令嬢が眠る時

五蕾 明日花

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エピローグ

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 隣でイントリーグが起き上がる気配がして、半分夢の中にいたコーネリアは目を開けた。
 「でんか……?」
 彼を呼ぶ声は、酷く掠れて覚束無い。そんな言葉を紡ぐ口は、優しい口付けによって塞がれる。
 「イントリーグ、だ。つい先程まで、そう呼んでいただろう?」
 繰り返してきた長い人生の中でも見たことがない、拗ねたような表情で。なんだかそれが、可愛らしく思えた。
 「ふふっ……イントリーグさま……」
 「ああ」
 名前を呼べば嬉しそうに笑って。優しい手が、そっと髪を撫でた。その手付きに、まただんだんと眠くなっていく。
 「眠っていろ。後でメイド達に湯浴みと着替えの準備をさせる。それ以外は……私がやっておくから安心しろ」
 それは安心なのだろうか。これ以上、あられもない姿を彼の前に晒すのは恥ずかしいものがあるのだけれど。しかし今は自分で動くことも出来ないし、何より掛布の下にある肌に付けられた無数の赤い痕をメイド達に見られてしまう方が何となく恥ずかしかった。
 「おねがい、します……」
 「ああ。ゆっくり休め、ネル」
 優しい声と優しい手は、少しずつコーネリアを眠りの中へと誘って。やがてまた、瞼を閉じた。

◆◇◆◇◆◇◆

 「幸せそうだねぇ……全く、吐き気がする」
 黒猫に化けた悪魔は、浴室の窓を覗き込んでそう吐き捨てた。湯船には、幸せそうに眠るコーネリアと、そんな彼女を腕の中に閉じ込めて愛おしそうに見つめるイントリーグの姿がある。
 悪魔はそんな人間の幸せは嫌いだ。その代わり、人間の絶望を大好物とする。例えば、濡れ衣を着せられた挙句愛する者の手によって処刑されてしまう哀れな女の絶望とか。または、洗脳され、自分の手で愛する者を処刑してしまった男の絶望とか。
 (アンタは知らないよなぁ、コーネリア)
 コーネリアが繰り返した何回目かの人生から、イントリーグは彼女に想いを寄せるようになった。それが、エーデルワイスの仕組んだ魅了のアーティファクトによって洗脳されて。エーデルワイスの策略によって、自分自身の手でコーネリアを処刑していたのだ。
 その時イントリーグを支配した絶望は、悪魔にとってこれ以上ないくらい美味しい餌となっていて。だからあえて永い間コーネリアに人生を繰り返させていたのだけれど、しかし飽き性の悪魔は次第にそれも飽きてしまった。
 だから今回の人生、コーネリアがイントリーグへの贈り物を選ぶために入った宝石店のオーナーへと化け、店員にあのネクタイピンを勧めるよう仕向けたのだ。あの、悪しき魔力を跳ね返す力のあるアメジストのネクタイピンを。
 コーネリアにベタ惚れだったイントリーグは、何かある度にそれを身に付けた。だから、エーデルワイスの洗脳を受けることがなかったのだ。
 「じゃあなぁ、コーネリア。ま、退屈しのぎにはなったよ」
 何百年と生きる悪魔にとって、彼女と過ごした時間は体感として数分程度だろうか。まあそれでも、しばらくは思い出して笑えるくらいにはなった。それに。イントリーグから搾り取った絶望で、しばらく空腹や退屈といったものは感じないだろう。短い期間ではあるけれど、お気楽自由なニート生活が確約されたも同然だ。
 悪魔はご機嫌に鼻歌を歌いながら、ふわりと夜空に消えていった。
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