ぅん……ん……ん……んぐ」

 舌で嘗め回せば、着物を押し上げるほど立ち上がる。喉奥までくわえ込み、何度もしゃぶった。

「ぁ……ぁ……ぁ……ぅん……んん!」

 彼の太股がわななき、腰を浮かせながら達している。口内で受け止めた俺は、一滴も逃すまいと飲み込んだ。



 まだ、足りない。



 口に入れたまま舌を動かした。ヒクヒクと動く彼のモノを愛撫し続ける。

「……せ……清次郎? お主……どうした? いつもはこの様なこと……こ、これ!」

 紫藤が逃げようとした。咄嗟に左足を持ち上げ、逃げ難くする。ついで現れた、もっと後ろへ舌を這わせていく。息苦しい中、そこを吸った。

「うん!! な、何をして……!? 清次郎……これ、止めぬか……!」

「お許しを……! 紫藤様!」

 彼の腰を持ち上げていく。抱え上げた両足を強引に広げた。幾重にも重なった着物が末広がりになる。ようやく表に出た俺は、そこに舌を差し込み、潤すように舐めしゃぶる。

 こんなこと、したことはない。

 自分の唾液で濡れていくそこを見ていると、何かが切れた気がした。

「……ぁ……はぁ……ん……紫藤……様……ぅん」

「…………!」

「お許しを……! ……ここに……ここへ……!」

 指を宛っていた。焦る手が一気に二本、突き入れてしまう。少し顔を歪めた紫藤が、力を抜くように足を広げてくれた。再び立ち上がっていた彼のモノを口に含みながら、性急に三本目も突き入れる。

 三本の指で紫藤の中を探った。彼を吸う口は止めずに。舌で舐め上げれば、彼の胸が大きく仰け反った。

「……なんぞ……分からぬが……一つだけ……命を聞け!」

「紫藤……様……ん……うぅん……」

「障子は……閉めよ! 霊が……集まってきておる……! 見られとうない……!」

 彼のモノにしゃぶり付いていた俺の頭を撫でてくれる。顔を上げた俺を引き寄せ、口付けてくれた。

「はよう閉めよ! この様に色っぽいお主を見せるわけにはいかぬ……!」

 腰を震わせた彼は、立つことができないようだ。離れがたい体から無理矢理引き離し、開いていた障子をなんとか閉める。よろめきながら戻った俺に、紫藤は着物の裾を広げて誘った。

 濡れた下半身が、俺の理性を崩してくる。しっかりと太い帯に巻かれた上半身は、乱れこそすれ、脱げてはいない。

 解れた白髪が、紅い唇に貼り付き、なんとも言えない色気が俺を引き寄せた。

「……紫藤様……!」

 身を寄せた着物の裾を、紫藤が割った。引っ張るようにして褌を外してくれる。高ぶっていた俺のモノを、紫藤の細い指が一撫でした。

「……ぁっ! はぁ……! もう少し……ゆっくり……!」

「紫藤様……! 紫藤様……!」

「清次郎……!」

 抱え上げた両足は滑らかだった。大きな帯に仰け反りながら、紫藤が受け止めてくれる。奥まで達した俺は、それだけでイッてしまった。

「…………はっ……ぁあ……ぅん……? な、なんと!?」

 中で放った俺に、紫藤が困惑したように見上げている。唇を噛み締めた俺は、ゆさっと腰を振った。

「……清次郎……?」

「お許しを……俺はどうかしてしまったようです……!」

 体が熱くて止まらない。中に放ったモノが掻き回されているのに、腰を止めることができなかった。水音が響き、紫藤の頬に赤味が差す。

 覆い被さりながら、邪魔な帯に手を掛けた。これがあると、上が開かない。力任せに引っ張る俺に、紫藤が戸惑うように見つめている。

 ようやく大きな帯を解いた俺は、グルグル巻き付けられていたそれを焦りながら取り外した。

 だが、細い帯が何本も出てくる。苛立ちながら引っ張ってしまう。

「なんと面倒な……!」

「せ、清次郎……?」

「動かないで下さいませ」

 腰に帯びていた刀を抜いた。紫藤の目が見開く。細い帯をまとめて手に取ると、断ち切った。バラバラになったそれを外し、刀を鞘ごと放り投げてしまう。ますます紫藤の目が開いて俺を見ている。

