25 / 25
最終話 俺と猫
しおりを挟む
あれから一年が経った。
俺のカフェ『POCHITTO』は、連日大盛況だ。通りを歩く人々が楽しそうに店へ入っていく。窓越しに、お客さんが写真を撮っているのが見える。
そして、カフェの2階からは、猫の鳴き声と、人々の笑い声が聞こえてくる。
猫カフェ『MIKKETA』だ。
夜の世界から卒業後したソラは、空き部屋だった二階を改装し、保護猫の居場所として猫カフェを作った。
カフェで買ったドリンクを持ち込み、お客さんは猫たちと過ごす。新たな里親になることもできる。
ソラは、かつて自分自身が求めていた居場所を、今度は自分の手で作り出しているのだと実感する。その姿を見るたび、俺の胸は静かに満たされていった。
ランチタイムが終わり、客足が途絶えるつかの間の休息時間。賄いのパスタを作っていると、匂いを嗅ぎ付けたのか、ソラが二階から降りてくる。
「おつかれさま」
「わぁ!ナポリタンだ!」
日差しが柔らかく差し込む中、2人で遅いランチを食べていると、俺のスマホがメッセージを告げた。
「梨夏からメールだ」
「久しぶりだね」
ソラが嬉しそうに言う。スマホの画面には、南国の海を背景に、楽しそうな梨夏が写っていた。
隣には、少し日焼けした優しい笑顔の男性が立っている。見慣れない男だが、梨夏は心から幸せそうだった。
『やっと新しい居場所、見つけたわ』
短いメールだったが、その言葉に梨夏らしい強さと優しさが滲んでいた。
「……良かったな」
俺がそう呟くと、隣でソラが微笑んだ。
「あれ?まさか、妬いてるの?」
少し拗ねたような声。ソラが俺の肩に頭を預け、上目遣いで覗き込む。
「まさか」
「浮気なんてしたら――、上の猫たちと、全員で噛みつくからね」
昨夜も何度も噛みつくようなキスの嵐だった。俺の身体中に、愛の痕が残っている。
「俺はソラ一匹いれば満足だよ」
「にゃーん」
ソラはそう言って、俺の腕に頬をすり寄せた。指先が少し触れただけで、胸の奥があたたかくなる。
「幸せそうだね、梨夏さん」
「そうだな。でも――、幸せなら俺も負けてない」
「ケイ、キスしたい」
ピンク色の唇をとがらせ、ソラが可愛く囁く。
「だめ」
「なんでだよ」
「営業中だから」
ソラのおでこをツンと指で押した。すると、ますます頬を膨らませる。
「夜だけにしてくれ」
「今夜も、いいの?」
「ダメって言って、ソラが言うこと聞いた試しがあるか?」
「猫は我慢ができないからね。夜も、昼も」
言うが早く、ソラはかすめるように俺の唇を奪う。
「コラ!」
「にゃーーん」
穏やかな午後の光の中で、俺たちの新しい日常は、優しいコーヒーの香りと、猫たちの鳴き声、そしてささやかな愛の言葉に包まれていた。
★お読みいただきありがとうございました★
俺のカフェ『POCHITTO』は、連日大盛況だ。通りを歩く人々が楽しそうに店へ入っていく。窓越しに、お客さんが写真を撮っているのが見える。
そして、カフェの2階からは、猫の鳴き声と、人々の笑い声が聞こえてくる。
猫カフェ『MIKKETA』だ。
夜の世界から卒業後したソラは、空き部屋だった二階を改装し、保護猫の居場所として猫カフェを作った。
カフェで買ったドリンクを持ち込み、お客さんは猫たちと過ごす。新たな里親になることもできる。
ソラは、かつて自分自身が求めていた居場所を、今度は自分の手で作り出しているのだと実感する。その姿を見るたび、俺の胸は静かに満たされていった。
ランチタイムが終わり、客足が途絶えるつかの間の休息時間。賄いのパスタを作っていると、匂いを嗅ぎ付けたのか、ソラが二階から降りてくる。
「おつかれさま」
「わぁ!ナポリタンだ!」
日差しが柔らかく差し込む中、2人で遅いランチを食べていると、俺のスマホがメッセージを告げた。
「梨夏からメールだ」
「久しぶりだね」
ソラが嬉しそうに言う。スマホの画面には、南国の海を背景に、楽しそうな梨夏が写っていた。
隣には、少し日焼けした優しい笑顔の男性が立っている。見慣れない男だが、梨夏は心から幸せそうだった。
『やっと新しい居場所、見つけたわ』
短いメールだったが、その言葉に梨夏らしい強さと優しさが滲んでいた。
「……良かったな」
俺がそう呟くと、隣でソラが微笑んだ。
「あれ?まさか、妬いてるの?」
少し拗ねたような声。ソラが俺の肩に頭を預け、上目遣いで覗き込む。
「まさか」
「浮気なんてしたら――、上の猫たちと、全員で噛みつくからね」
昨夜も何度も噛みつくようなキスの嵐だった。俺の身体中に、愛の痕が残っている。
「俺はソラ一匹いれば満足だよ」
「にゃーん」
ソラはそう言って、俺の腕に頬をすり寄せた。指先が少し触れただけで、胸の奥があたたかくなる。
「幸せそうだね、梨夏さん」
「そうだな。でも――、幸せなら俺も負けてない」
「ケイ、キスしたい」
ピンク色の唇をとがらせ、ソラが可愛く囁く。
「だめ」
「なんでだよ」
「営業中だから」
ソラのおでこをツンと指で押した。すると、ますます頬を膨らませる。
「夜だけにしてくれ」
「今夜も、いいの?」
「ダメって言って、ソラが言うこと聞いた試しがあるか?」
「猫は我慢ができないからね。夜も、昼も」
言うが早く、ソラはかすめるように俺の唇を奪う。
「コラ!」
「にゃーーん」
穏やかな午後の光の中で、俺たちの新しい日常は、優しいコーヒーの香りと、猫たちの鳴き声、そしてささやかな愛の言葉に包まれていた。
★お読みいただきありがとうございました★
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>
はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ②
人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。
そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。
そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。
友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。
人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!
沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました
ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。
落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。
“番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、
やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。
喋れぬΩと、血を信じない宰相。
ただの契約だったはずの絆が、
互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。
だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、
彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。
沈黙が祈りに変わるとき、
血の支配が終わりを告げ、
“番”の意味が書き換えられる。
冷血宰相×沈黙のΩ、
偽りの契約から始まる救済と革命の物語。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる