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22. 結ばれた翌朝
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朝が来た。
昨夜の嵐のような時間は嘘のように、部屋の中は初夏の穏やかな光に満ちている。
俺の腕の中にはソラがいて、その柔らかな身体の感触と、規則正しい寝息が、俺の心を安堵で満たした。
俺はそっとソラの髪に触れる。
「んん……ケイ……」
ソラが目覚めた。
「おはよう」
いつもと違う朝の挨拶。ソラは嬉しそうに、俺の肩に顔を埋めてきた。
「夢じゃなかった」
「そうだな」
この愛おしい感触があれば、俺は何もいらないと思えた。
静寂が訪れる。その甘い静けさを破るように、ソラが小さな声で言った。
「僕ね、昔から自分の顔が嫌いだった」
「キレイな顔なのに」
俺が頬を撫でると嬉しそうに目を細める。やがて、ソラは自身の過去を語り始めた。
「両親にも、親戚の誰にも似ていなくて、母親は浮気を疑われた。田舎だったから、狭い町中から後ろ指を指されて育ったんだ。そのうち、母さえも僕を疎んだ。この顔のせいで」
家に居場所が無い。それは、俺と似ているようで、もっと苦しい境遇だったようだ。
話を聞くと、裕福な家庭で育ち勝手なワガママで家を出た自分が恥ずかしくなる。
そうして、ソラは高校卒業と同時に、少ない荷物も金を持って東京へ出た。
「皮肉だよね。嫌いだったこの顔のおかげで、簡単にお金が稼げた」
まだ18歳のソラは、今よりあどけない雰囲気で、女の子だと間違われることが多かったそうだ。化粧とドレス、小悪魔のような話術で、人気のホステスとなった。
「ホストも経験したけど、なんでか、僕の顔は男受けするんだよね。とくに、お金を持ってる人に好かれる」
「俺はコメントしにくいな、こんな状況だし」
ベッドの中で素肌が触れあっていらのだから。
「二年前かなぁ、知人の紹介で昨日の店を紹介されたんだ。客さんが求める『理想の恋人』を演じる仕事」
食事をしたり、映画を見たり、普通の恋人たちと同じように過ごす。お金次第では、その先のオプションもあったのだろう。
「みんな、僕を必要だと言ってくれた。それが、僕にとっての居場所だったんだ。誰かに必要とされることで、僕自身の存在価値を見出そうとしていた」
ソラは、ふっと自嘲気味に笑った。
「でも、誰かのために演じてばかりの毎日に、自分を見失いそうだった。何もかも嫌になって、衝動的に逃げ出したんだ」
「それって……」
「そう。あの雪の日、ケイとはじめて会った夜だよ」
ソラは、ゆっくりと顔を上げ、俺の目を見た。
「温かい光が見えたんだ。まるで、僕を呼んでるみたいに。あの日から、ケイの隣が、僕の居場所になったんだ」
ソラの目から、また大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ケイ、僕のこと、嫌いになった?」
ソラの不安が伝わり、胸が締め付けられた。この細い身体が、どれほどの孤独を抱え、どれほど『必要とされること』に飢えていたのか。
「知ってたよ。ソラの仕事」
「え?」
以前、街中で見かけたことと、つい後を追ってしまったこと。そして昨日も、客と思われる男といるところを目撃したことを伝えた。ソラの震える手に、そっと自分の手を重ねた。
「そっか。知らないフリをしてくれたんだね」
「いや、現実を受け止めたくなかっただけだよ」
「現実?」
「どんな仕事でも、軽蔑なんてしない。ただ、ソラが他の男と笑ったり、話したり、もしかしたら、その――」
「寝てたり?」
ソラにズバリと言われてしまう。
「それが、嫌だったんだ」
それは、俺の独占欲を激しく刺激した。
「相手が梨夏だったとしても、嫌だった」
ソラは、そこで言葉を詰まらせた。
「僕は、ケイのぬくもりが欲しかった」
「もう、とっくにソラのものだよ。たぶん、最初に会ったときから」