 ふわりと、前が開いた。グッと握ると大きく広げる。

 薄暗い室内に、紫藤の体が浮かび上がった。そこだけが白く、白く。

 荒く上下する胸も、汗ばんだ肌も。

 ツンッと尖った胸の突起も。

 何もかもが俺を壊していく。

「……ぅっ……ん……!」

「……!? せ、清次郎……?」

「紫藤……さまぁ……体が……あつうて……たまりませぬ……!」

 零れ落ちた俺の涙が、紫藤の胸に落ちていく。このまま抱けば、彼を壊してしまいそうで。僅かに残っていた理性の欠片が、紫藤を想い、抑えているけれど。

 手が理性に反して彼の胸を辿っていく。滑らかな肌を滑った手は、尖っている胸の突起の上で止まった。中指の腹でやわやわと押してしまう。

 じんっと体が熱を上げた。奥歯を噛み締め、堪え忍ぶ俺に、紫藤が手を伸ばしている。
  
「……馬鹿者……お主がもっとはよう言うてくれさえすれば、私とて意地を張らずに済んだのだぞ」

「……う……ぅう……」

「はよう来い……!」

 俺を抱き寄せた紫藤。細い首筋に顔を埋めると、もう、我慢できなかった。噛み付くように口付け、赤い跡を残してしまう。

 唇で何度も肌を辿った。胸の突起に吸い付き、舐め上げる。紫藤の声が上がると、そこは痛々しいほど赤く染まっていく。

「ぅん……ん……はぁ……ぁ……」

「紫藤様……!」

「あっ……!」

 奥に当たったためか、頭に響く色っぽい声が俺を刺激する。しつこいくらいにそこを抉った。何度も跳ねる紫藤の胸を辿りながら片足を掴んだ。

 繋がったまま、俯せになってもらう。形の良い尻を持ち上げ、膝立ちになった。

「……な……何だ!? この格好は!? まるで獣ではないか!」

「……はぁ……はぁ……ん」

「こ、これ……清次郎……!? ……はぁっ! ああっ……!」

 グッと腰を押し付けた。紫藤の背中がしなやかに仰け反る。着物が滑るように胸の方へとわだかまる。白い肌を剥き出しにした下半身は、充分に俺を煽っていた。

 続けざまに打ち付ける。逃げる腰を捕まえ、強引に進めた。力任せに腰を振る。尻をわし掴み、本能が求めるままに紫藤の中を埋め尽くす。

 やがて中に放っていた物が溢れて零れ落ちていった。紫藤の太股を伝って落ちていく。必死に畳を握った紫藤が、嫌だ嫌だと首を振っている。

 それをどこか遠い世界で聞いていた。ひたすら、一心に、紫藤を求め続ける。

 彼の尻が赤く染まるほど打ち続けた俺は、彼を待たずに達していた。二度目も中へ放ってしまい、持ち上げた尻がフルフル震えている。

「……ぅんん! ……ぅう……こ……こんな事になろうとは……!」

 見えている細い腰。受け止めきれずに溢れ出ては伝っていく彼の白濁。

 そして。

 まだ、解放されずにヒクヒクと脈打っている彼のモノ。

 ゆらりと、動いた。紫藤の腰を掴み持ち上げる。

「……え?」

 後ろへ重心を落とした俺は、膝の上に紫藤を乗せた。両足を持ち上げ、下から突き上げる。

「ぅんん! お主……まだ!?」

 腰を振り、紫藤の肩に口付ける。解れた髪が落ちる項にも口付けた。何度もそこを吸えば、赤味を帯びる。

 紫藤の腰が、自らユラユラと揺れ始めた。足を解放し、代わりに襟元から手を滑らせる。胸を辿る俺の手に自分の手を重ねた紫藤は、顔を振り向かせてくる。

「……私も……達したい……!」

 握った俺の手を、自分のモノへと導いていく。握り込めば、それは熱くて溶けてしまいそうだった。

「清次郎……!」

 舌を伸ばして誘う彼に、すぐさま応える。深く口付けながら、性急にそこを手でしごいた。

「ぅん……ぅ……ぅうう!」

 白濁が俺の手を濡らす。一瞬、強張った体が緩和する頃、濡れた手をゆっくり舐め取った。

 紫藤のモノだ。

 思うと少しでも無駄にはできなくて。指を一本一本、舐め取る俺に、紫藤が顔を寄せて唇を触れさせてくる。彼もまた、俺の指をしゃぶった。

 指を挟みながら、唇が触れ合う。やがて舌を絡め、腰を振り、体の熱を上げていく。

 横倒しになった俺達は、そのまま抱き合った。淫乱に上げられた紫藤の白い足は、薄暗い中でもハッキリと見えていた。


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