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9. 罪な朝
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カーテンの隙間から差し込む朝の光が、部屋に薄いグレーの影を落としている。
見慣れない景色、ホテルの部屋。
隣に目をやると、桐生さんがこちらに体を向け、静かに眠っている。整った寝顔は、昨夜の挑発的な熱を宿した男とはまるで別人だ。
そうだ、オレ、桐生さんに抱かれたんだ……。
伊勢への想いを吐露したこと。そして、流されるように、熱に溺れたこと。
喉の奥がカラカラに乾いていた。
思ったよりも、冷静に事実を受け入れられた。ただ、自分がとんでもない過ちを犯したという気持ちはある。
静かにベッドから抜け出そうと体を起こした、その時だった。
「どこへ行くの?」
低く、けれどクリアな声が響いた。桐生さんがゆっくりと目を開け、オレを見つめている。
「あ、あの、喉が乾いて」
オレは慌ててシーツを掴み直す。体中に残る痕跡が、昨夜の出来事を鮮明に思い出させ、さらに頬が熱くなった。
「そうか、昨夜はたくさん喘いでいたからね」
桐生さんは微かに笑う。
「待ってて、オレが持ってくるから」
言うより早く、桐生さんはベッドから降りる。全裸の後ろ姿に、驚き思わず眼をつぶった。
すぐに、ペットボトルのキャップを開ける音がした。
「え? ちょ、待っ――」
抗議の声は最後まで出せなかった。
熱い舌と冷たい水が同時に押し込まれ、喉の奥まで流れ込んでくる。
「……ん、んぐっ……!」
水の冷たさよりも、舌の感触の方が鮮烈だった。
ただ水を飲ませるだけの行為なのに、唇を塞がれ、舌を絡められ、体の芯までじんじんと痺れていく。
「ふっ、ん、……ごくん」
ようやく飲み下すと、唇が離れた。薄く糸を引く水滴が顎を伝って落ちる。
「どう?少しは潤った?」
桐生さんは優雅に微笑んだまま、口を離す。
「身体は?痛いところはない?」
「な、なんで口移しなんですか!」
「ダメだった?」
桐生さんは、またベッドにごろんと転がった。
「ねえ、理久」
オレの前髪を撫でる。
「後悔してるの?」
言葉が喉に詰まる。
正直、分からない。桐生さんに伊勢への想いをすべて受け止めてもらえたことで得た解放感は本物だ。だが、この行為が正しいかと言われれば、答えは「否」だった。
「……違います。ただ、その、オレは……」
「伊勢を愛してるのに、かな?」
桐生さんは楽しむように、優しく、オレの頬を撫でた。
「俺と伊勢は、似ているところがたくさんあってね」
人に与える光、本質が似ているとは、オレも思っていた。
「たぶん、セックスも似てると思うよ?」
その言葉に、オレは完全に固まった。全身の血液が逆流するような、強烈な侮辱と、否定できない真実が同時にオレを襲う。
「だから、理久が昨夜感じたものは、君の妄想の延長線上にあったのかもしれない。そう思ってみたら?」
桐生さんはクスッと笑い、オレの耳元にさらに近づいた。
「どう?はじめて抱かれた感想は?」
動揺で視線が揺れる。羞恥と罪悪感で顔が熱い。
なんて意地悪だ。でも。
オレは、静かに桐生さんから視線を外し、昨夜の記憶を辿った。
初めて本音を吐き出したとき、強く抱きしめられた腕の温もり。
言葉は皮肉で満ちていても、その抱き方には、たしかに優しさがあった。
オレの孤独や苦しみを、ひとときの役割としてでも、受け止めてくれた優しさが。
オレは小さく首を振った。
「……違います。誰かの代わりなんて、誰もなれないから」
桐生さんは、オレの瞳をじっと見つめ、その口元に再び笑みを浮かべた。
「君は、本当にキレイな目をしているね」
その眼差しは、すべてを見透かし、すべてを許すような深さを持っていた。
