王道ですが、何か?

樹々

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第三王道『恋してふっさふさ☆』

4.ふさっと

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 ランスが、ランスロット総団長で。

 俺が偉そうに背中を叩いたり、耳で肩を叩いたり、肩に飛び乗ったりしていた人が総団長だったわけで。

「……うおぉぉ――――!! やべ――!! ぜって――やべ――――!!」

 頭を抱えて叫ぶ俺に、第十部隊の仲間は笑っている。

「荒れてるなー、隊長。耳めっちゃ可愛いし」

「馬鹿。羽をむしるって言われてたろ」

「でも、やばいって、耳、耳!」

 治療を受けた俺と仲間達は、無事に宿舎まで戻っていた。本来、東の森は第一部隊の持ち場だ。見回りは彼らが行っている。

 フルフル震える長い耳を折り畳んだ俺は、椅子に座るとうちひしがれた。仲間達の声は聞こえているけれど、今日は怒鳴る気になれなかった。

 魔物に侵入を許した東の森。俺の仲間が密かに設置した防御壁でどうにか食い止めてはいたけれど、数人しか残されていなかったライオン族の騎士達は酷い傷を負った。

 彼らと、町の人々を防御壁の内側まで運んだ俺の仲間は、数で押されていた。震音を送っていたトリ族の男は、上空から戦況を確認しながら、仲間に避難経路を知らせ、それを俺にも震音で送っていた。

 設置していた防御壁では防ぎきれず、人々を中央へと逃がしつつ後退していたところへ、総団長と共に合流した。

 俺を馬に残し、単身降りた総団長は槍を構え、魔物の群れに飛び込むと。

「すげーよ、マジすげーよ! 生で見ちゃったよ!」

 グッと握り拳を作ってしまう。力が入ったせいか、耳も一緒にフルフルする。

「わおっ! 耳ラブリー!」

「お前、本当に羽むしられるぞ」

「お前だってずっと見つめてるし」

「まあ、あれだけフルフル震えられるとキュンキュンするな」

 俺の耳に集まる視線も、今日は許しておいた。それどろこではないからだ。

 ヒューマンの身でありながら、見事な槍術で魔物を打ち払っていく姿を生で見られた。力では魔物に遅れをとっていたけれど、操る槍の手さばきは見事、としか言いようがない。

 数分、見とれてしまった第十部隊と第五部隊は、我に返ると総団長の手助けに入った。腹部に強打を受けてはいたが、総団長と共闘できる機会などこの先無いだろう。足手まといにだけはなるまいと、フラつく足に力を込めた。

 やがで副団長が指揮する他の部隊も合流し、そこで一気に魔物を討伐していった。町の中は荒らされてしまったけれど、仲間達の迅速な行動で犠牲者は出さずに済んだ。

「指揮する姿も格好良かったな-」

 ランスとして第十部隊に居る時は、ほとんど話さなかったけれど。檄を飛ばし、隊を率いる姿は凜としていた。久しぶりに騎士達の間にほどよい緊張感が漂っていた。

 ほうっと溜息をつく俺に、仲間達もまたほうっと溜息をついている。

「マジ格好良い!」

「「「やばいくらい可愛い」」」

 へたれた耳をなんとなく弄っていた俺は、ノックされたドアに、夢見心地だった意識を戻した。

「どうぞ」

「失礼するよ」

 入ってきたのは、ヴェルダー副団長だった。奥に座っていた俺に手招きしている。

「ランスロット総団長殿がお呼びだ」

「お、俺、じゃなかった、自分をですか!?」

「ああ。治療が済んでいるなら来て欲しいそうだ」

「は、はい!」

 急いで立ち上がり、副団長に並んで歩く。青い甲冑姿の副団長は、シカ族の男だった。頭部から生えているはずの角は切り落としているらしい。短い尻尾は、今は外に出されていた。ヒューマンの振りをするため無理矢理押し込んでいた耳と尻尾、結構、痛かったと笑っていた。

「一昨年と、昨年と、優勝した者の名は届いていたが、中央への配属希望は出ていなかったからね。バフリ団の噂も、あまり良いものではなかった」

 総団長が詰めた宿舎は、元々バフリ団長が使っていた宿舎だった。彼は今、謹慎中だ。団長の座からは降格となり、甥のモルドーも隊長から降格となる。

 剣術大会は一ヶ月後に改めて行われることになった。第一部隊は新たな隊長を任命し、参加することになる。

 ということは、今度は皆、本気で来るだろう。考えると胸が踊る。

「どうしてもここの現状を自分の目で確かめたいとおっしゃってね。騙すことになって済まない」

「いえ! 俺の方こそ、ずいぶん失礼な態度を……取ってしまい……」

 思い出すと項垂れた。呼び出されたのは、もしかして総団長に対する失礼な態度について叱責されるためだろうか。

 へたれた俺の耳を見た副団長は、ポンッと背中を叩いてくれる。

「そう、気負わなくて大丈夫。さ、中へ」

 ノックをし、返事を確認するとドアを開けて俺を押し込んだ。自分は出て行ってしまう。勇気を振り絞って顔を上げれば、大きな椅子に座っていた総団長が立ち上がった。

「怪我の具合は?」

「ぁ、は、はい! 全然大丈夫です!」

「こちらへ」

 手招きされ、ギクシャクしながら歩いた。目の前に居るのは、ランスで、ランスロット総団長。グルグル回る思考回路に、足がもつれてしまう。

「おっと、まだ痛むだろうか?」

 長い腕に受け止められる。見上げれば、じっと見つめられた。漆黒の瞳が吸い込まれそうなほど輝いて見える。

 憧れていた人が、目の前に居る。緊張するなと言う方が無理だ。

「……怒っているだろうか?」

 様子を伺うように問われ、最初、言葉の意味が分からなかった。何故、俺が総団長に怒っていることになるのか。

 眉間に寄せてしまった皺に、彼もまた眉間に皺を寄せている。

「君達を騙していたことだ」

「……ぁ、ああ。そのことでしたら、全く気にしていません。むしろ自分の方がずいぶん失礼なことをしてしまってすみませんでした!」

 勢いよく頭を下げて謝った。直角に曲がった腰。肩を掴まれるとすぐに戻された。

「黙っていたのは私だから。それに楽しかったよ。久しぶりに一般騎士になれたからね」

 穏やかに笑ってくれた総団長は、俺の肩に手を置いたままじっと見つめてくる。

 主に耳を。ふさっとしている俺の耳に、ゴクリと生唾を飲み込んでいる。

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