【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう

文字の大きさ
10 / 32
♯1

9. 罪な朝

しおりを挟む
カーテンの隙間から差し込む朝の光が、部屋に薄いグレーの影を落としている。

見慣れない景色、ホテルの部屋。


隣に目をやると、桐生さんがこちらに体を向け、静かに眠っている。整った寝顔は、昨夜の挑発的な熱を宿した男とはまるで別人だ。

そうだ、オレ、桐生さんに抱かれたんだ……。

伊勢への想いを吐露したこと。そして、流されるように、熱に溺れたこと。


喉の奥がカラカラに乾いていた。


思ったよりも、冷静に事実を受け入れられた。ただ、自分がとんでもない過ちを犯したという気持ちはある。


静かにベッドから抜け出そうと体を起こした、その時だった。


「どこへ行くの?」


低く、けれどクリアな声が響いた。桐生さんがゆっくりと目を開け、オレを見つめている。


「あ、あの、喉が乾いて」


オレは慌ててシーツを掴み直す。体中に残る痕跡が、昨夜の出来事を鮮明に思い出させ、さらに頬が熱くなった。


「そうか、昨夜はたくさん喘いでいたからね」


桐生さんは微かに笑う。


「待ってて、オレが持ってくるから」


言うより早く、桐生さんはベッドから降りる。全裸の後ろ姿に、驚き思わず眼をつぶった。

すぐに、ペットボトルのキャップを開ける音がした。


「え? ちょ、待っ――」


抗議の声は最後まで出せなかった。

熱い舌と冷たい水が同時に押し込まれ、喉の奥まで流れ込んでくる。


「……ん、んぐっ……!」


水の冷たさよりも、舌の感触の方が鮮烈だった。

ただ水を飲ませるだけの行為なのに、唇を塞がれ、舌を絡められ、体の芯までじんじんと痺れていく。


「ふっ、ん、……ごくん」


ようやく飲み下すと、唇が離れた。薄く糸を引く水滴が顎を伝って落ちる。


「どう?少しは潤った?」


桐生さんは優雅に微笑んだまま、口を離す。


「身体は?痛いところはない?」

「な、なんで口移しなんですか!」

「ダメだった?」


桐生さんは、またベッドにごろんと転がった。


「ねえ、理久」


オレの前髪を撫でる。


「後悔してるの?」


言葉が喉に詰まる。

正直、分からない。桐生さんに伊勢への想いをすべて受け止めてもらえたことで得た解放感は本物だ。だが、この行為が正しいかと言われれば、答えは「否」だった。


「……違います。ただ、その、オレは……」

「伊勢を愛してるのに、かな?」


桐生さんは楽しむように、優しく、オレの頬を撫でた。


「俺と伊勢は、似ているところがたくさんあってね」


人に与える光、本質が似ているとは、オレも思っていた。


「たぶん、セックスも似てると思うよ?」


その言葉に、オレは完全に固まった。全身の血液が逆流するような、強烈な侮辱と、否定できない真実が同時にオレを襲う。


「だから、理久が昨夜感じたものは、君の妄想の延長線上にあったのかもしれない。そう思ってみたら?」


桐生さんはクスッと笑い、オレの耳元にさらに近づいた。


「どう?はじめて抱かれた感想は?」


動揺で視線が揺れる。羞恥と罪悪感で顔が熱い。

なんて意地悪だ。でも。

オレは、静かに桐生さんから視線を外し、昨夜の記憶を辿った。

初めて本音を吐き出したとき、強く抱きしめられた腕の温もり。

言葉は皮肉で満ちていても、その抱き方には、たしかに優しさがあった。

オレの孤独や苦しみを、ひとときの役割としてでも、受け止めてくれた優しさが。


オレは小さく首を振った。


「……違います。誰かの代わりなんて、誰もなれないから」


桐生さんは、オレの瞳をじっと見つめ、その口元に再び笑みを浮かべた。


「君は、本当にキレイな目をしているね」


その眼差しは、すべてを見透かし、すべてを許すような深さを持っていた。


『キレイな目をしてたから。それだけ』


それは、伊勢に初めて会った日にも、言われた言葉だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!? 学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。 ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。 智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。 「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」 無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。 住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!

