令嬢が眠る時

五蕾 明日花

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 震える手が頬に触れ、親指が唇の縁を撫でる。
 「ッ、ネル……」
 その声は、つい今し方までエーデルワイスやあの悪魔扮する使用人を詰問していたものとは違う、ひどく弱々しく震えている声で。
 「長い間離れてしまってすまない。思いの外、時間がかかってしまった……」
 ぎ、とベッドが軋みマットレスが微かに沈む。胸の上に重みを感じて、鼻先をイントリーグの吐息が掠めた。
 「苦しいだろう? 少し待っていろ」
 また唇が塞がれ、息が吹き込まれる。先程と同じことをされているはずなのに、どこか違う。深くて、甘ささえ感じて。
 (何故……)
 今回の人生、彼から殺意やら怒りやらを向けられていないのはわかった。しかし、想定すらしていなかったこの甘ったるい感情を戸惑わずに受け入れられるかと言われれば、それは無理な話で。いくら長らくこうなることを望んでいたとはいえ。
 顔が離れると同時に、胸に掛けられていたジャケットが退けられる。
 「すまない……許してくれ、ネル」
 中途半端に脱がされていたドレスに、手がかけられた。
 (ほ、本当に、やるの……!?)
 だって、あの話だって信じられないというのに。そもそも、だって、体を重ねるということは。精を体内に注ぎ込むということは、だって。
 しかしそんな戸惑いも、眠りの中では伝えることも出来ない。
 そんなコーネリアを他所にドレスが脱がされる。腰が浮かされ、下着と共に抜き取られ。晒された裸体が、シーツへと沈んだ。
 (あ……)
 角張った手が、外気に晒された秘部に触れたのがわかる。
 「傷付けるようなことはしない。約束しよう」
 優しい声と共に、再び唇が塞がれた。息が分け与えられる口付けの合間に、イントリーグの指がその芽を押し潰す。
 (待って、これ、ダメ……!)
 その瞬間、襲いくる知らない感覚にコーネリアは危機感を覚えた。嫌悪感とも違う、背筋をくすぐられるような痺れ。心地好く感じるけれど、それと同時にどこか泣きたくなってしまうような居心地の悪さを感じるような、そんな感覚。
 「……ネル」
 口付けの合間、耳元でそう甘く呼ばれる程その感覚は強くなって。
 思えば、イントリーグと体を重ねるなんてことは、今までの人生一度たりともなかった。もちろん、他の人間とだって。
 甘く誘うような指の動き。それから与えられる未知の感覚に、体は否が応でも反応してしまう。目を開けることが出来ず、聴覚と触覚が鋭くなっている今は余計に。
 「目を覚ました時、お前は怒るだろう。でも、なぁ、許せるわけがないじゃないか。お前は、私の婚約者だ。なぁそうだろう、ネル」
 そんなことを耳元で囁かれてしまっては。そんな言葉と共に、蜜壷の口へと触れられてしまっては。
 じんじんと、腹の中が熱を持ち始める。その指を求めるように、きゅんと反応してしまったのが自分でもわかってしまって。そしてそれは、イントリーグにも伝わったのだろう。
 「ああ……求めてくれるのだな、俺を」
 嬉しそうな吐息を感じた後で、また唇は塞がれた。
 (殿下……)
 息を分け与えられて呼吸は楽になっているはずなのに、どうしてこんなにも苦しく感じるのだろう。
 初めての感覚を受け入れる暇すら与えられないまま、彼の指が蜜壷へと侵入してくるのを感じた。
 (あ、いや、っ……!)
 その瞬間そう思ってしまったのは、その行為に対しての嫌悪感からくるものではない。
 胎内に触れるイントリーグの指の感触。傷付けるようなことはしない、という言葉通りに優しい手付きで触れてくるものだから、それが一層泣きたくなる程に甘いその痺れを増長させて。
 意識だけが起きている状態のコーネリアには、それをどこにも逃がすようなことが出来ない。ただそれを与えられるまま、受け入れることしか出来ないのだ。
 (ああ、イヤ、イヤよ……!)
 善がるところに指が触れた瞬間、自分ではどうすることも出来ずに身体が悦んでしまったのがわかる。きゅうきゅうとイントリーグの指を締め付け、もっと触ってほしいとはしたなく強請って。
 しかもそれが、イントリーグにはありのまま伝わってしまう。
 「ここが好いのだな」
 嬉しそうに、そしてどこか安堵したように笑う彼は更にそこを指で撫で付けて。
 (ヤッ……やだぁっ……!)
