【完結】カフェ店長の困惑~彼を拾った夜から甘く攻められ溺れていくまで~

はなたろう

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23. 兄の結婚式

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6月吉日。梅雨の晴れ間。

都内の格式高いホテル、親族だけでの結婚式行われたあと、大広間での披露宴が始まった。

大理石のフロアにシャンデリアが眩い光を放ち、花々で飾られた会場。華やかなドレスやタキシードを身にまとった人々が談笑している。


両親とはやはり気まずい。親族席にいれば、両親に祖父母まで揃って逃げ場は無い。

けれど、少しだけ、前よりも素直に接することができた。


「元気でやっているのか?」


父は、前に会ったときより痩せて見えた。その理由のひとつが自分だとすれば心が痛む。母は、まぁ、相変わらずだったが、まぁ、いいか。


人は、幸せに満たされると、優しくなれるのだろう。ソラがそばにいることで、俺は変われたのだと思う。

お色直しのため新婦が席を外すと、俺は隼人の席へ酒を注ぎに行った。


「兄さん。結婚、おめでとう」


酒のせいか、それとも主役という緊張からか、少し赤らんだ顔の隼人は、俺の酒をぐいっと飲み干した。


「お前がうらやましいよ、本当は」

「兄さん」

「会社には優秀な若手も多くてな。父さんもまだまだ現役だろうし、次男の居場所は無さそうだな」


俺は、兄の不器用な優しさに言葉を失った。


「好きにしたらいい。自分が見つけた居場所で」


そのとき、後ろから声がかかった。


「あら、めずらしく兄弟が仲良さそうね。何の話かしら?」


梨夏がシャンパンボトルを手に、楽しげにやって来た。


俺と一緒に選んだモスグリーンのドレスを着ていた。

シンプルだからこそ引き立つ、梨夏の美しさ。会場中の視線を集めていた。あちらこちらから、『あれが噂の新郎の秘書か』という声が聞こえ、花嫁が少し気の毒に思えるほどだった。


まだどこかで、この結婚式が、梨夏と隼人のものだったら、と考えてしまう。


「常務。いえ、今は隼人と呼ばせてもらうわ。本日はおめでとうございます」


そう言って、妖艶な瞳で微笑む。


「ああ、ありがとう。今日はいつも以上に綺麗だ」

「ふふ、新婦がいない間は存分に眺めてくれて結構よ?」


梨夏は、俺と隼人を順に見つめた。


「圭人が拾った三毛猫を覚えてる?」


あの夏、俺が猫を拾い、梨夏が俺を拾った。俺と梨夏を出逢わせてくれた猫は、梨夏が引き取ったあと、1年もしないうちにいなくなってしまった。

俺もあちこち探したけれど、見つからなかった。


「あの猫も、自分の居場所を見つけられたかしら?」

「さぁ、どうだろうな」

「私は――、隼人の居場所にも、圭人の居場所にも、なれなかったわね」


その言葉に、俺と隼人は同時に息をのんだ。

冗談めかして言ったはずの梨夏の声が、ほんの少し震えていたからだ。


「ということで、隼人にラブレター」


梨夏は大胆にも、胸元から小さな封筒を取り出した。会場の照明が紙の縁をきらりと照らす。


「これは?」


隼人が眉をひそめる。


「退職届よ。私も、居場所を探しに行くわ」

「――え?」


隼人が思わず声を漏らす。


「冗談、だよな?」

「あなたと婚約破棄になり、それでも秘書として近くにいたのは、私なりのプライドだったのよ。フラれて尻尾巻いて会社を辞めるなんて、柄じゃないもの」

「梨夏」


俺と隼人が同時に呼ぶと、梨夏はニコッと笑う。


「仕事も、恋も、少しお休みするわ」


梨夏はシャンパンの泡を見つめる。


「前にいただいた慰謝料と退職金で、のんびりバカンスを楽しんでくるわ」


そう言い残し、彼女は軽やかに踵を返した。シャネルの五番、その香りを残して梨夏は去った。
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