王道ですが、何か?

樹々

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第一王道『異世界にトリップ、てきな?』

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「……ど、どうですか?」

「ん? 終わったのか?」

「とりあえずは」

「そうか」

 瞼を開けてみる。間近に見えたのは、萩野の黒い瞳だった。

「き、気持ち悪かったですか?」

「いや、大丈夫だった」

 磨きたての歯は、爽やかな息を保ってくれている。忌まわしいサキイカの臭いに負けなかった。

 あれ以来、サキイカはもちろん、普通のイカも食べられなくなってしまった僕にとって、少しは進歩したのだろうか。

「……えっと、それじゃあ」

 肩を掴まれ、ベッドに寝かされる。恐る恐る僕のワイシャツのボタンに手を掛けようとしたので捻りあげた。

「いや、駄目でしょ」

「いたっ! いたた! マジ痛いです!」

 そう言いながらも、僕の上からどこうとしない。捻られている手は諦めたのか、体重をかけて密着してくる。

「だから……」

「先輩がもっと拒んでくれたら俺だって諦めますよ!」

「拒んでるよ、今まさに」

「じゃあ、何でキスさせてくれたんですか! 期待するのは当然だと思います!」

 しがみつくように抱きつかれてしまう。手を捻る力を緩めながら、まじまじと萩野の顔を見つめた。

 キスさせたら、期待させることになるのだろうか。必死にキスしたいと訴えてくるので受け入れてしまったけれど。

 相手は僕を好きだと言っている。性的な対象に見ている。

 確かに、キスさせたのは軽率だったかもしれない。

「すまない。僕はこういったことの常識が分からない」

「……先輩のそういう素直なとこ、好きなんです。俺と、付き合ってみてはくれませんか?」

 また、顔を近づけてくる。断るなら、拒むべきだ。

 そうするべきなのに、瞼を閉じてしまう。重なった唇を受け入れてしまう。

 唇は重なったまま、ワイシャツに手がかかる。ボタンが一つ、また一つ、外されていく。

 ワイシャツが広げられた。唇が離れていくと、僕に跨がりながら見下ろしてくる。

「やばい、先輩、綺麗な筋肉です!」

「妹が描いている漫画を見たんだが」

「妹さん? え、居るんですか?」

「男同士は後ろを使うんだろう? 君、まさか僕にツッコム気じゃないよね?」

 夢の中ではハリスの妹リズだったけれど、あれは僕の妹・律子だった。僕の容姿をモデルにBL漫画を描いている。結構、売れている。

 一度、妹が描いた漫画を読んでみたことがある。大変、ショックを受けたものだ。

 妹が大人関係に詳しいことも、それが男同士であったことも。

 恋愛に疎いが、妹のおかげでBLの知識は多少ある。あるが、どうして男同士でやるのかは、やはり理解はできなかった。

「僕は入れられるなんて嫌だよ?」

「……駄目ですか?」

「吐く。絶対吐く。確実にね」

 先に宣言しておこう。磨きたての歯なら、どうにかキスは受け入れられたけれど、萩野の下半身に付いている物が僕の中に入ってくるなど、想像しただけで吐きそうだった。

「じゃ、じゃあ、少しずつ慣れてもらうってのはどうでしょう?」

「慣れないと思うけど」

「一緒に気持ちよくなることから始めましょう!」

 萩野はめげなかった。僕のワイシャツを脱がせてしまうと、ズボンにも手を掛けてくる。裸にされた僕は、いそいそと自分も脱いでいる萩野をぼんやり見上げた。

 ボクシングを止めた後も鍛えていたのだろう、張りのある良い筋肉を付けている。一番、綺麗な筋肉が付いているのは腕だった。

 触ってみると硬い。僕にしがみつく腕は、ムキムキだった。

「先輩……」

 僕の隣に寝転びながら、僕のモノを摘まんでいる。何を、視線で訴えると、柔らかく握っている。

「ちょっ……」

「僕にさせて下さい。先輩が気持ち良くなってる顔、見たいです」

 首筋にキスをしてきながら、下をゆるゆる触ってくる。他人に触られたのは初めてだった。筋張った手の中で、僕のはしんなりしている。

「萩野君、たぶん、無理だと思う」

「もう少し、させて下さい」

 本当にめげない子だった。反応を示さない僕のモノを握ったり擦ったりしてみている。

 彼の唇が胸へと下り始めた。突起を口に含んでくる。

 正直、他人の唾液が僕の体に移っているかと思うと、気持ちの良いものではない。胸に吸い付いている萩野の後頭部をぼんやり見つめて我慢した。

 どれくらい握られていただろう。ぼんやりしていると、とうとう萩野の手が止まる。胸元から目元を潤ませながら見上げてきた。

「……全然、気持ち良くないですか? 俺、下手ですか?」

 満身創痍、まるでボクシングの試合に負けたかのように項垂れている。

 その頭を撫でてやった。意外に柔らかい髪質だ。くしゃくしゃ、くしゃくしゃ、撫でてやる。
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