 それで素直に反応してしまう身体。
 蜜壷が、愛液で満たされていくのがわかる。イントリーグの指が動く度、ぐちゅぐちゅと水音が鳴って。溢れた愛液が、臀を伝ってシーツに落ちていくのがわかる。
 きっとはしたない光景になっているのだろう。長らく淑女として生きてきたコーネリアにとっては、羞恥心でどうにかなってしまいそうな状況なのだ。
 それなのに。
 「ああ、そうだ、それでいい」
 イントリーグは、嬉しそうに笑ってその手を止めない。むしろ執拗に、コーネリアが善がる場所を撫で付けるようになって。
 片脚が、彼の手によって持ち上げられる。ひやりと、外気が愛液に濡れた秘部を撫でた。
 「ああ……ははは」
 嬉しそうに笑うイントリーグの声が聞こえる。
 (見ないで……見ないでくださいまし……!)
 はしたなく善がる姿なんて、見せたくなかったというのに。
 (ぁ……っ……)
 指がもう一本、入り込んでくるのを感じて。それだねで、ジンと脳が痺れた。
 「ネル……」
 (あ、あぁ……イヤよ……)
 甘い声で名前を呼ばれ、優しい手付きで胎内を愛撫され。身体が悦んでいるのが、自分でもわかってしまう。
 息を分け与えるための口付けが、ひどく甘ったるく感じて。
 (イントリーグ様ァっ……)
 こんな自分を嫌わないで。
 そんな声は、眠りの中では発することは出来ないけれど。しかしその声は届かないけれど、その心配はなさそうだ。
 「ネル」
 彼は嬉しそうにコーネリアを呼んで、愛撫を続け、口付けを繰り返す。
 吹き込まれ、肺を満たす彼の息が熱く甘く感じた。
 与えられる快感を貪るまま溶かされる。
 (ああ、イントリーグ様っ……)
 甘い痺れは、やがて大きくなって。やがて、脳内が真っ白に塗りつぶされていく。
 (ぁ、う───)
 ぼんやりして、何も考えられなくなって。
 波が引くようにその感覚が落ち着いてきた時。自分の中から、イントリーグの指の感覚がなくなっていることに気が付いた。
 (ぁ……どうして……)
 急激な切なさを感じて、悲しさや虚しさが心の中に広がっていく。溶かされきった心は、ただ一心にイントリーグを求めてやまない。 
 そんな悲しさが、じゅうぶんにコーネリアの心を支配した時だ。ぐいと、強い力で両脚が持ち上げられて広げられる。その脚は、自分のそれとよく似た形の、しかし自分のものとは違うがっしりとした筋肉質のものにその形のまま乗せられて。広げられた秘部に、熱く硬いものが押し当てられた。
 (っ、あ……)
 瞬間、心臓がどくりと跳ね上がり、身体の奥底からかぁと熱が湧き上がる。
 「……こんな伴侶であること、申し訳なく思っているよ」
  懺悔の言葉と共に、また唇が塞がれた。
 腰が掴まれ、彼の体が引き寄せられて。
 (あ、入って……)
 蜜壷に、指とは比べ物にならない程の質量を持つモノが埋め込まれるのがわかる。太く脈打つそれは熱く、まだ誰のものも受け入れたことがない蜜壷を押し広げて入ってくるものだから痛みを感じて。しかし、そんな痛みさえ甘く感じた。
 「ッ……キツイ、な……でも、ああ……はは、アツい」
 嬉しそうに、イントリーグの声が揺れる。
 やがて。
 (ぁ……)
 ぷつん、と。微かな痛みと共に、彼の欲が自分の中の何かを突き抜けた感覚がして。
 「ははっ……」
 それは、イントリーグにも伝わったらしい。
 「ああ、そうだネル……お前は、私だけの……誰にも渡さない。あの下賎な、使用人になど……!」
 歓喜と、優越感と、独占欲と。次に降ってきた深い深い口付けには、そんな感情が込められていた。飲んだ毒薬により、呼吸はほぼ止まっていているけれど苦しくはないはずなのに。それでも苦しさを感じてしまう程、長く深い口付け。随分と長い間続いたそれが離れてしまうことが、酷く寂しく思えて。
 それでも、イントリーグの気配はすぐ傍に感じた。
 「愛しているよ、ネル」
 それは、コーネリアが長い間求めて止まなかった。
 (ぁ、イントリーグ様っ……)
 そんな短い言葉だけで嬉しくなって、身体中がかぁっとアツくなるのを感じて。
 「……ネル?」
 瞬間、イントリーグの声が弾んだ。
 「ネル、俺の声が聞こえているのか?」
 (え? あっ……)
 どうして彼がそれに気付いたのか、最初はわからなかったけれど。やがて自分が、彼の欲を悦ぶようにきゅうきゅうと締め付けていることに気が付いた。
 「ネル」
 彼に名前を呼ばれる度に。
 「ネル、ネル……っ……!」
 それに反応して、悦んで、中がうねって。
 (ああ、イヤッ……!)
