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戦間期(1932〜1941)
『大和』の産声五 電気溶接
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福田少将は、この時日本が電気溶接において、世界に大幅に遅れを取る事を危惧していた。
しかし、大学での講義で「最近の造船屋は電気溶接に酔っ払っておる。これでは電気溶接ではなく、電気ブランだ」と述べる平賀も、譲らない。
「電気溶接は、無理に押さえつけて行なっている為、表面が平らに見えても、内部は絶えず応力のかかっている状態にある。その為にこの様な事態が起こるのだ。それの影響の程度を究明せずに運用を行なっては、いかん」
「しかし、平賀さん。その様な事は今後、研究が進めば解決するであろう事です。損傷原因は、はっきりとしていません。計画の行き過ぎか、溶接の未熟さか。それが分からぬ内に、溶接ばかりが悪い様にされるのは、得心が行きません」
溶接推進派の福田少将としては、それが本心だった。それに、福田少将は、以前にも鋲接の艦が暴風雨に会い、外板が破壊された事例を見ている。
「しかし、鋲接の艦は殆ど損害を受けていなかった。それはどう考える」
「特型駆逐艦の内には、以前に補強工事を施した艦が有ります。それと、そうでない艦との区別はどうなのですか?」
「うん。しかし、溶接の方がより弱い様に感じられる」
「貴方の理論では、電気溶接を今後一切使うな、と言ってるように聞こえますが」
「そんな事はないよ。使える時期が来るさ」
「それは、いつ頃ですか?」
「そうさね。冷たい溶接が出来るようになった時だね」
また、無茶な事を言う。福田少将は、自然と笑みが浮かんできた。
「おい、平賀さん無茶を言うんじゃない」
出席していた山本五十六中将がそう言い、大笑いする。すると、室内にいた全員が大笑いした。無論、その中には、平賀と福田少将もいた。
平賀が言いたかったのは、船体を変形させるような無理をしない溶接を研究しろ、と言いたかったのであり、それが咄嗟のことで「冷たい溶接」との表現となったのである。
福田少将は、平賀のこの真意を汲み取っていた。彼は大きく頷いたのであった。
結局の所、この会議では溶接の不利であることを覆す事は出来なかった。しかし、僅かながらではあるが、盛り返したのも確かである。
しかし、これをひっくり返しかねない事件が、一二月に起きた。
この頃、第四艦隊事件で起きた教訓を元に、溶接部分の変更や補強が図られていた時である。
平賀が、溶接の使用を大幅に禁じる私案を提出したのである。これによると、溶接の使用は、力の大きくかからない補助的な部位に限られるとしていた。平賀はこれを制式化しようと目論んでいたが、これには、思わぬ横槍が入った。
臨時艦隊性能調査委員会の幹事を務めていた、西島亮二少佐である。
彼は、鋲接と溶接双方に問題があると纏めた論文を、これ以前に出していたのである。
更には、会議で福田少将との言い合いを聞いていた者から漏れ出たのか、平賀の溶接嫌いは海軍内で有名になっていた。
しかし、溶接という新技術に不安が残るのも、確かである。
そこで、本場の溶接を改めて学ぶ必要性が生じたのである。本場とは、欧州の事である。
白羽の矢が立ったのは、西島少佐であった。いや、かれには元々欧州視察の任務が下る予定であった。だが、第四艦隊事件でそれが吹き飛び、彼は調査委員会の幹事となっていたのであった。元はと言えば、彼が第四部に出所となったのも、これが理由である。
元々有った計画だけに、進むのも早かった。
彼はこの四月に、欧州に飛ぶ事となった。
これには、計画されていたA140も関係している。海軍は、西島少佐をこれの建造に起用しようとしていたのである。日本は、昭和九年に海軍軍縮条約から脱退を、諸外国に通告していた。これは条約を廃棄する二年前に通告する事が必要だったので、海軍軍縮条約は昭和一一年をもって効力を失う事となる。日本は、新たな戦艦を作れるのだ。それも、ただの戦艦ではいけない。圧倒的工業力を持つ合衆国に対抗するには、質において圧倒的に勝る艦を、建造しなければいけないのだ。
それを成し遂げるためには、造船の現場においては日本一の西島少佐を起用する必要があった。
さて、時間を少し戻そう。第四艦隊事件の一ヶ月後、一〇月一九日である。この日、A140計画案の最終決定が行われていた。この時出されたのは、A140B5案が出された。この案の概要は以下の通りである。
公試排水量五三〇〇〇トン、全長二七〇メートル、最大幅三五メートル、主砲四六サンチ三連装砲三基、副砲一五・五サンチ三連装砲四基一二門、航続能力一八ノットで八〇〇〇浬、速力三三ノット、出力タービンとディーゼル併用で一三五〇〇〇馬力。
軍令部の意見を最大限に取り入れたのは、この時勢に合って珍しいと捉えられる。何せ、彼らの要求通りに作られた艦艇が、次々に事故を起こしたばかりなのだから。これの実現に大いに役立ったのが、防御力の要求が低く抑えられていたことである。仮にこれが自艦の攻撃に耐えられるように設計されていれば、艦の肥大化は避けられなくなり、艦の速力や航続力は弱められていただろう。この艦でそれが成されていたのは、主砲前盾と司令塔だけであった。
艦本第四部では、詳細計画が進められ、A140B6とされたが、全長が多少増えた以外には、基本性能は変わらなかった。
