【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう

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♯1

2. この想いはひたすら隠す

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翌日、音楽番組の収録のためにテレビ局へやって来た。


「おはようございます」


楽屋のドアを開けた瞬間、オレは凍りついた。
なぜなら――


「あ!」


目の前で、伊勢と湊さんがキスをしていたからだ。


「おいおい、片倉。ノックくらいしろよ」


まったく動じず悪びれず、伊勢が笑っている。腹が立つほどキレイな顔だ。


「ご、ごめん」


つい反射的に謝ってしまったけど、オレが悪いのか?

「片倉くん、おはようございます。すみません、変なところをお見せました」


湊さんが慌てて謝る。そう、そうだよな。楽屋ですることじゃないだろう。


「なんだよ、変なことじゃないだろ?」


伊勢が湊さんの頬をつねった。


「もう、優!」


湊さんは無意識にまだ“恋人モード”らしい。名前を呼びながら、少し照れたように伊勢を睨んだ。

朝から、いや、昨夜からずっと一緒にいるのだろうか。


ふたりがじゃれ合うのは今に始まったことじゃない。だけど、昨日観た映画がフラッシュバックする。

スクリーンの中で桐生さんと見せた、あの親密な空気。プライベートでも、伊勢は同じような表情を湊さんに見せているのだろう。


「片倉くん、顔色悪いよ。大丈夫?」


湊さんが心配そうに、オレの顔を覗き込む。


「ちょっと寝不足かな」

伊勢は雑誌をめくる手を止め、ちらりとオレに視線を向けた。まだ発刊まえの、伊勢が表紙を飾っている女性誌だ。


「どうせゲームのしすぎだろ」

「うん、まぁ、そんな感じ」


オレは作り笑いを浮かべる。湊さんは少し考えるように首を傾げてから、


「片倉くんは肌の調子に波があるので、睡眠はしっかりとらないと。栄養ドリンクありますよ。飲みませんか?」


ドジでよく転ぶのに、周りのことにはよく気がつく。そういうところも、伊勢が湊さんを好きな理由のひとつなんだろう。

「そういえばさ、片倉」


伊勢が不意にオレへ話しかけてきた。


「ん?」

「昨日、映画観てくれたんだな」

「ええ!なんで知ってるの?」

「SNSの目撃情報」


なんだよ、バレてたのか!

「僕も観ましたよ、公開日に」


湊さんはポツリと呟いた。わずかに眉を寄せ、表情が曇る。


「なんだ、まだ映画でふてくされてるのか」


伊勢は湊の様子を見て、面白そうにニヤニヤしながら尋ねる。湊は慌てて首を横に振った。


「ち、違うよ!ただ、伊勢さんが他の誰かと、ああいう風にしてるのが、なんか…その……」


湊さん。その気持ちはよくわかるよ。

言葉を濁しながらも、湊は頬を赤く染めて伊勢を見上げた。伊勢はそんな湊が可愛くて仕方ないといった表情で、彼の髪をくしゃりと撫でる。


「人の前でいちゃつかないでくれる? こっちが恥ずかしくなる」


ドアが開き、入ってきたのはメンバーの蒼真だった。


「どいつもこいつも、ノックという礼儀を知らないのか?」

「いや、楽屋でいちゃつく方が不謹慎だろ」

「悪いな、公私混同で」

「まったくだ」


蒼真は最年少でも、言いたいことはハッキリ言うタイプだ。表情は変わらず、無表情に近い淡々さは通常運転。


「蒼真くん、紅茶飲みますか?美味しいハチミツもありますよ。喉にいいからみんなのも淹れますね」


湊さんが蒼真の好物を差し出し、その場は収まる。これも、いつものことだ。

そう、いつものことなのに、胸がざわついてしまう。


「さて、お仕事の話をしましょう」


咳払いをひとつして、湊さんが口を開いた。


「今日のミュージックライフでは、新曲をフルサイズで披露できます。AメロとBメロで振りを間違えないよう注意してくださいね」

「片倉、気をつけろよ」


隣の伊勢に肩を小突かれる。


「はいはい、分かってるよ」


普段通りに返事をする。大丈夫、だよな。


「収録のあとは伊勢くんが映画インタビューの雑誌取材、そして21時からは3人揃ってラジオの生放送です」

「ラジオのゲストは桐生さんですね」


湊さんと蒼真の会話に、思わずドキッとする。


「はい。映画の告知を兼ねてゲストに来てもらいます。みなさん、空き時間に台本と進行の確認をお願いします」


――忘れていた。今夜のラジオ生放送に桐生さんが来るんだった。


「片倉は映画を観てくれたし、感想とか話してくれよ。蒼真はまだ観てないから、ちょうどいいな」

「そ、そうだね。観てない人が観たくなるように盛り上げるよ」


オレは平静を装って、わざと明るい声を出した。

蒼真は一瞬オレに視線を向けた後、何も言わずスマートフォンをいじっている。勘のいい男だ。蒼真の前では、この気持ちは隠さなければならない気がした。


「それじゃあ、みなさん。今日も笑顔でがんばりましょう!」


気持ちは隠して、カメラに笑顔を向ける。

それが、オレの仕事だ。
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