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♯1
1. スクリーン越しの複雑な感情
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月曜日の夜、映画館。ポップコーンの甘い匂いがロビーに微かに漂っている。
オレはスマホの画面を提示して足早に進み、シアター3へと向かった。
上映しているのは、昨年、伊勢が主演を務めたBLドラマ、その続編となる映画だ。
シアターに入ると、すでに予告が始まっていた。
公開から間もないため、平日のレイトショーにもかかわらず、席の半数以上が埋まっている。
思った通り若い女性が多い。男性でひとり客なんて、他には見当たらない。オレは帽子を目深にかぶりなおし、一番後ろの席に座った。
『伊勢と同じアイドルグループ《TOMARIGI》のメンバーが、お忍びでBL映画鑑賞!』なんて、SNSにあげられたらめんどくさい。
やがて、スクリーンに伊勢が映った。
伊勢が演じるのは、口数が少なく、感情をあまり表に出さないプログラマーの役だ。普段の彼とは違う、真剣な眼差しでキーボードを叩く姿がスクリーンに映し出される。
普段からファンに見せる、クールで掴みどころのない表情と、ふとした時に見せる繊細な仕草。役柄とよく合っていて、ストーリーに引き込まれていく。
オレは、同じグループのメンバーとして、心から誇りに思った。そう、オレの、自慢の親友だ。
『先輩、今夜は帰らないでください』
スクリーンの伊勢が、静かにそう呟くと、ラブシーンが始まった。
『めずらしいな、君からの誘いなんて』
伊勢の相手役は、桐生翔。端正な顔立ちと、飄々とした雰囲気が魅力の人気俳優だ。ドラマや映画、舞台でも活躍している。
二人の間に流れる穏やかな空気が、次第に甘く変化していく。
『そばにいたい、ずっと』
真っ直ぐな伊勢の表情は、まるでオレにだけ向けられるようだ。
そして、二人の唇がゆっくりと近づき、オレの心は静かにかき乱されていく。
待て待て、落ち着け!
ドラマではベッドシーンだってあったじゃないか。自宅のテレビで見た時は、思わず顔を赤らめてしまったが、まだ耐えられた。
しかし、大きなスクリーンで見る甘い伊勢の表情は、また違った緊張感がある。
演技だと分かっている。
これは作られた物語で、カメラの向こうにはスタッフがたくさんいる。それでも、伊勢が桐生に見せる、その親密な空気が、まるで本当の二人の関係を覗き見ているようで、胸が締め付けられた。
それに、伊勢には、湊さんという恋人がいる。オレたちのマネージャーだ。
仕事で疲れていても、湊さんの声を聞けば、伊勢は穏やかな表情になる。湊さんがドジをしても、伊勢はそれを可愛がって頭を撫でる。
そんな二人のやりとりを、オレは近くで何度も見てきた。
『はっ……』
伊勢の、聞いたこともない声に、体温が熱くなる。
大丈夫、これはR指定の映画じゃない。そんな過激なものじゃない。
何度も自分に言い聞かせるが、思春期でもないのに、胸の高鳴り止まらない。他の観客に聞こえないかと不安になった。
伊勢は湊に、あんな表情を見せているのだろうか。
やがて、物語がハッピーエンドを迎え、エンドロールが流れ始めた。
映画館の明かりが灯っても、オレはしばらくその場を動けなかった。ポップコーンの匂いはすっかり消え、代わりに、胸に残る複雑な感情が広がっていく。
伊勢への想いを否定することは、もう難しい。わかっている。憧れや友情だけでは済まされない。認めないようにしていた想いは、もう限界に来ていた。
明日は、音楽番組の収録がある。
伊勢と、どんな顔をして話せばいいんだろう。
オレは、笑顔でカメラの前に立てるだろうか。
オレはスマホの画面を提示して足早に進み、シアター3へと向かった。
上映しているのは、昨年、伊勢が主演を務めたBLドラマ、その続編となる映画だ。
シアターに入ると、すでに予告が始まっていた。
公開から間もないため、平日のレイトショーにもかかわらず、席の半数以上が埋まっている。
思った通り若い女性が多い。男性でひとり客なんて、他には見当たらない。オレは帽子を目深にかぶりなおし、一番後ろの席に座った。
『伊勢と同じアイドルグループ《TOMARIGI》のメンバーが、お忍びでBL映画鑑賞!』なんて、SNSにあげられたらめんどくさい。
やがて、スクリーンに伊勢が映った。
伊勢が演じるのは、口数が少なく、感情をあまり表に出さないプログラマーの役だ。普段の彼とは違う、真剣な眼差しでキーボードを叩く姿がスクリーンに映し出される。
普段からファンに見せる、クールで掴みどころのない表情と、ふとした時に見せる繊細な仕草。役柄とよく合っていて、ストーリーに引き込まれていく。
オレは、同じグループのメンバーとして、心から誇りに思った。そう、オレの、自慢の親友だ。
『先輩、今夜は帰らないでください』
スクリーンの伊勢が、静かにそう呟くと、ラブシーンが始まった。
『めずらしいな、君からの誘いなんて』
伊勢の相手役は、桐生翔。端正な顔立ちと、飄々とした雰囲気が魅力の人気俳優だ。ドラマや映画、舞台でも活躍している。
二人の間に流れる穏やかな空気が、次第に甘く変化していく。
『そばにいたい、ずっと』
真っ直ぐな伊勢の表情は、まるでオレにだけ向けられるようだ。
そして、二人の唇がゆっくりと近づき、オレの心は静かにかき乱されていく。
待て待て、落ち着け!
ドラマではベッドシーンだってあったじゃないか。自宅のテレビで見た時は、思わず顔を赤らめてしまったが、まだ耐えられた。
しかし、大きなスクリーンで見る甘い伊勢の表情は、また違った緊張感がある。
演技だと分かっている。
これは作られた物語で、カメラの向こうにはスタッフがたくさんいる。それでも、伊勢が桐生に見せる、その親密な空気が、まるで本当の二人の関係を覗き見ているようで、胸が締め付けられた。
それに、伊勢には、湊さんという恋人がいる。オレたちのマネージャーだ。
仕事で疲れていても、湊さんの声を聞けば、伊勢は穏やかな表情になる。湊さんがドジをしても、伊勢はそれを可愛がって頭を撫でる。
そんな二人のやりとりを、オレは近くで何度も見てきた。
『はっ……』
伊勢の、聞いたこともない声に、体温が熱くなる。
大丈夫、これはR指定の映画じゃない。そんな過激なものじゃない。
何度も自分に言い聞かせるが、思春期でもないのに、胸の高鳴り止まらない。他の観客に聞こえないかと不安になった。
伊勢は湊に、あんな表情を見せているのだろうか。
やがて、物語がハッピーエンドを迎え、エンドロールが流れ始めた。
映画館の明かりが灯っても、オレはしばらくその場を動けなかった。ポップコーンの匂いはすっかり消え、代わりに、胸に残る複雑な感情が広がっていく。
伊勢への想いを否定することは、もう難しい。わかっている。憧れや友情だけでは済まされない。認めないようにしていた想いは、もう限界に来ていた。
明日は、音楽番組の収録がある。
伊勢と、どんな顔をして話せばいいんだろう。
オレは、笑顔でカメラの前に立てるだろうか。
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