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孔雀草

孔雀草 その1

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クジャクソウ     花言葉
可憐な人
飾り気のない人
一目惚れ
悲しみ


********

乱れた後の沈黙が心地いい。
俺が身動きをすると、しゅっとシルクのシーツが音を立てる。柔らかい素材が、けだるい体にまとわりつき、するりと肌を撫でた。
「真鍋、事務所からオファーがきた。」
「・・・どんな仕事です?」
真鍋は俺の肩を、鼻先でくすぐり、甘噛みしながら聞いてきた。
まだ情事の余韻に浸ってるようで、返事がどことなく、甘い。
「正統派、スポ根青春コメディドラマ。」
「・・・・・!?」
肩への愛撫がぴたっと止まり、真鍋が固まった。
まぁ、俺も最初聞いた時には、なんで自分に、スポ根のオファーが来たのか首をかしげたが、こいつも同じらしい。
「「スポ根」とあんたってミスマッチですね?しかも青春ドラマって…あんた、もう25歳でしょう?少年たちと一体、何するんですか?」
「鬼コーチ。」
「…なるほど。でも蓮が、熱血鬼コーチですか?
イメージが違いますね。」
「鬼コーチっても、熱血コーチじゃない。割と寡黙な役だぞ。」
スポ根ドラマは、
廃部に追い込まれた水泳部に、ヤンキーだった主人公が、鬼コーチに誘われて入部する。
結果を出せれば、卒業出来るとか、出来ないかという選択の中でみんなと一緒に成長して行くストーリーだ。
俺が、あらすじを説明し終わると
つつっと指先で肩を愛撫しながら、真鍋は納得したようだが、
こいつはまだ、シ足りないようだな。
「なるほど。あんたに適役ですね。」
つうっと伸びた指先は、肩から胸へ。突起に引っかかって滑って行く。
真鍋の指先が、何度も胸をなぞり、胸の突起を思い出したように爪先に引っかけていく。
引っかかる度、ぷつんと音が響くように、体がじいんと、熱くなっていくのを感じる。
「蓮、教師役だと、水着になったりしませんよね?」
「多分な。」
「あんたの体、例え仕事でも誰にも、見せたくないですね。」
真鍋は不満そうに、指を突起を挟み込み先端を擦り上げた。
「おまっ…もう、それやめろ。」
「どうして?
蓮、ここいじられるの嫌い?」
指で突起を、くりくりと捏ね上げながら、熱のこもった瞳で覗き込んできた。
「っ!さっきヤったばっかりだろ!」
「そうなんですが…。」
真鍋の下肢の昂りが、腰にあたる。
「おまえ、まだヤル気か?」
「はい。シたいです。」
真鍋はにっこりと笑い、その体を起こして、俺に覆いかぶさる。ふわっと真鍋の顔が降りてきて、強く耳朶を噛まれた。
「ッ痛!」
「あんたといると、終わりがない。」
そう言って俺の足をぐいっと引き上げる。
「おまえまさか、いきなり突っ込む気か?」
即物的な行動に、俺は眉をひそめた。
「今なら、俺の形も残ってますし、あんたの負担も少なくて済みますから。」
