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2. この想いはひたすら隠す
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翌日、音楽番組の収録のためにテレビ局へやって来た。
「おはようございます」
楽屋のドアを開けた瞬間、オレは凍りついた。
なぜなら――
「あ!」
目の前で、伊勢と湊さんがキスをしていたからだ。
「おいおい、片倉。ノックくらいしろよ」
まったく動じず悪びれず、伊勢が笑っている。腹が立つほどキレイな顔だ。
「ご、ごめん」
つい反射的に謝ってしまったけど、オレが悪いのか?
「片倉くん、おはようございます。すみません、変なところをお見せました」
湊さんが慌てて謝る。そう、そうだよな。楽屋ですることじゃないだろう。
「なんだよ、変なことじゃないだろ?」
伊勢が湊さんの頬をつねった。
「もう、優!」
湊さんは無意識にまだ“恋人モード”らしい。名前を呼びながら、少し照れたように伊勢を睨んだ。
朝から、いや、昨夜からずっと一緒にいるのだろうか。
ふたりがじゃれ合うのは今に始まったことじゃない。だけど、昨日観た映画がフラッシュバックする。
スクリーンの中で桐生さんと見せた、あの親密な空気。プライベートでも、伊勢は同じような表情を湊さんに見せているのだろう。
「片倉くん、顔色悪いよ。大丈夫?」
湊さんが心配そうに、オレの顔を覗き込む。
「ちょっと寝不足かな」
伊勢は雑誌をめくる手を止め、ちらりとオレに視線を向けた。まだ発刊まえの、伊勢が表紙を飾っている女性誌だ。
「どうせゲームのしすぎだろ」
「うん、まぁ、そんな感じ」
オレは作り笑いを浮かべる。湊さんは少し考えるように首を傾げてから、
「片倉くんは肌の調子に波があるので、睡眠はしっかりとらないと。栄養ドリンクありますよ。飲みませんか?」
ドジでよく転ぶのに、周りのことにはよく気がつく。そういうところも、伊勢が湊さんを好きな理由のひとつなんだろう。
「そういえばさ、片倉」
伊勢が不意にオレへ話しかけてきた。
「ん?」
「昨日、映画観てくれたんだな」
「ええ!なんで知ってるの?」
「SNSの目撃情報」
なんだよ、バレてたのか!
「僕も観ましたよ、公開日に」
湊さんはポツリと呟いた。わずかに眉を寄せ、表情が曇る。
「なんだ、まだ映画でふてくされてるのか」
伊勢は湊の様子を見て、面白そうにニヤニヤしながら尋ねる。湊は慌てて首を横に振った。
「ち、違うよ!ただ、伊勢さんが他の誰かと、ああいう風にしてるのが、なんか…その……」
湊さん。その気持ちはよくわかるよ。
言葉を濁しながらも、湊は頬を赤く染めて伊勢を見上げた。伊勢はそんな湊が可愛くて仕方ないといった表情で、彼の髪をくしゃりと撫でる。
「人の前でいちゃつかないでくれる? こっちが恥ずかしくなる」
ドアが開き、入ってきたのはメンバーの蒼真だった。
「どいつもこいつも、ノックという礼儀を知らないのか?」
「いや、楽屋でいちゃつく方が不謹慎だろ」
「悪いな、公私混同で」
「まったくだ」
蒼真は最年少でも、言いたいことはハッキリ言うタイプだ。表情は変わらず、無表情に近い淡々さは通常運転。
「蒼真くん、紅茶飲みますか?美味しいハチミツもありますよ。喉にいいからみんなのも淹れますね」
湊さんが蒼真の好物を差し出し、その場は収まる。これも、いつものことだ。
そう、いつものことなのに、胸がざわついてしまう。
「さて、お仕事の話をしましょう」
咳払いをひとつして、湊さんが口を開いた。
「今日のミュージックライフでは、新曲をフルサイズで披露できます。AメロとBメロで振りを間違えないよう注意してくださいね」
「片倉、気をつけろよ」
隣の伊勢に肩を小突かれる。
「はいはい、分かってるよ」
普段通りに返事をする。大丈夫、だよな。
「収録のあとは伊勢くんが映画インタビューの雑誌取材、そして21時からは3人揃ってラジオの生放送です」
「ラジオのゲストは桐生さんですね」
湊さんと蒼真の会話に、思わずドキッとする。
「はい。映画の告知を兼ねてゲストに来てもらいます。みなさん、空き時間に台本と進行の確認をお願いします」
――忘れていた。今夜のラジオ生放送に桐生さんが来るんだった。
「片倉は映画を観てくれたし、感想とか話してくれよ。蒼真はまだ観てないから、ちょうどいいな」
「そ、そうだね。観てない人が観たくなるように盛り上げるよ」
オレは平静を装って、わざと明るい声を出した。
蒼真は一瞬オレに視線を向けた後、何も言わずスマートフォンをいじっている。勘のいい男だ。蒼真の前では、この気持ちは隠さなければならない気がした。
「それじゃあ、みなさん。今日も笑顔でがんばりましょう!」
気持ちは隠して、カメラに笑顔を向ける。
それが、オレの仕事だ。
「おはようございます」
楽屋のドアを開けた瞬間、オレは凍りついた。
なぜなら――
「あ!」
目の前で、伊勢と湊さんがキスをしていたからだ。
「おいおい、片倉。ノックくらいしろよ」
まったく動じず悪びれず、伊勢が笑っている。腹が立つほどキレイな顔だ。
「ご、ごめん」
つい反射的に謝ってしまったけど、オレが悪いのか?
