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♯1
10. ビターチョコの苦さは恋の味
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「また、欲しくなったらいつでも呼んで」
桐生さんは、そう言ってホテルを出て行った。
全身に桐生さんの熱の余韻と、残された罪の意識をまとっているようだった。
もう、切り替えなければ。
今日は、TOMARIGI3人揃って、秋の新作高級チョコレートのCM撮影だった。
都内のスタジオは、白とシックな茶色を基調とした暖かみのあるセットで、どこからかチョコレートの甘い香りが漂っていた。
3種類のチョコレートに合わせ、オレの衣装は抹茶のディープグリーン。伊勢は情熱的なストロベリーレッド。蒼真は、優しく甘いキャラメルブラウンだ。
メイクを終え、セットに向かうと伊勢とマネージャーの湊さんが雑談をしていた。
「片倉くん、体調はどうですか?」
湊さんには、オレの心の奥底を見抜かれているようで、胸が締め付けられる。
「ご、ごめん。もう大丈夫」
オレはいつもの笑顔を貼り付けようと努めた。
伊勢は、心配そうにオレの顔を覗き込む。
「なんだか肌ツヤいいな、片倉」
オレの背筋が凍り付いた。
「え……」
「目元の下のクマも、いつもよりマシだ。もしかして、欲求不満が解消したとか?」
伊勢は悪意なく、親友をからかうように笑った。
変なところで察しがいい!図星だなんて。
桐生さんに抱かれたことで、長年燻っていた伊勢への片思いという欲求不満は、たしかに解消した。しかし、同時に、その行為はオレの心に、罪悪感という泥を塗りつけたのだ。
「そんなわけないだろ!」
オレは慌てて否定した。珍しく声を荒げてしまい、周囲がしんとなる。
湊さんは、一歩後ろから、そんなオレたちを心配そうに見つめている。オレの動揺は、伊勢の恋人である彼に、最も気づかれてはいけないものだった。
「何やってんだ?そろそろ始まるぞ」
蒼真がやってきて、その場はなんとなく収まった。
「はい、TOMARIGIの皆さん、セッティングお願いします!」
3人が寄り添い笑いながら、チョコを食べるシーンだ。
「さあ、伊勢くんが真ん中ね。はい、もっとぎゅっと寄り添って! 幸せを噛みしめる感じで!」
ディレクターに言われるまま、オレは蒼真に背中を、伊勢に肩を寄せた。
伊勢の体温、彼から漂う石鹸の香り。オレは、伊勢の傍にある、世界で一番安全で、幸せな場所にいるはずだった。
だが、その身体的な近さが、オレを激しくパニックさせた。
似ている。 桐生さんの熱と……
桐生さんの『セックスも似てると思うよ?』という言葉が、鋭く頭の中で響く。
オレは、伊勢に触れられているこの瞬間、桐生さんを思い出しているという事実に、激しい自己嫌悪に陥った。
「はい、じゃあ視線はこっちに、最高の表情で!」
抹茶チョコを口に運んだ。
鼻腔に広がるのは、甘い香りの奥にある、鋭い苦味。
ああ、苦いな……。
伊勢の隣で偽りの笑顔を張り付け、こんなの、誰が喜ぶのだろうか。
TOMARIGIのファンは、どう思うのだろうか。
オレの笑顔が、チョコのように溶けてなくなる。
「……ッ!」
口の中のチョコを飲み込めず、咳き込んでしまった。
「カット!カット!」
ディレクターの声が響く。
「大丈夫ですか?」
湊さんが水を持って駆け寄る。
「すみません、大丈夫です」
「無理しないでください」
しかし、そのあとも何度もNGを連発。
「もう、チョコ食べたくないんだけど」
伊勢と蒼真に冷たく睨まれてしまった。
その日の撮影は、オレの不調のせいで、予定を大幅に超過した。
オレの心は、罪の苦味で満たされたままだった。
桐生さんは、そう言ってホテルを出て行った。
全身に桐生さんの熱の余韻と、残された罪の意識をまとっているようだった。
もう、切り替えなければ。
今日は、TOMARIGI3人揃って、秋の新作高級チョコレートのCM撮影だった。
都内のスタジオは、白とシックな茶色を基調とした暖かみのあるセットで、どこからかチョコレートの甘い香りが漂っていた。
3種類のチョコレートに合わせ、オレの衣装は抹茶のディープグリーン。伊勢は情熱的なストロベリーレッド。蒼真は、優しく甘いキャラメルブラウンだ。
メイクを終え、セットに向かうと伊勢とマネージャーの湊さんが雑談をしていた。
「片倉くん、体調はどうですか?」
湊さんには、オレの心の奥底を見抜かれているようで、胸が締め付けられる。
「ご、ごめん。もう大丈夫」
オレはいつもの笑顔を貼り付けようと努めた。
伊勢は、心配そうにオレの顔を覗き込む。
「なんだか肌ツヤいいな、片倉」
オレの背筋が凍り付いた。
「え……」
「目元の下のクマも、いつもよりマシだ。もしかして、欲求不満が解消したとか?」
伊勢は悪意なく、親友をからかうように笑った。
変なところで察しがいい!図星だなんて。
桐生さんに抱かれたことで、長年燻っていた伊勢への片思いという欲求不満は、たしかに解消した。しかし、同時に、その行為はオレの心に、罪悪感という泥を塗りつけたのだ。
「そんなわけないだろ!」
オレは慌てて否定した。珍しく声を荒げてしまい、周囲がしんとなる。
湊さんは、一歩後ろから、そんなオレたちを心配そうに見つめている。オレの動揺は、伊勢の恋人である彼に、最も気づかれてはいけないものだった。
「何やってんだ?そろそろ始まるぞ」
蒼真がやってきて、その場はなんとなく収まった。
「はい、TOMARIGIの皆さん、セッティングお願いします!」
3人が寄り添い笑いながら、チョコを食べるシーンだ。
「さあ、伊勢くんが真ん中ね。はい、もっとぎゅっと寄り添って! 幸せを噛みしめる感じで!」
ディレクターに言われるまま、オレは蒼真に背中を、伊勢に肩を寄せた。
伊勢の体温、彼から漂う石鹸の香り。オレは、伊勢の傍にある、世界で一番安全で、幸せな場所にいるはずだった。
だが、その身体的な近さが、オレを激しくパニックさせた。
似ている。 桐生さんの熱と……
桐生さんの『セックスも似てると思うよ?』という言葉が、鋭く頭の中で響く。
オレは、伊勢に触れられているこの瞬間、桐生さんを思い出しているという事実に、激しい自己嫌悪に陥った。
「はい、じゃあ視線はこっちに、最高の表情で!」
抹茶チョコを口に運んだ。
鼻腔に広がるのは、甘い香りの奥にある、鋭い苦味。
ああ、苦いな……。
伊勢の隣で偽りの笑顔を張り付け、こんなの、誰が喜ぶのだろうか。
TOMARIGIのファンは、どう思うのだろうか。
オレの笑顔が、チョコのように溶けてなくなる。
「……ッ!」
口の中のチョコを飲み込めず、咳き込んでしまった。
「カット!カット!」
ディレクターの声が響く。
「大丈夫ですか?」
湊さんが水を持って駆け寄る。
「すみません、大丈夫です」
「無理しないでください」
しかし、そのあとも何度もNGを連発。
「もう、チョコ食べたくないんだけど」
伊勢と蒼真に冷たく睨まれてしまった。
その日の撮影は、オレの不調のせいで、予定を大幅に超過した。
オレの心は、罪の苦味で満たされたままだった。
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