ここに、後に『大和』と呼ばれる史上最大の戦艦が産声を上げたのである。
しかし、大学での講義で「最近の造船屋は電気溶接に酔っ払っておる。これでは電気溶接ではなく、電気ブランだ」と述べる平賀も、譲らない。
「電気溶接は、無理に押さえつけて行なっている為、表面が平らに見えても、内部は絶えず応力のかかっている状態にある。その為にこの様な事態が起こるのだ。それの影響の程度を究明せずに運用を行なっては、いかん」
「しかし、平賀さん。その様な事は今後、研究が進めば解決するであろう事です。損傷原因は、はっきりとしていません。計画の行き過ぎか、溶接の未熟さか。それが分からぬ内に、溶接ばかりが悪い様にされるのは、得心が行きません」
溶接推進派の福田少将としては、それが本心だった。それに、福田少将は、以前にも鋲接の艦が暴風雨に会い、外板が破壊された事例を見ている。
「しかし、鋲接の艦は殆ど損害を受けていなかった。それはどう考える」
「特型駆逐艦の内には、以前に補強工事を施した艦が有ります。それと、そうでない艦との区別はどうなのですか?」
「うん。しかし、溶接の方がより弱い様に感じられる」
「貴方の理論では、電気溶接を今後一切使うな、と言ってるように聞こえますが」
「そんな事はないよ。使える時期が来るさ」
「それは、いつ頃ですか?」
「そうさね。冷たい溶接が出来るようになった時だね」
また、無茶な事を言う。福田少将は、自然と笑みが浮かんできた。
「おい、平賀さん無茶を言うんじゃない」
出席していた山本五十六中将がそう言い、大笑いする。すると、室内にいた全員が大笑いした。無論、その中には、平賀と福田少将もいた。
平賀が言いたかったのは、船体を変形させるような無理をしない溶接を研究しろ、と言いたかったのであり、それが咄嗟のことで「冷たい溶接」との表現となったのである。
福田少将は、平賀のこの真意を汲み取っていた。彼は大きく頷いたのであった。
結局の所、この会議では溶接の不利であることを覆す事は出来なかった。しかし、僅かながらではあるが、盛り返したのも確かである。
しかし、これをひっくり返しかねない事件が、一二月に起きた。
この頃、第四艦隊事件で起きた教訓を元に、溶接部分の変更や補強が図られていた時である。
平賀が、溶接の使用を大幅に禁じる私案を提出したのである。これによると、溶接の使用は、力の大きくかからない補助的な部位に限られるとしていた。平賀はこれを制式化しようと目論んでいたが、これには、思わぬ横槍が入った。
臨時艦隊性能調査委員会の幹事を務めていた、西島亮二少佐である。
彼は、鋲接と溶接双方に問題があると纏めた論文を、これ以前に出していたのである。
更には、会議で福田少将との言い合いを聞いていた者から漏れ出たのか、平賀の溶接嫌いは海軍内で有名になっていた。
しかし、溶接という新技術に不安が残るのも、確かである。
そこで、本場の溶接を改めて学ぶ必要性が生じたのである。本場とは、欧州の事である。
白羽の矢が立ったのは、西島少佐であった。いや、かれには元々欧州視察の任務が下る予定であった。だが、第四艦隊事件でそれが吹き飛び、彼は調査委員会の幹事となっていたのであった。元はと言えば、彼が第四部に出所となったのも、これが理由である。
元々有った計画だけに、進むのも早かった。
彼はこの四月に、欧州に飛ぶ事となった。
これには、計画されていたA140も関係している。海軍は、西島少佐をこれの建造に起用しようとしていたのである。日本は、昭和九年に海軍軍縮条約から脱退を、諸外国に通告していた。これは条約を廃棄する二年前に通告する事が必要だったので、海軍軍縮条約は昭和一一年をもって効力を失う事となる。日本は、新たな戦艦を作れるのだ。それも、ただの戦艦ではいけない。圧倒的工業力を持つ合衆国に対抗するには、質において圧倒的に勝る艦を、建造しなければいけないのだ。
それを成し遂げるためには、造船の現場においては日本一の西島少佐を起用する必要があった。
さて、時間を少し戻そう。第四艦隊事件の一ヶ月後、一〇月一九日である。この日、A140計画案の最終決定が行われていた。この時出されたのは、A140B5案が出された。この案の概要は以下の通りである。
公試排水量五三〇〇〇トン、全長二七〇メートル、最大幅三五メートル、主砲四六サンチ三連装砲三基、副砲一五・五サンチ三連装砲四基一二門、航続能力一八ノットで八〇〇〇浬、速力三三ノット、出力タービンとディーゼル併用で一三五〇〇〇馬力。
軍令部の意見を最大限に取り入れたのは、この時勢に合って珍しいと捉えられる。何せ、彼らの要求通りに作られた艦艇が、次々に事故を起こしたばかりなのだから。これの実現に大いに役立ったのが、防御力の要求が低く抑えられていたことである。仮にこれが自艦の攻撃に耐えられるように設計されていれば、艦の肥大化は避けられなくなり、艦の速力や航続力は弱められていただろう。この艦でそれが成されていたのは、主砲前盾と司令塔だけであった。
艦本第四部では、詳細計画が進められ、A140B6とされたが、全長が多少増えた以外には、基本性能は変わらなかった。
ここに、後に『大和』と呼ばれる史上最大の戦艦が産声を上げたのである。
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