「片倉くん、おはようございます。すみません、変なところをお見せました」
湊さんが慌てて謝る。そう、そうだよな。楽屋ですることじゃないだろう。
「なんだよ、変なことじゃないだろ?」
伊勢が湊さんの頬をつねった。
「もう、優!」
湊さんは無意識にまだ“恋人モード”らしい。名前を呼びながら、少し照れたように伊勢を睨んだ。
朝から、いや、昨夜からずっと一緒にいるのだろうか。
ふたりがじゃれ合うのは今に始まったことじゃない。だけど、昨日観た映画がフラッシュバックする。
スクリーンの中で桐生さんと見せた、あの親密な空気。プライベートでも、伊勢は同じような表情を湊さんに見せているのだろう。
「片倉くん、顔色悪いよ。大丈夫?」
湊さんが心配そうに、オレの顔を覗き込む。
「ちょっと寝不足かな」
伊勢は雑誌をめくる手を止め、ちらりとオレに視線を向けた。まだ発刊まえの、伊勢が表紙を飾っている女性誌だ。
「どうせゲームのしすぎだろ」
「うん、まぁ、そんな感じ」
オレは作り笑いを浮かべる。湊さんは少し考えるように首を傾げてから、
「片倉くんは肌の調子に波があるので、睡眠はしっかりとらないと。栄養ドリンクありますよ。飲みませんか?」
ドジでよく転ぶのに、周りのことにはよく気がつく。そういうところも、伊勢が湊さんを好きな理由のひとつなんだろう。
「そういえばさ、片倉」
伊勢が不意にオレへ話しかけてきた。
「ん?」
「昨日、映画観てくれたんだな」
「ええ!なんで知ってるの?」
「SNSの目撃情報」
なんだよ、バレてたのか!
「僕も観ましたよ、公開日に」
湊さんはポツリと呟いた。わずかに眉を寄せ、表情が曇る。
「なんだ、まだ映画でふてくされてるのか」
伊勢は湊の様子を見て、面白そうにニヤニヤしながら尋ねる。湊は慌てて首を横に振った。
「ち、違うよ!ただ、伊勢さんが他の誰かと、ああいう風にしてるのが、なんか…その……」
湊さん。その気持ちはよくわかるよ。
言葉を濁しながらも、湊は頬を赤く染めて伊勢を見上げた。伊勢はそんな湊が可愛くて仕方ないといった表情で、彼の髪をくしゃりと撫でる。
「人の前でいちゃつかないでくれる? こっちが恥ずかしくなる」
ドアが開き、入ってきたのはメンバーの蒼真だった。
「どいつもこいつも、ノックという礼儀を知らないのか?」
「いや、楽屋でいちゃつく方が不謹慎だろ」
「悪いな、公私混同で」
「まったくだ」
蒼真は最年少でも、言いたいことはハッキリ言うタイプだ。表情は変わらず、無表情に近い淡々さは通常運転。
「蒼真くん、紅茶飲みますか?美味しいハチミツもありますよ。喉にいいからみんなのも淹れますね」
湊さんが蒼真の好物を差し出し、その場は収まる。これも、いつものことだ。
そう、いつものことなのに、胸がざわついてしまう。
「さて、お仕事の話をしましょう」
咳払いをひとつして、湊さんが口を開いた。
「今日のミュージックライフでは、新曲をフルサイズで披露できます。AメロとBメロで振りを間違えないよう注意してくださいね」
「片倉、気をつけろよ」
隣の伊勢に肩を小突かれる。
「はいはい、分かってるよ」
普段通りに返事をする。大丈夫、だよな。
「収録のあとは伊勢くんが映画インタビューの雑誌取材、そして21時からは3人揃ってラジオの生放送です」
「ラジオのゲストは桐生さんですね」
湊さんと蒼真の会話に、思わずドキッとする。
「はい。映画の告知を兼ねてゲストに来てもらいます。みなさん、空き時間に台本と進行の確認をお願いします」
――忘れていた。今夜のラジオ生放送に桐生さんが来るんだった。
「片倉は映画を観てくれたし、感想とか話してくれよ。蒼真はまだ観てないから、ちょうどいいな」
「そ、そうだね。観てない人が観たくなるように盛り上げるよ」
オレは平静を装って、わざと明るい声を出した。
蒼真は一瞬オレに視線を向けた後、何も言わずスマートフォンをいじっている。勘のいい男だ。蒼真の前では、この気持ちは隠さなければならない気がした。
「それじゃあ、みなさん。今日も笑顔でがんばりましょう!」
気持ちは隠して、カメラに笑顔を向ける。
それが、オレの仕事だ。
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