艨艟の凱歌―高速戦艦『大和』―

芥流水

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戦間期(1932〜1941)

『大和』建造二 ディーゼル機関

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 一一号内火機械の失敗原因は、開発を急いだ関係から、十分な試験を行えなかった為であるとされた。
しかし、この一一号の失敗にもめげず、機関を担当していた艦政本部第五部は、A140に搭載する機関の開発は可能であるとして、設計を開始した。
昭和十二年三月、A140に搭載する一三号内火機械の試験が行われた。成績は良好で、一〇〇時間を超える連続運転も問題なく終えた。これには、設計を担当している第四部も一安心し、誰もがこれで機関は決定したと思った。
 しかし、驚くべき決定が下った。実感搭載の実績がない事等を理由に、これを主機関に利用しない事が決定された。
 これにも、平賀が関与している。設計に確実性を何よりも重視する、彼はこう判断した。
 曰く、戦艦は重防御の艦種である為、竣工後に問題が起こっても、換装には膨大な時間と労力がかかり、艦もガタガタになる。
 とはいえ、今更設計の変更は出来ない。
 それでも、平賀はこれを押し通そうとした。恐れ多き方に、進言をしたのである。その、恐れ多き方とは軍令部総長伏見宮王であった。
 しかし、これは意外な決着を見せた。
 嶋田繁太郎中将がディーゼル併用案を擁護したからである。彼の言い分としては、こうである。
「四基ともタービンにすれば、速力と航続力は低下せずにはいられない。特に、重油を多量に積み込む必要があるために、速力の面で著しく、三二ノットを割ってしまう恐れがある。そうなれば、米海軍の艦に対して優位を確立出来ないばかりか、軍令部が想定している、機動兵力としての使用も出来なくなってしまう」
 伏見宮王は、己の腹心でもある嶋田中将の意見を重用した。
 彼は、用兵側の意見として、ディーゼル併用案が好ましい事を表明。そこで、艦本五部にもこの騒動が伝わってきた。彼らは、機関の設計を専門としているだけに、蚊帳の外に置かれていた事の不満を示し、愈々平賀への不満を露わにした。
 ここに至っては平賀と雖も、為す術がない。軍令部は用兵側の立ち位置で反対し、艦本も四部は新たに設計を行うことに乗り気ではなく、第五部は強固に反対している。A140に関係するほぼ全ての機関が、平賀の敵に回ったのである。
 平賀の企みは、不成立に終わった。

 こうした騒動を経て、六月一七日、海軍大臣米内光政大将がA140一号艦の製造訓令を下した。ここでは、完成期日は昭和一六年一二月となっている。

 時代が動いたのは、彼らが想像するよりも遥かに早くのことであった。この年の七月七日、盧溝橋にて日中間の軍事衝突が発生。更には八月一三日には上海事変が起こり、日中間は実質的な戦闘状態に入った。
 この時、両国は貿易が出来なくなることを恐れ、互いに宣戦布告を行っていない。その為、これは戦争ではなく、事変扱いとなり、先の盧溝橋と含めて支那事変と呼ばれるようになった。
 支那事変発生当初は日本の、いや世界中の人々が短期の戦闘に終わるだろうと思っていた。誰も、今後一〇年以上にわたって日本の悩みの種になるとは思いもしなかったのである。

 それについては追々書いてゆこうと思う。今は、呉に焦点を当てる。
 八月一五日、海軍航空隊による南京渡洋爆撃が開始された。それに伴い、海軍は特務艦『朝日』を救難艦として派遣、それに呉工廠の艤装主任が救難主任として乗艦。このため、西島少佐は、艤装工場主任を含む三種兼任で呉工廠に配属を命じられた。当初海軍人事部は『朝日』の救難主任に、帰国したばかりで任務に就いていない西島少佐を乗せるつもりであったが、彼が新戦艦建造の為に急遽帰国した事が分かり、取りやめになったという話がある。

 A140建造で、一番に問題にされたのは予算であった。この戦艦は非常に小さく作られている。いや、排水量が五〇〇〇〇トンを超えるという、非常に大きい艦であるのだが、他国と同じようにこの艦を作れば更に一〇〇〇〇トンは大きくなっているという計算もある。そう言う意味で、この艦は小さいのである。
 基本的には、艦は小さいほど安く、作れる。しかし、小さいことにも問題点はある。非常に緻密な構造となっているために、トン辺りの費用が高く付くのである。予算を出す大蔵省としては、出来うる限り予算を切り詰めたい所であり、設計者は用兵側の要求を満たそうと、複雑な設計図を描く。このしわ寄せは現場にくるのである。

 A140の速力を上昇させる方法は、様々に試みられていた。全長を二七七メートルにしたことおける縦横比の増大、電気溶接の多様による重量の軽減、そして球状艦首(バルバスバウ)である。
球状艦首にした事により、艦首波は減じている。これにより、水の抵抗が一割程度小さくなるのである。
 西島少佐にとって嬉しいことは、電気溶接を使えるために、リベットを用いるよりも費用を抑えることが出来たことである。彼にとって、予算がいかに難敵であったかは前述の通りである。

 電気溶接を使う利点はまだあった。
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