真鍋はローションをたっぷりと自分のモノに塗って、俺の蕾にあてがったと思えば、そのままずるっと射し込んできた。
「ひっ……!」
痛みや圧迫感はさほど感じず、真鍋のモノが侵入してきた。
「……っ!」
ゆっくりと揺さぶられて、体は一気に熱くなる。
真鍋は俺のイイ所を狙って擦り上げ、揺さぶられて、すぐに何も考えられなくなってゆく。
ただ、お互いの息遣いとぐちゅぐちゅぐちゅという水音が、部屋に響き、
だんだん自分が、何者だったか分からなくなると、甘い声が上がった。
「……っは…あ……あんっ…っ!」
「あんたのその声、クル。」
がんっ!と再奥まで突かれて、体がびくびくと跳ねた。
「やめっ……っ!」
何度も奥まで突かれて、目の前がチカチカする。
「奥のほうも楽しめるようになってきました?」
「ふっ…あっ……!
ち、ちがっ…し、しげきが、つよい……やめっ…!」
真鍋の背中に爪を立てて懇願するが、願いは聞き遂げられず、ぎりぎりまで先端を抜いては、再奥まで突かれた。
壊れたおもちゃのような断絶的な自分の嬌声が耳を付く。
本当に壊されてしまうかもしれない。
がんがんと揺さぶられて、歓喜の為に、固く閉じた瞼が濡れていく。
「つらい?
それとも、気持ちいい?」
「….…イイ…」
お互いの流れる汗で、やたらと興奮する。
真鍋の体からフェロモンが立ち昇っているのを、ぼんやりとした意識の中で見た。
俺は限界が近いのを感じたが、もっと長く感じていたくて、耐える。
耐えれば耐えるほど、体が汗で濡れていき、感度も上がる。
「ここも好きでしょう?」
前立腺裏を狙って断続的に抽送を繰り返されて、俺はガクガクと頷いた。
「ああっ……!そ、こ…もっと…!」
真鍋が遠くで笑った。
「知ってますよ。でも今、ココを強く狙うと、あんた、イってしまいそうですね。
まだ、ダメですよ。ほら、楽しんで。」
真鍋が、そういって前立腺裏をを擦り上げながら、両方の乳首を捏ね上げた。
「はっ…やっ……あっ…!」
全身に熱がこもって、どうしようもない体に首を振る。
もうその熱を吐き出したくて、揺さぶられながら
真鍋に目で、イカせて欲しいと懇願した。
「まだです。」
真鍋の顔が艶っぽく笑った。
これ以上は無理だ。
俺はもう、出す事しか考えられなかった。
俺は右手を伸ばして、自分の性器を握ろうとすると
「ダメですよ。」
真鍋は俺の手を押さえつけ、腰を振った。
気が狂ってしまう…!
「すげえ。蓮の中うねってる。」
真鍋も端正な顔を苦悶で歪め、狂ったように腰を振った。
こいつとのセックスは気持ちよすぎて、自分が何か分からなくなってゆく。
「………っ!!」
俺の性器は、触れられないまま、つつっと白くて熱い飛沫が流れ出した。
直接、擦り上げられなかったからか、どくりどくりとゆっくり吐き出される。
俺はその快感と開放感に酔いしれて真鍋にしがみついた。
「………!!!」
「ああ……。蓮。うしろだけでイった……?」
耳元でそうやささやき、真鍋もゴールに向かって強く腰を振った。

