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第三王道『恋してふっさふさ☆』
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しおりを挟む「……隊長」
「何だ?」
「尻尾……」
「あ?」
まさか可愛い、とか言わないだろうな。フサッと丸い俺の尻尾を見つめるランスに声で威嚇すれば、続きは言わなかった。何かを堪えるように奥歯を噛み締めている。
やれやれだ。騎士の間を通り抜けたランスは、会場の手前で下ろしてくれた。ねぎらいの意味を込めて、長い耳で彼の肩をポフッと叩いてやる。
「助かった。お前はあいつらに合流しておけ」
「……」
「ランス?」
「……ぁ、はい。試合、頑張って下さい」
「おう」
白い肌を赤く染めたランスは、俯きながら歩いて行く。何を赤くなっているのか、不思議に思いながらも集まっていた部隊長に合流した。
張り出されていたトーナメント表。本来なら、昨年、優勝した俺がシードになるはずなのだが。今年もシードは俺ではなく第一部隊のモルドーになっている。バフリ団長の言い訳は、一年の間、最も団に貢献した部隊、だからだそうだ。
ここまで露骨に甥ひいきをしていると、むしろ感心する。モルドーは一戦目、第五部隊の隊長と戦った後は決勝まで悠々休むことができる。他の部隊は三試合勝ち進んでやっと決勝に進める。
つまり、疲れている者を力任せに叩きのめしにくるということだ。悪趣味この上ない。
「チッ。いけすかねぇ」
「チェスター隊長、声に出てる。おっさんに聞こえたらまずいぞ」
「さっさと負けた方が良いぞ。見世物にされる」
「まあ、ほどほどに暴れておくさ」
第五部隊の隊長は、長い尻尾を振りながら肩を竦めて笑ってみせた。
十部隊全員の隊長が揃い、一度壇上へ上がる。左端に居た第一部隊の隊長モルドーが上がると、ライオン族の騎士達が遠吠えのような声で鼓舞している。思わず長い耳をたたんでできるだけ音を遮断した。頭がキンキンしてしまう。
ざっと見ただけでも、応援の数は一番多い。二百人中のほとんどが会場へ来ているようだった。大柄な騎士達に応えるようにモルドーは右手を突き上げている。そうして一番右端に居た俺を高圧的に見下ろしてきた。
この剣術大会も質が落ちた。
バフリが団長として就任してから。
ひいきと差別を露骨に表す彼によって、実力で上を目指していた者達の意識を削いでしまっている。どんなに足掻いて上を目指しても、馬鹿正直な者や生真面目な者、後ろ盾のない者は上に上がることができなくなった。
去年の大会のことだ。いつもは俺を軽蔑したように見ている他の部隊の隊長が、どうしてかたいして手合わせをすることなく俺に負けている。勝ちを譲った、と言った方が良い。
ほぼ体力を温存してからモルドーと対戦することになった俺は、せめてバフリ団長の思い通りにはさせまいと、力自慢のライオン族の膝を地面に付けて勝利した。
今年も勝ってくれ、無音の言葉が壇上に響いている気がした。
言われずとも、勝って終わらせる。勝ったとろこで何も変わらないとしても、今年は総団長が見ている。無様な姿は見せたくない。
「我がバフリ団の精鋭揃いです。まあ、若干名、そうではない者も居ますが、第一部隊のモルドー隊長が、足手まといの者の分まで働いております」
「君がモルドー君か。確かに、豪腕のようだ」
頭を垂れる俺達の前をゆっくりと歩いていく総団長。俺の側まで来たとき、思い切って視線を上げてみた。
青い甲冑に身を包んだ総団長は、光を背にして立っていて。スラリと高く、腰に剣を帯び、右手には大きな槍を持っている。
総団長は槍術に長けていると聞いたことがある。あれが彼の武器なのかと思うと、眩しくて仕方がなかった。
頭は冑で覆われているため、髪と目の色までは確認できなかったけれど。獣の血を引く者であれば、耳や尻尾、羽など獣の名残をどこかに残しているはずだ。穴の空けられていない甲冑は、ヒューマンである証だろう。
一通り俺達を観察したランスロット総団長は、右手に握り拳を作り、胸に当てた。
「これより、剣術大会を執り行う。皆、日頃の鍛錬の成果をいかんなく発揮してくれ」
「「「はっ!!」」」
深い頭を垂れた俺達は、総団長が席に着いた事を確認してから壇上から降りていく。時折、バフリ団長が何か話し掛けていたようだが、彼は口元の笑みを絶やさなかった。
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