 淫乱で、はしたなくて、恥ずかしいのに。でもやっぱり、意識のみはっきりしている今のままでは身体の反応まで制御することは出来ない。
 「ああ、やはり……聞こえているんだな」
 イントリーグの声が、喜びに震える。
 (あ……大き、く……)
 ただでさえ狭く窮屈にすら思っていた自分の中を、彼の欲が更に膨れ上がっていくのを感じた。大きくて、苦しくて、痛みすら感じるのに。嗚呼どうして、それが嬉しく感じるのだろう。
 「ネル」
 そうしてまた、唇が塞がれて。腰を掴む彼の手に力が入る。無理矢理押し入ってくる痛みさえ、甘く心地好い。
 やがて、ずくんと奥にその先端が押し当てられて。
 (あ、っ……)
 背筋に、そわそわと甘い痺れが走る。
 「……ネル」
 頬にかかる髪を掻き、イントリーグの無骨な手が触れた。
 「私の全てをお前にやろう。だから、なぁ、目を覚ましてくれないか」
 酷く寂しそうな言葉だ。
 〝精を注ぎ込めば毒が中和されて目を覚ます〟なんてエーデルワイスが喚いていた言葉を、彼はどこまで信じているのだろう。
 コーネリア自身、半信半疑ではあるけれど。もしそうでなかったとしても、それはそれでいいか、なんて頭の片隅をそんな考えが過ぎってしまった。
 再び、唇が塞がれる。その合間で、また腰が掴まれた。今度は強く、強く。
 「ッ……ネル」
 熱い吐息が名前を呼び、次いで腰が引かれた。
 (あ……)
 一瞬の切なさが、しかし次の瞬間には大きな快感へと飲み込まれる。その剛直によって、中を貫かれたからだ。
 (ぁ、あっ……!)
 コーネリアには、何が起こったのかわからなかった。頭の中で激しい火花が散ったように、何もかもが考えられなくなって。
 状況の理解が出来ないまま、彼女の体は揺さぶられ続ける。律動が繰り返される度、頭の中が掻き混ぜられるようにぐちゃぐちゃになった。
 「……ぁ……は…………あ、っ……」
 肺に溜まっていた空気が、中を貫かれる度に押し出されて自然と声帯を揺らす。それが嬌声に聞こえて羞恥心が湧き上がってきたけれど、しかしやっぱりそれを止める術をコーネリアは持っていない。
 (や、ぁっ……!)
 絶え間なく与えられる快感に体を貫かれ、意図せず啼き声を上げて。そんな自分の姿を客観的に見てしまう僅かに残った理性が、必死に引き留めようとしてくる。それ以上、イントリーグの前ではしたない姿を晒すなと。淑女たるもの、下品な姿を見せてはいけないと。
 しかしそれを、イントリーグ本人が許してくれない。
 「っ、ああ……大丈夫だ、ネル」
 そんなコーネリア本人の恐怖などつゆ知らず、中を貫く度にきゅうきゅうとうねり悦ぶその反応が嬉しくなって自然とその律動は激しくなって。その声が聞きたくて、何度も口移しで肺に息を送り込む。
 (おかしく、なっちゃうっ……!)
 初めて想い人から愛情を受け取れたことだけでもいっぱいいっぱいなのに。一方的とはいえ、初めての性行為で与えられる愛情は既にキャパシティを超えていた。
 これ以上進むと、果たして自分はどうなってしまうのだろう。コーネリアを支配している恐怖の原因は、それだった。永い永い間何度も何度も人生を繰り返してきた中で、イントリーグに好かれようと築いてきた気高く完璧な令嬢像が、この瞬間崩れようとしているのだから。
 しかしそんな恐怖は、絶え間なく与えられる激しい快感に揉まれてあえなくも砕け散る。
 (あぁっ────)
 快感の波に飲み込まれ、自分の中で何かが壊れてしまったのがわかった。その瞬間だ。腹の中で何かが爆ぜた感覚がして、アツい何かが広がっていくのを感じたのは。




 「っは、ぁっ……! は、かはっ……!」
 不意に、唐突に。いきなり大きく肺が動いて、一気に空気が流れ込んでくる。それと同時に手足が動くようになって。
 「ネルッ!」
 半ば叫ぶような声に名前を呼ばれ、自然と瞼が開く。
 ぼやけた視界の中、しかし映り込むその人影に向かってコーネリアは手を伸ばした。
 「イントリーグ様ぁッ……!」
 その手は温かくがっしりとした体に触れ、その背に回してしがみつく。それと同時に、彼女の背中にも逞しい腕が回ってきて。
 「本当に……良かった……」
 その優しさは、温もりは、ずっと求めていたものだった。
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