俺はソラに口づけをした。
「ケイ……」
彼の声が、俺を呼ぶ。その響きは、この世界で一番甘く、俺の魂を震わせた。
昨夜の嵐のような時間は嘘のように、部屋の中は初夏の穏やかな光に満ちている。
俺の腕の中にはソラがいて、その柔らかな身体の感触と、規則正しい寝息が、俺の心を安堵で満たした。
俺はそっとソラの髪に触れる。
「んん……ケイ……」
ソラが目覚めた。
「おはよう」
いつもと違う朝の挨拶。ソラは嬉しそうに、俺の肩に顔を埋めてきた。
「夢じゃなかった」
「そうだな」
この愛おしい感触があれば、俺は何もいらないと思えた。
静寂が訪れる。その甘い静けさを破るように、ソラが小さな声で言った。
「僕ね、昔から自分の顔が嫌いだった」
「キレイな顔なのに」
俺が頬を撫でると嬉しそうに目を細める。やがて、ソラは自身の過去を語り始めた。
「両親にも、親戚の誰にも似ていなくて、母親は浮気を疑われた。田舎だったから、狭い町中から後ろ指を指されて育ったんだ。そのうち、母さえも僕を疎んだ。この顔のせいで」
家に居場所が無い。それは、俺と似ているようで、もっと苦しい境遇だったようだ。
話を聞くと、裕福な家庭で育ち勝手なワガママで家を出た自分が恥ずかしくなる。
そうして、ソラは高校卒業と同時に、少ない荷物も金を持って東京へ出た。
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「ホストも経験したけど、なんでか、僕の顔は男受けするんだよね。とくに、お金を持ってる人に好かれる」
「俺はコメントしにくいな、こんな状況だし」
ベッドの中で素肌が触れあっていらのだから。
「二年前かなぁ、知人の紹介で昨日の店を紹介されたんだ。客さんが求める『理想の恋人』を演じる仕事」
食事をしたり、映画を見たり、普通の恋人たちと同じように過ごす。お金次第では、その先のオプションもあったのだろう。
「みんな、僕を必要だと言ってくれた。それが、僕にとっての居場所だったんだ。誰かに必要とされることで、僕自身の存在価値を見出そうとしていた」
ソラは、ふっと自嘲気味に笑った。
「でも、誰かのために演じてばかりの毎日に、自分を見失いそうだった。何もかも嫌になって、衝動的に逃げ出したんだ」
「それって……」
「そう。あの雪の日、ケイとはじめて会った夜だよ」
ソラは、ゆっくりと顔を上げ、俺の目を見た。
「温かい光が見えたんだ。まるで、僕を呼んでるみたいに。あの日から、ケイの隣が、僕の居場所になったんだ」
ソラの目から、また大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ケイ、僕のこと、嫌いになった?」
ソラの不安が伝わり、胸が締め付けられた。この細い身体が、どれほどの孤独を抱え、どれほど『必要とされること』に飢えていたのか。
「知ってたよ。ソラの仕事」
「え?」
以前、街中で見かけたことと、つい後を追ってしまったこと。そして昨日も、客と思われる男といるところを目撃したことを伝えた。ソラの震える手に、そっと自分の手を重ねた。
「そっか。知らないフリをしてくれたんだね」
「いや、現実を受け止めたくなかっただけだよ」
「現実?」
「どんな仕事でも、軽蔑なんてしない。ただ、ソラが他の男と笑ったり、話したり、もしかしたら、その――」
「寝てたり?」
ソラにズバリと言われてしまう。
「それが、嫌だったんだ」
それは、俺の独占欲を激しく刺激した。
「相手が梨夏だったとしても、嫌だった」
ソラは、そこで言葉を詰まらせた。
「僕は、ケイのぬくもりが欲しかった」
「もう、とっくにソラのものだよ。たぶん、最初に会ったときから」
俺はソラに口づけをした。
「ケイ……」
彼の声が、俺を呼ぶ。その響きは、この世界で一番甘く、俺の魂を震わせた。
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