【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう

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♯1

11. アイドル失格

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CM撮影から数日経っても、オレの心の調子は戻らなかった。

伊勢のふとした表情に、桐生さんとの夜を思い出してしまう。


少し前までは、そばにいるだけでよかった。伊勢の笑う顔が好きだったのに。

自分の醜い妄想で、伊勢の笑顔を汚しているような、罪悪感で責められる。


今は、伊勢の近くにいるのが辛い。


そんな気持ちとは裏腹に、ドームツアーが近付き、オレたちはいつも以上に顔を合わせる時間が倍増した。

ダンスの振り入れ、ボイトレは当然として、衣装合わせ、舞台構成など、スタッフとの打ち合わせもある。


「今のところ、タイミングがずれてる」


ダンスの練習中、伊勢の鋭い指摘が飛ぶ。


「ごめん!」


オレはすぐに謝ったが、また次のステップでミスをする。


「集中しろよ。お前がセンターの曲じゃないか」


伊勢の声には、いつもの仲間への優しさではなく、プロとしての苛立ちが滲んでいた。


「少し休憩しよう」


蒼真が言った。


スタジオの片隅で座り込むと、スマホを取り出した。


そういえば、最近はSNSの投稿ができていないな……。


Instagramの個人アカウント、フォロワー数は50万人。応援してくれるのはありがたい。


自撮りをした写真に『ドームツアーの練習中!』と書いて投稿する。


すぐに、ファンからのコメントが流れてきた。


「理久くんの笑顔見て今日もがんばれる!」

「久しぶりの投稿、元気そうでよかった」

「ドームで会えるのたのしみだよ」

「TOMARIGIの太陽だね」


太陽、笑顔、ムードメーカー、ニコニコ。言葉も絵文字も、そんなものばかりが溢れていた。


ファンがオレに求めている「片倉理久」のイメージは、いつだって、光とポジティブな感情で溢れている。


違う。全部、嘘だ。


伊勢への実らない想いを、桐生さんとの一時的に解消しようとした。オレはオレを裏切った。


「大丈夫か?」


伊勢と蒼真が近付いて来た。


「そろそろ、練習再開しようぜ」

「伊勢……、蒼真、オレもうTOMARIGIでいられないかも」


喉から絞り出した言葉は、驚くほど冷静で、自分自身に驚いた。

二人の動きが、ピタリと止まった。

最初に反応したのは、蒼真だった。


「何を言い出すんだ、片倉。今、ドームツアーを控えてる時期だぞ? それに、お前がどれだけTOMARIGIを大事にしてきたか、俺たちが一番知ってるんだ」


蒼真は、いつも通り落ち着いた口調だが、その瞳には焦りが灯っていた。


「でも、上手く笑えないんだ」

「どういう意味だよ。プロなら、多少嫌なことがあっても、笑顔くらい作れよ」


蒼真が強い口調で言った。オレの心の奥底を見抜くような、その真っ直ぐな視線が痛い。


「プロだから、中途半端な気持ちで、ふたりの足を引っ張りたくないんだ」

「なんだ、それ!」


蒼真に胸ぐらをつかまれた。オレより10センチも背の高い。殴らんばかりの勢いだ。


ただならぬ空気に、湊さんが駆け寄った。蒼真の腕を取り、冷静に止めに入る。


「落ち着きましょう、蒼真くん。片倉くん、疲れているだけでしょう。少し休めば――」


湊さんの言葉を遮ったのは、ここまで無言だった、伊勢の冷たい声だった。


「いいんじゃない?」

「優くん!」


湊さんがいつになく、するどい声を上げた。しかし、伊勢は気にすることなく続ける。


「そんな中途半端な気持ちなら、いいんじゃない? うちのグループは、遊びじゃない。やる気がないヤツは、辞めてもらうしかないだろ」


その言葉に、オレの心は深く抉られた。

伊勢に片思いしていた頃は、ただ彼の光を支えるだけで良かった。だが、今はもう、その純粋な光の中にいる資格がない。


「……そう、だね」


オレは小さくつぶやいた。


「伊勢、片倉!お前たち本気で言ってるのか?」


蒼真が苛立ちを露わにした。


「ファンを悲しませることは、 誰が相手でも許せないからな」

「そうだな、蒼真の言う通りだ」


伊勢がうなずく。


「TOMARIGIと、KOTORIのために、できることを考えよう」


KOTORIは、オレたちのファンの愛称だ。


「例えば、新メンバーオーディション、企画するのもいいかもな」


伊勢はそう言って、オレの目を見つめた。


「だから片倉。お前がやる気がないなら、無理してここにいる必要はない。俺はプロとして、本気で輝きたいヤツとだけステージに立つ」


蒼真は、伊勢の言葉にショックを受けながらも、必死にオレの腕を掴んだ。


「片倉、絶対に考え直せ。お前は伊勢の隣にいるべきなんだ」


蒼真の熱い想い、伊勢の残酷なまでの正論。

オレは、どちらの言葉も受け止められず、その場で身動きが取れなかった。


「とにかく、ちゃんと話し合いの場を設けましょう」


湊さんはそう言って、スケジュール帳を取り出した。


「今夜は音楽番組の生放送ですね。そのあと、事務所で話しましょう」

「そんなんで、生放送に出れるのかよ?」

「出るよ、ちゃんと、できる」


自信なんてない。
だけど、これ以上は惨めな自分でいりない。


「湊さん、今夜の楽曲の変更できるか確認して」


伊勢が静かにいうと、蒼真もうなずいた。


「lover rainがいいね。伊勢と桐生さんの映画にも使われてるし、無理な変更とは思われない」


大人のバラード曲なら、笑顔を振り撒く必要はない。こんなオレに、2人の優しい気遣いが胸に刺さった。

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