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第一王道『異世界にトリップ、てきな?』
6.子犬には弱いんです
しおりを挟むやってしまった。
体に当たる柔らかいシャワーを浴びながら、ついでに口の中もゆすいだ。
トイレで盛大に吐き出してしまった。僕にしてはかなり我慢できたほうだけれど、これでもう、萩野も僕から離れていくだろう。
どうしていきなり舌なんか入れてきたのだろう。キスにトラウマがあると知っていたはずなのに。少しだけ触れ合えた他人の体。それも、今日で終わりだろう。
左手を見つめてみた。普段なら、絶対、他人の、男のモノを握ってみようなんて思わない。彼があまりにも必死で僕を感じさせようとしていたので、逆なら叶えてやれるのではないかと思った。
僕が触れると、彼は赤らんだ。子犬のような眼をして見つめてくる。
その顔が、少し可愛いと思ったのは、確かだった。
「駄目だな……」
溜息をつきながら体を洗ってしまう。備え付けのシャンプーもリンスもボディソープも、とにかく甘い香りだった。髪にも、体にも、泡が残らないようしっかり洗い流して浴室を出た。
脱衣所にあったバスローブを着て部屋に戻ると、項垂れた萩野がベッドに座っていた。まだ裸のままだった。
「すまない。何度も言うが、君が気持ち悪い訳では……」
「……ぅっ」
泣いているのだろうか。それほど傷つけてしまったのだろう。
丸まった背中を撫でながら、彼にもシャワーを浴びてスッキリしてもらおうと思ったけれど。
泣いている訳では無かった。
落ち込んでいる訳でも無い。
彼は、何故か、一人でイッていた。
「え、君、まだ出るの?」
「先輩が……!」
「僕?」
「どこのイケメン俳優ですか!? シャワーシーンやばすぎでしょう!?」
覗いていたのだろうか。思わず距離を取った僕は、そう言えばここがラブホテルだと思い出す。風呂場は透けているため、僕が髪や体を洗っている姿は丸見えになっていた。
見えていたのは仕方がない。それを見て、何故、イク?
「……何でそれでって顔してますね?」
「うん、思ってる」
萩野は大きく息を吸い込むと、肺に溜まっていた分まで吐き出すように盛大な溜息をしてみせた。
「俺は先輩が好きです。体も含めて大好きです。裸を見るとドキドキするし、シャワーシーンなんて耐えられません!」
真剣な眼で見上げられ、何も言えなかった。
「絶対、諦めませんからね! いつか俺と一緒に、気持ちよくなってもらいます!」
「そろそろ、そっちは諦めてくれないか」
「諦めません! ちゃんと綺麗にして出てくるので、起きて待ってて下さいね!」
今、彼が僕の手を握らないのは、出した物が付いているからだろう。その手で触ろうとしたら、反射的に弾いてしまう。それを彼は理解している。
まともなキスはできない。彼が望む大人のことなんてもっとできない。
他人が触れてくることに、慣れていない僕だ。
とうとう、キスをされて吐いてしまったというのに。
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