********
スポ根ドラマの撮影まで、俺はジムで体を鍛える事にした。
以前、スーパー戦隊ものの撮影の役作りの為に、ジムに通って俺の体は、程よく筋肉もついて引き締まっていたが、
スポ根の水泳部の俳優メンバー達は若く、撮影期間まで役作りの為に水泳の特訓を受けている。
その中で、たるんだ体を映像に残せない。
今回は「水泳」のドラマだ。
俺は筋トレより、イメージ的にプールで鍛えるほうを選んだ。
幸い俺は中学、高校の時に水泳部だったので、水泳は得意だ。
中学、高校の水泳部は、屋外プールを利用する為、半年程しかシーズンがなく、シーズンオフには帰宅部になる。
適当に練習にして、そこそこの大会にも出場していた。
水音の中、昔の感を少しづつ、取り戻していくのも、悪くなかった。

*******
暑い。
白のポロシャツにベージュのチノパンを履いた俺は首にかけているタオルで汗を拭った。
スポ根ドラマの撮影は、五月から行われた。
都内の学校にある室外プールを借りて撮影を行い、夏には放送する予定になっている。
水温はまだ低く、撮影スタッフ達が撮影するまで、透明のビニールシートを張り水温を上げたり、大量のお湯を混ぜたりと苦労していたが、
プールサイドにいる俺には涼しげなプールは羨ましく写る。
夏の撮影為、レフ板を大量に使うので、俺は太陽の光りを真夏並みに浴びる事になるからだ。
暑い。
寒い!という水泳部の俳優メンバー達が、撮影を終え
ザブザブとプールから上がってきた。
熱を吸収したプールサイドに、バスタオルを抱え、ごろりと寝転んでいる。
逆に俺は、体の熱を取るために、よく冷えたスポーツ飲料を飲んでいると、水泳部のメンバー達が寝転んだままで、がやがやと絡んできた。
「藤宮さん、暑そうー。」
「コーチ大丈夫?」
「いや、暑いな。」
俺が苦笑しながら、スタッフ達をずらっと見ると、
一人が、ふいっと視線を逸らした。
今回のドラマの主人公の
大迫 瞬人だ。
こいつは最初からどういった訳か、俺の事を嫌っている。
大迫瞬人は見ている限り、人当たりがよく、いつもにこにことして、キツイ撮影でも愚痴ひとつ零す事はない。
AD達からも人望を得て、いつも輪の中心にいる。そんなタイプの奴だ。
だか、瞬人は俺だけトゲトゲしい態度をとる。
俺には嫌われる心当たりなんかなかったし、
ガキに付き合う必要もない。
だから、こいつが俺にどんな態度を取っても、気にしなかった。
「撮影終わったし、藤宮さんも泳ぎますー?」
「体の熱が一気に、取れますよ!」
こいつらは何かと、わらわらと集団で絡んでくるな。
ガッコのセンセーか何かになった気分だ。
だが、こいつらの言うように、本当にあの冷たい水に浸かってみたくなるが…。
「水着がない。」
俺が無愛想にそう答えると
瞬人がすっと立ち上がり、更衣室へと消えた。
「えーっ!水着があれば一緒に泳いでくれるんですかぁ?」
「藤宮さん、ホントはカナヅチですか?ねぇねぇ?」
「えーっ!俺は藤宮さんのファンだから、泳げないとこ見たくないー!」
「何に勝手な事、言ってやがるんだ。
俺は普通に泳げる。」
その時、瞬人がいつの間に現れたのか、そばに立っていて、
すっと手を伸ばして、俺に真新しい水着を差し出してきた。
「じゃあ、勝負しましょうよ。」
ぎらりと向けられるその目は、憎しみさえ浮かべてる。
このガキ、何だってんだ。
水泳のドラマで、主役を張れるこいつのタイムはそこそこ早い。
水泳の経験が無ければ、俺が絶対に勝てるはずがないのを分かっていて、勝負を挑んでるのか?
俺は水着を受け取った。
いいだろう。
「賭けるか?」
「面白い。」
瞬人は小さく整ったその唇の端を上げて笑った。


更衣室で水着に着替え、水のシャワーで汗を流してプールサイドに戻ると
みんながじっと俺を見た。
「すげぇ、いい体してますね!」
瞬人の差し出したのは、競泳用のビキニタイプの水着だった。
ほとんど裸に近い状態だが、慣れているので、気恥ずかしさはなかった。
「本当、すげぇ。」
俳優の一人が、ごくりと唾を飲んだ。
…あいつ、ゲイだな。
「帽子とゴーグルを貸してくれ」
俺がそう言うと、帽子とゴーグルを持った手が、沢山伸びて来た。
…俺の頭はひとつだ。ヤマタノオロチか。
帽子とゴーグルを一つ受け取ると
そいつが心配そうな声で聞いてきた。
「ホントに賭けするんですか?瞬人やつ、けっこう速いんですよ?」
「ま、余興だ。」
片付けを済ませたスタッフ達が、勝負の行方を見定めようと、ガヤガヤとプールサイド集まってる様子を見て言った。

どぷん。
と水に浸かり、
俺は軽くアップを済ませて、プールサイドに上がると
瞬人が無愛想なツラで近寄って来た。
「そこそこ泳げそうですね。
…何を賭けます?」
「何でも構わない。」
瞬人は少し目を見開いて、唇の端で薄く笑った。
「じゃあ、勝ったほうの言う事を、撮影中、何でも聞くと言うのは?」
「奴隷みたいだな。
それじゃ、演技に差し支える。
一度だけだ。負けたほうが
何でも言う事を聞く。」
「いいですね。」
瞬人はそのクールな目もとを、ぎらりと光らせた。
俺たちは、飛び込み台に立ってスタートの合図を待つ。
勝負は25m。フリー。
「よーい!」
パアンとピストルが鳴った。
ざぶんと水に飛び込み、水が、体を抜けて行く音を聞いた。


ざぶりとプールサイドに上がると、浮力の失った身体が重い。
タオルを持った水泳部メンバーが何人か駆け寄って来た。
「藤宮さん、すごいですね!あの瞬人と同時にゴールするなんて。」
「……。」
俺はタオルを受け取りながら、ポタポタと流れる水を眺めた。

勝負が終わるとみんなぱらぱらと帰って行く。
「もう少し泳ぎたい」
俺がそう言うと、ADが俺に鍵を預けて、早々と帰って行った。
何人か残っていたが、俺がずっと泳ぎ続けて、顔を上げると、
いつの間にか一人になっていた。
日も暮れて、水中のが暖かく感じられる。
俺はひとつため息をついて、プールから上がった。
ベチャベチヤと足音を立てて、更衣室のドアを開けると
そこには着替えを済ませた、
瞬人がいた。
「お疲れさまです。」
相変わらずの冷めた眼差しだ。
こいつの顔は元々、可愛いらしい顔立ちをしているので、余計に冷たく見える。
「……何で、勝負の最後で手を抜いた?」
こいつは勝負の最後、ワザとスピードを落としやがった。
瞬人は片方の唇の端を上げて、くっと笑った。
「あなたが、それに気が付くか賭けてたんですよ。」
「何だそれは?賭けに賭けてたって事か?」
瞬人は可笑しそうに笑い、
耳朶を人差し指と中指で挟んで捏ねた。
「………っ!」
「そう、賭けてました。
あなたのタイミングに合わせてゴールして、
それに気が付くがどうか。」
瞬人はぞくりとするような笑みを浮かべてゆっくりと近づいてくる。
俺はその異常な空気に、一歩、後ずさった。
…プールには誰も残っていない。
「僕が手を抜いた事を、気が付いたあなたが、素知らぬ顔をするかどうか。」
じりっと音を立てて、瞬人はすぐそば近寄り、手を伸ばして、俺の顎を上げた。
「あなたの行動を賭けてました。」
「!」
俺はバチンと音をたてて、瞬人の手を払い、こいつを睨み上げた。
何を考えてやがる?
「さて、僕が手を抜いて、引き分けにした勝負。
あなたは、思ったより、こたえたみたいですね。
それは、あなたが、勝負に負けた事を認めてるからでしょう?
ふふっ。
敗者は勝者の言う事を、一つ叶えてくれるんですよね?」
瞬人が一歩前に進んだ。
俺は後ろには下がらない。引けば犯される。
「勝負を引き分けにしたのは、お前だ。
勝負も敗者も、いない。」
瞬人は肩を震わせて笑った。
だか、それ以上は歩みよって来ない。
「なるほど、そうきましたか。」
「俺を毛嫌いしておいて、今更何を考えてる?」
こいつの背は俺よりも高い。見上げるように睨んだ。
瞬人は儚げに微笑んだ。
「毛嫌い、か。
……僕はあなたに、憧れてたんですよ。
じわりとくる魅力があって、あなたの出演するドラマは全てチェックしてました。
この撮影も楽しみにしてましたよ。
恋心さえ抱いてた。
でもね、」
その時に真鍋が俺の両肩を強く掴み、
思いっきり、背中を強く壁に打ち付けられた。
「痛っ!」
背中の痛みに顔をしかめると、
間近に真鍋の顔があった。
「あなた、体で仕事取ってたんでしょう?」
こいつ......!
「…確かに「奉仕」して仕事を取った事がある。
だか、それも昔の話だ。」
そんな真鍋が俺を変えてくれたからだ。
瞬人はくっと笑って、俺の水着をずり下ろした。
ヒヤリと触れる外気に驚いて、瞬人を振り払おうとすると、剥き出しの性器を強く掴まれた。
急所を痛いほど強く握られて、俺は動く事が出来ない。
俺はこみ上げる怒りのまま、睨み上げた。
「離せ。」
「昔の話とはいえ、散々ディレクター達に「奉仕」してきたんでしょう?
僕も楽しませて下さいよ。」
するりと尻を撫でられた。
「お断りだ。」
「僕はずっと、あなたに憧れて、いつか触れたいと思ってた。
あなたの冷めた顔を、僕が熱くしてヤリたかった。
でも、仕事の為にココをディレクター達に使わせていたなんて、許せない。」
「つっ!」
急所を握った反対の手で、俺の蕾に指をぐりぐりと押し当てた。
瞬人の目がぎらぎらと俺を見下ろしている。
「あなたのココ、散々「奉仕」で慣らされたんですね。
すぐにほぐれて、指が入る。」
「やめろ。俺はディレクター達に、指一本触らせなかった。
いい加減に離せ。」
プールの水を纏った瞬人の指が蠢き、吐き気がするが、顔には微塵も出さずに淡々と言った。
嫌がれば、こいつを煽る行為になりそうだからだ。
「体に触らせなかった……?」
「ああ、そうだ。…気持ちが悪いから早く離せ。」
つぷんっと指を引き抜かれて、ぞくっと震えた。
瞬人はマジマジと俺を見て口を開いた。
「あなた、体に触らせずに
そんなんで大役もらってたんですか?」
「「奉仕」でもらえたのはエキストラの程度の役だ。
後は自力で、のし上がってきた。」
瞬人の冷めた目が、明るく輝き出した。
「俺の藤宮さんは、やっぱり、イイ。」
意味が分からないが、こいつの中の憑き物は落ちたようだ。
急所を掴んでた手も、払いのけてやった。
「…でも、「奉仕」って何をしてたんですか?」
さっきの冷たい目が嘘のように
、穏やかなものに変わっている。
「手と口でしてやった。」
「はぁ!?それだけ?」
「……いや、十分だろう。」
瞬人は興奮したかのように、拳を、ぶるぶると握りしめている。
「俺はてっきり、ディレクター達があなたの体に、
アナルビーズや革紐や、どう尿管みたいな
道具を使って、好き放題されてたのかと思ってました。」
「……使うか。
どけ!」
俺は目の前に立つ瞬人を、払いのけた。
まったく、こいつもどんな想像してたんだ。
最後の、どう尿管なんか、すでに性行為じゃねぇ。
排泄行為だ。
俺はずらされた水着を、そのまま脱いで、タオルで体を拭き、手早く着替えをすませた。
「戸締りしとけよ。」
ちゃりん、と鍵を置いて
何事もなかったような顔をして、俺は更衣室を出た。

*******
俺の撮影は、ほとんどが昼間で、真鍋の撮影は、夜が多い。真鍋と二人の時間を合わせるうちに、自然と一緒に住むようになっていた。
マンションの玄関の鍵を開け、リビングに入ると真鍋がソファで映画のワンシーンのように、くつろいでいる。
物音に振り返って、俺を見つけると、見えない尻尾を振ってやってきた。
「おかえり。蓮。」
ぎゅっと抱きしめられて、ホッと安心した。
さっき、男に犯されかけたんだ。
俺も張り詰めていた気を緩るむ。
安堵感に身を任せて真鍋の背中にそっと手をまわし、深呼吸した。
「蓮?どうしました?何かありました?」
顔を真鍋の肩に預けたまま、首を振った。
あんな事、真鍋に話せる訳がねぇ。
真鍋はしばらく何も言わずに頭を撫でてくれたが、
いつの間にか俺の体を匂い出した。
「塩素くさい。」
そう言えば、プールから出た後、シャワーを浴びなかったな。
「……泳ぎました?」
「ああ。まあ。
今日は暑かったからな。」
真鍋は俺の腕を掴んで、覗きこむようにして言った。
「水着になったんですか?」
「……ああ。でも、俺は男だぞ。
余計な心配しなくていい。
そうそう、ゲイもいやしないだろ。」
…いや、二人居たな。
「俺はあんたの彼氏ですよ。心配しますよ!」
「…え?俺の彼氏?」
男の俺に、彼氏。
聞き覚えのない言葉だ。
「は?違うんですか?」
「いや、なんか……聞き慣れない言葉に驚いた。」
「あんた、毎日の様に俺に突っ込まれてアンアン喘いでいるでしょう?
そんで俺の彼氏?とか普通聞きます?
一応確認しますけど、俺ら付き合ってんですよね?」
「つ、付き合う?」
それも不思議な言葉だな。
「は?その気もないのに俺とアレコレしたって事ですか?」
真鍋の綺麗な顔が歪んでる。
確かにこいつにほだされたが、そこにはちゃんと愛がある。
なんて事、こいつに面と向かって言えねぇ。
俺は視線を落としてぽつりと言った。
「お前、俺がそう言うのちゃんと言えない事位、知ってるだろう?
俺がどうして、この部屋にいるか、お前は分かってるのか?」
「…分かってますよ。」
真鍋は俺からふいっと、目をそらした。
俺は瞬人の事で疲れていた。
塩素クサイと言われた体をシャワーで流して、こいつと抱き合いたい。
裸で抱き合えば、ちゃんと伝えられるかもしれない。
俺は真鍋を抱きしめた。
「塩素クサイなら、シャワー借りるぞ。」
そう断って熱いシャワーを浴びながら、ふと思った。
あいつ、俺がセフレ扱いしたとか、考えてるのかもしれない。
慌ててリビングに戻ると、真鍋が居なくなっていた。
他の部屋を探したがどこにもいない。
電話をかけてみると真鍋の携帯がテーブルの上から鳴る。
コール音はいつまでも、さみしく部屋に鳴り響いた。
携帯を置いて、コンビニにでも、行ったんだろう。
そう、自分に言い聞かせる。
俺は自分の言葉の少なさを恨らんで、真鍋が帰ってくるのを、じっと待った。
だかその日、あいつが帰ってくる事はなかったー…。



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