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第三王道『恋してふっさふさ☆』
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しおりを挟む「こちらが本物のランスロット総団長殿だ。私は副団長のヴェルダー。君たちの現状は内外からしっかり見させてもらった」
そう言ったヴェルダー副団長は、バフリ団長を振り返ると剣を抜いている。肩に付けられていた団長の証であるバッジを剣先で弾き飛ばしてしまった。
「あなたの処分は後ほど」
「な、何故私が!?」
「何故? 魔物の存在を確認しておきながら、民を守るべき騎士をここに配置したあなたの責任は酷く重い」
ランス、いやランスロット総団長は言い放つ。その凜とした姿を見上げながら、鼓動が高鳴って仕方がない。
俺を仲間に預けるため、背を向けた時だった。バッジを飛ばされたバフリ団長の体が巨大化していく。
「ふざけるな……ふざけるなよ! ヒューマンごときが偉そうに私に指図するな!!」
人間ベースより、獣ベースの血が濃い者は、稀に姿を変えることができるという。バフリ団長もそうなのだろう、頭髪が爆発したように広がり、両手には鋭い爪が伸びてくる。
体は一回り巨大化し、顔はもう、ライオンそのものだった。
「ヒューマンが総団長など、騎士の恥だ! 私が秩序を正してやろう!」
振り上げられる巨大な手。見上げたランスロット総団長は、抱えていた俺をより抱き寄せると、後方へ数歩、跳ねるように下がった。
その目の前に、バフリ団長の手が振り下ろされた。地面に食い込み、砂煙が立ち昇る。
「ヴェルダー、チェスター隊長を頼む」
「はい。槍を……」
「必要ない」
俺をヴェルダー副団長に預けたランスロット総団長は、軽装のまま歩いて行く。いくらランスロット総団長でも、ライオン族、それも獣ベースの強いバフリ団長を相手にするのは難しいのでは。
思い、ヴェルダー副団長に支えられながら、助太刀に行こうと力の入らない足をどうにか立たせた時だった。
ランスロット総団長は、二撃目を打ち込むバフリ団長の拳を避け、伸ばされた腕に自身の拳を打ち込んだ。バフリ団長の右腕が大きく弾かれる。巨体がグラリと傾き、脇が空いた。
その空いた脇に、長い足がめり込むように叩き込まれた。その動きは速く、力強い。
「ぐぁっ……!」
ライオン族のバフリ団長が、ヒューマンであるランスロット総団長に吹っ飛ばされてしまった。顔から地面に倒れたバフリ団長は、そのまま気絶してしまった。巨大化していた体が戻っていく。
背を向けたランスロット総団長は、言葉もなく見守っていた第一部隊のライオン族の騎士達に言い放つ。
「騎士とは何だ? 種族で決まるのか? 君たちは何のためにここに居る?」
問いかけに、ライオン族の騎士達は誰も応えられない。
ランスロット総団長は、ヴェルダー副団長から受け取った槍を天に掲げた。
「民を守りに行く。第一部隊は私に従ってもらう。意義のある者は前へ」
誰も意義を唱える者は居なかった。ライオン族である隊長のモルドー、そして団長のバフリが武器も持たないヒューマンに負けたのだから。
沈黙は了解、ランスロット総団長は、第一部隊にも急ぎ応援に向かうよう指示を出し、ヴェルダー副団長が準備していた馬に飛び乗っている。槍は馬の鞍に填め、現場へ向かうようだ。
「俺も行く」
「隊長、その体じゃ無理ですよ。もろに受けたじゃないですか!」
「仲間が居る。放っておけるか」
何が何だか、頭が混乱しているけれど。憧れていたランスロット総団長が、ランスで。彼の肩に飛び乗ったり耳で叩いたりしていたことを思い出すと恥ずかしくてたまらないけれど。
「震音を拾えるのは俺だけだ。まだ体に力が入らねぇ。誰か乗せてくれ」
「チェスター隊長」
呼ばれて顔を上げれば、ランスロット総団長に手を差し伸べられた。
「私が連れて行こう」
「……ぁ、いや、でも……」
まだ、現状を受け止め切れていない。俺の中では彼はランスだ。部下だと思っていた人だ。硬直してしまった俺を仲間が抱え上げて連れていく。受け取ったランスロット総団長は前に座らせた。腹部に手を添えられる。
「詳しい場所を教えて欲しい」
「……あ! は、はい!」
「ヴェルダー! 編成を頼む! 先に行く!」
「了解です!」
馬が走り出す。耳をそばだてると仲間の震音を拾う事に集中した。音の間隔と回数で、移動している場所、魔物の数を知らせてくる。
ランスロット総団長と共に、第十部隊と、第五部隊の騎士が先行して現場に向かう。残りの部隊はヴェルダー副団長が編成を終え次第、派遣されるだろう。
東の森を目指し走る俺達は、ようやく上がった危険を知らせる狼煙を確認した。
「おせーよ」
呟いた俺に、ランスロット総団長は無言のまま走り続けた。
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