腐男子完全計画!

葉津緒
BL
『王道脇役平凡・嫌われ→総受け』を見たい腐男子主人公が、全寮制学園で王道転入生役を演じつつ舞台を整えていく……? そんな、よくあるお話。 BLコメディ。

【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。

或波夏
BL
ハーレムラブコメが大好きな男子高校生、有真 瑛。 自分は、主人公の背中を押す友人キャラになって、特等席で恋模様を見たい! そんな瑛には、様々なラブコメテンプレ展開に巻き込まれている酒神 昴という友人がいる。 瑛は昴に《友人》として、自分を取り巻く恋愛事情について相談を持ちかけられる。 圧倒的主人公感を持つ昴からの提案に、『友人キャラになれるチャンス』を見出した瑛は、二つ返事で承諾するが、昴には別の思惑があって…… ̶ラ̶ブ̶コ̶メ̶の̶主̶人̶公̶×̶友̶人̶キ̶ャ̶ラ̶ 【一途な不器用オタク×ラブコメ大好き陽キャ】が織り成す勘違いすれ違いラブ 番外編、牛歩更新です🙇‍♀️ ※物語の特性上、女性キャラクターが数人出てきますが、主CPに挟まることはありません。 少しですが百合要素があります。 ☆第1回 青春BLカップ30位、応援ありがとうございました! 第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!

無自覚オメガとオメガ嫌いの上司

蒼井梨音
BL
ベータとして生きてきた無自覚オメガの小国直樹は、オメガ嫌いの白鷹課長のいる部署に異動になった。 ビクビクしながら、なるべく関わらないように仕事をしてたのに、 ペアを組んでいた先輩が倒れてしまい、課長がサポートすることに。 そして、なぜか課長にキスされてしまい…?? 無自覚オメガ→小国直樹(24) オメガ嫌いの上司→白鷹迅(28)アルファ 第一部・完 お読みいただき、ありがとうございました。 第二部 白鷹課長と一緒に住むことになった直樹。 プロジェクトのこととか、新しくできた友だちの啓さんのこととか。 相変わらず、直樹は無自覚に迅さんに甘えています。 第三部 入籍した直樹は、今度は結婚式がしたくなりました。 第四部 入籍したものの、まだ番になってない直樹と迅さん。 直樹が取引先のアルファに目をつけられて…… ※続きもいずれ更新します。お待ちください。 直樹のイラスト、描いてもらいました。

先輩たちの心の声に翻弄されています!

七瀬
BL
人と関わるのが少し苦手な高校1年生・綾瀬遙真(あやせとうま)。 ある日、食堂へ向かう人混みの中で先輩にぶつかった瞬間──彼は「触れた相手の心の声」が聞こえるようになった。 最初に声を拾ってしまったのは、対照的な二人の先輩。 乱暴そうな俺様ヤンキー・不破春樹(ふわはるき)と、爽やかで優しい王子様・橘司(たちばなつかさ)。 見せる顔と心の声の落差に戸惑う遙真。けれど、彼らはなぜか遙真に強い関心を示しはじめる。 **** 三作目の投稿になります。三角関係の学園BLですが、なるべくみんなを幸せにして終わりますのでご安心ください。 ご感想・ご指摘など気軽にコメントいただけると嬉しいです‼️

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

「溺愛ビギナー」◆幼馴染みで相方。ずっと片想いしてたのに――まさかの溺愛宣言!◆

星井 悠里
BL
幼稚園からの幼馴染みで、今は二人組アーティストとして活躍する蒼紫と涼。 女の子にモテまくる完璧イケメン・蒼紫。 涼の秘密は――蒼紫が初恋で、今もずっと好きだということ。 仕事は順調。友情も壊したくない。 だから涼はこの気持ちを胸にしまい込んで、「いつか忘れる」って思っていた。 でも、本番前の楽屋で二人きり。あることをきっかけに急接近。 蒼紫の真顔、低い声、近づいてくる気配。 「涼、オレ……」 蒼紫から飛び出したのは、涼が夢にも思わなかった、びっくり大告白♥だった✨

処理中です...