『キレイな目をしてたから。それだけ』
それは、伊勢に初めて会った日にも、言われた言葉だった。
見慣れない景色、ホテルの部屋。
隣に目をやると、桐生さんがこちらに体を向け、静かに眠っている。整った寝顔は、昨夜の挑発的な熱を宿した男とはまるで別人だ。
そうだ、オレ、桐生さんに抱かれたんだ……。
伊勢への想いを吐露したこと。そして、流されるように、熱に溺れたこと。
喉の奥がカラカラに乾いていた。
思ったよりも、冷静に事実を受け入れられた。ただ、自分がとんでもない過ちを犯したという気持ちはある。
静かにベッドから抜け出そうと体を起こした、その時だった。
「どこへ行くの?」
低く、けれどクリアな声が響いた。桐生さんがゆっくりと目を開け、オレを見つめている。
「あ、あの、喉が乾いて」
オレは慌ててシーツを掴み直す。体中に残る痕跡が、昨夜の出来事を鮮明に思い出させ、さらに頬が熱くなった。
「そうか、昨夜はたくさん喘いでいたからね」
桐生さんは微かに笑う。
「待ってて、オレが持ってくるから」
言うより早く、桐生さんはベッドから降りる。全裸の後ろ姿に、驚き思わず眼をつぶった。
すぐに、ペットボトルのキャップを開ける音がした。
「え? ちょ、待っ――」
抗議の声は最後まで出せなかった。
熱い舌と冷たい水が同時に押し込まれ、喉の奥まで流れ込んでくる。
「……ん、んぐっ……!」
水の冷たさよりも、舌の感触の方が鮮烈だった。
ただ水を飲ませるだけの行為なのに、唇を塞がれ、舌を絡められ、体の芯までじんじんと痺れていく。
「ふっ、ん、……ごくん」
ようやく飲み下すと、唇が離れた。薄く糸を引く水滴が顎を伝って落ちる。
「どう?少しは潤った?」
桐生さんは優雅に微笑んだまま、口を離す。
「身体は?痛いところはない?」
「な、なんで口移しなんですか!」
「ダメだった?」
桐生さんは、またベッドにごろんと転がった。
「ねえ、理久」
オレの前髪を撫でる。
「後悔してるの?」
言葉が喉に詰まる。
正直、分からない。桐生さんに伊勢への想いをすべて受け止めてもらえたことで得た解放感は本物だ。だが、この行為が正しいかと言われれば、答えは「否」だった。
「……違います。ただ、その、オレは……」
「伊勢を愛してるのに、かな?」
桐生さんは楽しむように、優しく、オレの頬を撫でた。
「俺と伊勢は、似ているところがたくさんあってね」
人に与える光、本質が似ているとは、オレも思っていた。
「たぶん、セックスも似てると思うよ?」
その言葉に、オレは完全に固まった。全身の血液が逆流するような、強烈な侮辱と、否定できない真実が同時にオレを襲う。
「だから、理久が昨夜感じたものは、君の妄想の延長線上にあったのかもしれない。そう思ってみたら?」
桐生さんはクスッと笑い、オレの耳元にさらに近づいた。
「どう?はじめて抱かれた感想は?」
動揺で視線が揺れる。羞恥と罪悪感で顔が熱い。
なんて意地悪だ。でも。
オレは、静かに桐生さんから視線を外し、昨夜の記憶を辿った。
初めて本音を吐き出したとき、強く抱きしめられた腕の温もり。
言葉は皮肉で満ちていても、その抱き方には、たしかに優しさがあった。
オレの孤独や苦しみを、ひとときの役割としてでも、受け止めてくれた優しさが。
オレは小さく首を振った。
「……違います。誰かの代わりなんて、誰もなれないから」
桐生さんは、オレの瞳をじっと見つめ、その口元に再び笑みを浮かべた。
「君は、本当にキレイな目をしているね」
その眼差しは、すべてを見透かし、すべてを許すような深さを持っていた。
『キレイな目をしてたから。それだけ』
それは、伊勢に初めて会った日にも、言われた言葉だった。
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