49 / 87
第三王道『恋してふっさふさ☆』
4.ふさっと
しおりを挟むランスが、ランスロット総団長で。
俺が偉そうに背中を叩いたり、耳で肩を叩いたり、肩に飛び乗ったりしていた人が総団長だったわけで。
「……うおぉぉ――――!! やべ――!! ぜって――やべ――――!!」
頭を抱えて叫ぶ俺に、第十部隊の仲間は笑っている。
「荒れてるなー、隊長。耳めっちゃ可愛いし」
「馬鹿。羽をむしるって言われてたろ」
「でも、やばいって、耳、耳!」
治療を受けた俺と仲間達は、無事に宿舎まで戻っていた。本来、東の森は第一部隊の持ち場だ。見回りは彼らが行っている。
フルフル震える長い耳を折り畳んだ俺は、椅子に座るとうちひしがれた。仲間達の声は聞こえているけれど、今日は怒鳴る気になれなかった。
魔物に侵入を許した東の森。俺の仲間が密かに設置した防御壁でどうにか食い止めてはいたけれど、数人しか残されていなかったライオン族の騎士達は酷い傷を負った。
彼らと、町の人々を防御壁の内側まで運んだ俺の仲間は、数で押されていた。震音を送っていたトリ族の男は、上空から戦況を確認しながら、仲間に避難経路を知らせ、それを俺にも震音で送っていた。
設置していた防御壁では防ぎきれず、人々を中央へと逃がしつつ後退していたところへ、総団長と共に合流した。
俺を馬に残し、単身降りた総団長は槍を構え、魔物の群れに飛び込むと。
「すげーよ、マジすげーよ! 生で見ちゃったよ!」
グッと握り拳を作ってしまう。力が入ったせいか、耳も一緒にフルフルする。
「わおっ! 耳ラブリー!」
「お前、本当に羽むしられるぞ」
「お前だってずっと見つめてるし」
「まあ、あれだけフルフル震えられるとキュンキュンするな」
俺の耳に集まる視線も、今日は許しておいた。それどろこではないからだ。
ヒューマンの身でありながら、見事な槍術で魔物を打ち払っていく姿を生で見られた。力では魔物に遅れをとっていたけれど、操る槍の手さばきは見事、としか言いようがない。
数分、見とれてしまった第十部隊と第五部隊は、我に返ると総団長の手助けに入った。腹部に強打を受けてはいたが、総団長と共闘できる機会などこの先無いだろう。足手まといにだけはなるまいと、フラつく足に力を込めた。
やがで副団長が指揮する他の部隊も合流し、そこで一気に魔物を討伐していった。町の中は荒らされてしまったけれど、仲間達の迅速な行動で犠牲者は出さずに済んだ。
「指揮する姿も格好良かったな-」
ランスとして第十部隊に居る時は、ほとんど話さなかったけれど。檄を飛ばし、隊を率いる姿は凜としていた。久しぶりに騎士達の間にほどよい緊張感が漂っていた。
ほうっと溜息をつく俺に、仲間達もまたほうっと溜息をついている。
「マジ格好良い!」
「「「やばいくらい可愛い」」」
へたれた耳をなんとなく弄っていた俺は、ノックされたドアに、夢見心地だった意識を戻した。
「どうぞ」
「失礼するよ」
入ってきたのは、ヴェルダー副団長だった。奥に座っていた俺に手招きしている。
「ランスロット総団長殿がお呼びだ」
「お、俺、じゃなかった、自分をですか!?」
「ああ。治療が済んでいるなら来て欲しいそうだ」
「は、はい!」
急いで立ち上がり、副団長に並んで歩く。青い甲冑姿の副団長は、シカ族の男だった。頭部から生えているはずの角は切り落としているらしい。短い尻尾は、今は外に出されていた。ヒューマンの振りをするため無理矢理押し込んでいた耳と尻尾、結構、痛かったと笑っていた。
「一昨年と、昨年と、優勝した者の名は届いていたが、中央への配属希望は出ていなかったからね。バフリ団の噂も、あまり良いものではなかった」
総団長が詰めた宿舎は、元々バフリ団長が使っていた宿舎だった。彼は今、謹慎中だ。団長の座からは降格となり、甥のモルドーも隊長から降格となる。
剣術大会は一ヶ月後に改めて行われることになった。第一部隊は新たな隊長を任命し、参加することになる。
ということは、今度は皆、本気で来るだろう。考えると胸が踊る。
「どうしてもここの現状を自分の目で確かめたいとおっしゃってね。騙すことになって済まない」
「いえ! 俺の方こそ、ずいぶん失礼な態度を……取ってしまい……」
思い出すと項垂れた。呼び出されたのは、もしかして総団長に対する失礼な態度について叱責されるためだろうか。
へたれた俺の耳を見た副団長は、ポンッと背中を叩いてくれる。
「そう、気負わなくて大丈夫。さ、中へ」
ノックをし、返事を確認するとドアを開けて俺を押し込んだ。自分は出て行ってしまう。勇気を振り絞って顔を上げれば、大きな椅子に座っていた総団長が立ち上がった。
「怪我の具合は?」
「ぁ、は、はい! 全然大丈夫です!」
「こちらへ」
手招きされ、ギクシャクしながら歩いた。目の前に居るのは、ランスで、ランスロット総団長。グルグル回る思考回路に、足がもつれてしまう。
「おっと、まだ痛むだろうか?」
長い腕に受け止められる。見上げれば、じっと見つめられた。漆黒の瞳が吸い込まれそうなほど輝いて見える。
憧れていた人が、目の前に居る。緊張するなと言う方が無理だ。
「……怒っているだろうか?」
様子を伺うように問われ、最初、言葉の意味が分からなかった。何故、俺が総団長に怒っていることになるのか。
眉間に寄せてしまった皺に、彼もまた眉間に皺を寄せている。
「君達を騙していたことだ」
「……ぁ、ああ。そのことでしたら、全く気にしていません。むしろ自分の方がずいぶん失礼なことをしてしまってすみませんでした!」
勢いよく頭を下げて謝った。直角に曲がった腰。肩を掴まれるとすぐに戻された。
「黙っていたのは私だから。それに楽しかったよ。久しぶりに一般騎士になれたからね」
穏やかに笑ってくれた総団長は、俺の肩に手を置いたままじっと見つめてくる。
主に耳を。ふさっとしている俺の耳に、ゴクリと生唾を飲み込んでいる。
0
あなたにおすすめの小説
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
起きたらオメガバースの世界になっていました
さくら優
BL
眞野新はテレビのニュースを見て驚愕する。当たり前のように報道される同性同士の芸能人の結婚。飛び交うα、Ωといった言葉。どうして、なんで急にオメガバースの世界になってしまったのか。
しかもその夜、誘われていた合コンに行くと、そこにいたのは女の子ではなくイケメンαのグループで――。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。
下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。
文章がおかしな所があったので修正しました。
大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。
ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄をするから受け入れてほしいと言われる。
理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、
「必ず僕の国を滅ぼして」
それだけ言い、去っていった。
社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる