くじゃくのはね

彩城あやと

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混乱させるな

混乱させるな その4

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「尻尾を巻いて逃げるなら、今のうちですよ」
「誰が逃げるか」
 殊更ゆっくり。ベッドの上で真鍋が自分の服を脱ぎ捨てる。乱れた髪をかきあげる姿は、この上なく妖艶で魅せられる。目が離せない。
「あんた、服を着たままする気ですか? それとも焦らす気ですか?」
 上体を起こしてシャツのボタンを、ぷつり、ぷつりと外していくと、真鍋がギシリ音を軋ませシャツを掴んだ。シャツを剥ぎ取られたのはあっという間で、首筋にチリっとした痛みが走る。
「痛……、跡、残すなよ」
「ここ何日かオフでしょう? どこにも行かず、ここに居ればいい」
 ゆっくりと首に、肩に、腕に、真鍋の唇が落ちる。手が後頭部にかけられ、角度を変えながらついばむようなキスが落ちてくると、後頭部にかけられた指先がいたずらに耳元をくすぐってくる。もう一方の手は大腿部から腰辺りをゆっくりとなぞり、殊更ゆっくりとした愛撫に息が乱れそうになる。
 激しく求められれば真鍋の欲望に流されればいいだけだ。それなのに、真鍋はそれを許さない。じっくりと、じわりじわりとせり上がる快楽を与えようとしてくる。飲み込まれそうになる。
「ま、真鍋」
 蓮をのぞき見た真鍋の喉元がごくりと鳴った。
「あんた卑怯ですよ。俺がどれだけおあずけくらってたか分かっていて、そんな顔をするんですか?」
 真鍋の指先が薄く唇を開かせ、熱い舌が口内に浸入してくる。煽るように殊更ゆっくりとした動き。焦れて絡めると口づけは深く、濃密になっていく。
「は……ふ……ぁ、ん、んん……」
 真鍋の指先は触れるか触れないかの絶妙な触れ加減で上半身を撫で回すが、真鍋の爪の先が胸の突起に当たると、どうしても絡まった舌が震え、身を固くしてしまう。
「藤宮さん……感度がいいんですね。それにもっと遊んでるのかと思えば、ここも薄くて綺麗だし」
 うっとりとした真鍋の声色と舌が乳首に触れて、濡れた。柔らかい舌が、ねろりと這ったかと思えば、舌が固く尖り、弾くようにつまびかれる。
「………あ……っ!」
 乱れる吐息の隙間に嬌声が漏れた。慌てて口を塞だがもう遅い。真鍋に気づかれてしまった。
「ここ、いじられるのが好きなんですか?」
「おまえ……っ、黙って出来ないのか!」
「睦言に付き合ってくれないなんて、つれないですね。分かりましたよ。あんた、今まで女に突っ込んでただけでしょう? こんなに感度のいい身体してるのに勿体無い。出すだけが快感ではない事、今から教えてあげますよ」
 摘み捏ねられ、ジリジリとした甘い圧迫感を覚えている乳首の先端に熱く濡れた真鍋の舌が這う。
「う……ぁ……それ、もうやめろ……」
「無理です。すべて俺にくれるんでしょう?……くそっ、でもここまで反応してくれる身体とは期待してなかった。俺も持つかどうか」
 真鍋の焦らすような舌の動きや手の動きは性急なものに代わっていた。性器は触れてもらえないままだが完全に勃ち上がってしまっている。真鍋の手と唇が、吐息が乱れる場所を探し彷徨っている。ようやく下着ごとジーンズを剥ぎ取られた時には、どろりとベットの上に沈み意識は朦朧としていた。
 ぼんやりと見下ろしてくる真鍋に視点を合わせると、真鍋の瞳は情欲の火が灯り、ひどく妖艶に揺れている。それだけで息が乱れ、性器の先端から雫が溢れる。
「……あんたの身体……エロい」
ねろり。先端から溢れる雫を舐め取られ、思わず腰を捻ると腰にクッションがあてがわれ、身体を深く折り曲げられた。
 性器全体にゆっくりと舌が這っていく。くちゅり。濡れた指先が蕾みの襞にそってゆるりと動く。腰の辺りにはいつの間にかローションが転がっているのが見えた。
 知識としては知っていた。男同士のセックスでそこが使われる事を。だが怒号した真鍋のモノは体格に合わせたようにデカイ。とてもじゃないが体内に収め切れるとは思えない。押しつぶされた蕾みが、つぷんと真鍋の指をくわえ込んだ。
「待て、ぁ……あ、ぁ」
「言ったでしょう? 出すだけが快感じゃないって」
 鈴口を固く尖った舌で、これでもかと言わんばかりに弄り倒され、真鍋が深く咥えた時には何がどうなってるのか、もうよく分からなくなっていた。
 ぐじゅり、差し抜きされる真鍋の指は蕾みを押し広げ、もう何本入っているのかさえ分からない。初めは異物感があったものの、快楽を生み出す部分を真鍋が見つけてからは、そこは性器と化していた。肉茎は真鍋がすぼめた唇で激しく扱かれ、後孔は妖しい水音を立てながら同じリズムで擦り上げられる。
「ぁ……う……っ、真、鍋……そこに、触るな……」
「風俗でもここ、いじるコースあるんでしょう? 他の女はこんな事をしてくれませんでしたか?」
「こ、んな、事……ぁ、誰にも……されて、ねぇ……っ」
「俺が初めてですか……?」
 熱にでも浮かされたような瞳で訴えられても、何も答えられない。代わりに自分のものとは思えない嬌声が漏れた。
「あ……ぁぁ……ひ……っ、ぅ」
「これからたっぷり教えてあげます。ほら、ここが前立腺裏です。男だから感じるんですよ。個人差ありますが」
 ねろり。大腿の柔らかい部分に舌が這う。
「あんた、素質は充分あるようですね。自分でも分かるでしょう?」
「あ……ぁ……やめ、真……」
 ぐりぐりとその一点を触られるとたまらず嬌声が漏れ、真鍋の肩に爪を立てて首を振った。
 視界が霞む。
 限界点はそこまできているのに性器に触れてもらえず、快楽と狂喜の狭間で何が何やら分からない。拷問だ。イきたいのに、イけない。吐息に混じってすすり泣きのようなものが聞こえた。真鍋の激しい責めたてに「やめてくれ」とすがりついて懇願するしかない。
「嫌なら逃げろと最初に言っておいたでしょう?」
「痛い……事は、覚悟して、た……だが、これ、は、ぁぁ……っ! 思っていたのとは、違……ぅ」
「気持ちがいい?」
 拷問に近いほど。
 ガクガクと頷くと、ずるりと蕾みから指が抜かれ、抱きしめられた。
「ま、なべ……?」
「あ……すみま、せん。あんた予想もしない程、素直なので嬉しくておもわず……でも、もう少し、このままでいてもいいですか? 辛いですか……?」
 昇りつめる身体を放置されて辛くないわけがない。それでも固く抱きしめてくる真鍋に何も言えなかった。
 真鍋が何に不安を感じているのか、分からない。ブレた思考と乱れる息を抑えるので精一杯だった。そろりと髪を撫ぜると真鍋の唇が重り合わさる。
「ん……、ん」
 蕾みに真鍋の昂ぶりがあてがわれると、指とは比べ物にならない圧迫感に息をつめた。
「リラックスして下さい。ここはもう蕩けてる。あんたが初めてでもリラックスしてくれていれば、怪我もせずに俺を受け入れられますから」
「ぅ……は、はぁ……う、くぅ……」
「く……、息をして……そう、良かったでしょう? ここはあんたにとってイイ場所なんです。俺を受け入れて……あんたのすべて俺にくれるんでしょう?」
「あ……あ……あぁ……」
「は……っ、呼んで、下さい……俺の名前を」
 つっかえながらも真鍋の名前を呼べば、真鍋が中に沈んでいく。ひどい圧迫感はあったが、裂けるような痛みは感じない。ぽたりと真鍋の額から汗が頬に零れ落ちる。苦しいのか、痛いのか。
「は……ぁ、う、真鍋、無理、す…るな」
「この場合、負担がかかってるのは、あんたの方なんですが」
「あ……っ! ひ……っ! あああ……っ!」
 軽く揺さぶられて、かなり奥まで沈み込んでいく。思わず力が入るとリズミカルに性器を扱かれた。内部に真鍋の性器をくわえ込んだままの刺激では、嬌声を抑えきれない。とろり。ローションが後孔に足され、性器にもかけられる。
 じゅぷじゅぷと水音が鳴り出した。
 真鍋のモノが狙いすましたように前立腺裏を確実に責めてくる。圧迫感は射精感に打ち消されて、快楽でしか身体に伝わらない。射精感は圧迫感に押されて、永遠に続くようなもどかしい悦楽を呼んでいる。そんな圧迫感が消え去る頃、強い腕に抱かれ、降り注ぐような「好きです」と言う言葉に包まれていた。視界の先がとろりと蕩け真鍋に揺らされる。
「怖く、ないですか? 俺に抱かれて、気持ち悪く、ないですか?」
「な……い、すご……、いい……真鍋……いい……ぁ、ぁ……」
「……藤宮さん……藤宮さん……っ」
「あ、あぁぁ……、あ、く……っ!」
 ゆったりと揺さぶられながら、耳元で真鍋が「たまらない」と熱く吐息を漏らし続ける。ゆったりとした動きはまだ俺がビギナーだからだろうか。性器を扱く手はいつの間にか鈴口を弄んでいるだけで、解放には導いてくれない。
「あ、ぁぁ……んんっ! 真鍋……っ! 焦らす……なっ!」
「嫌、です。もっと、もっと、焦れて下さい。今のあんた、すげぇ色っぽい」
「真鍋……っ! イ……かせろ……っ! あ、あああ……っ!」
「………………っ!」
 中の質量がぐんと増した。抽挿のスピードが加速する。同じスピードで性器を扱き上げられる。
「あ……っ、く、うぅぅ…………っ!」
「夜は、まだ……終わりませんよ」
 聞き捨てならない言葉をどこか遠くに聞きながら、これ以上感じたことのない快楽に身を委ねて、白濁した体液を吹き飛ばすと、真鍋も低く呻いて中に熱い体液を注ぎ込んでくる。
 朦朧とした意識の中、何を考えているのか、真鍋はつながったまま横抱き姿勢になると、首筋にキスの雨を降らせてくる。唇が、髪が肌に触れるたびに、感度の上がった身体は不規則にヒクヒクと跳ねるが、こればかりはどうしようもなく、身体も異常に重いので真鍋の好きにさせておいた。
 それでも体内に収まったままずっと繰り返されるので、肘打ちして真鍋の身体を引き剥がそうかと思ったが「藤宮さん」と小さく囁くので諦め、手探りで真鍋の頭をそっと撫ぜた。
 重いからだろう。身体が。だから真鍋が引き離せないのだ。






「スタート!」
 カメラが回り始める。
 荒涼とした大地。砂利山が広がり、風がうっそうと吹きすさむ。髪を、服を風がゆったりと撫でていく。敵は前方。
 それでも蓮はカメラの向こうを意識して誘い、己のすべてを魅せる。ゆっくりと。雄大に。
 それはまるで、孔雀が羽根を広げるように――。


 おわり。


*


 あとがき


 ここまで改訂して、この当時、この話で、なんで『孔雀の羽根』て、タイトル付けたのかな~と不思議に思いました。
 あやとです。あ、彩城の(付け足さない)
 タイトル変えようなかぁ。と思ったんですが、シリーズ化しちゃってるので、変えられずに、ここで別件、お知らせ致します。
 えと、このシリーズ、2、3、番外編、と続きますが、今の所、改訂出来たのはこのお話だけです。
 続きはまだ改訂出来ていません。
 このまま読み進めると「おや?」となるかもしれませんが、どうか御容赦下さい。

 最後になりましたがここまでお付き合い下さり、ありがとうございました。
 ずっと書き続けていられるのもこうして目を通して下さる方のおかげだと日々感謝しております。
 またお会いできる日を夢見て!


 2016年 1月 25日 改稿  ☆彩城あやと☆





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